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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
勇者と薬売り

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全部一緒だったらよかったのに

◇◇◇

 

「予言書によると、且つて魔王と共に命を落とした勇者様は7年前に転生されているようじゃ」


 80を超える老人は古代文字で書かれた本を閉じてそう言った。


 老人は大賢者ゼル。


 時は8年前、カカポ村が滅ぶよりも少し前。


 

 当時20代後半のナシュアは小指で耳掃除をしながら白い目で老人を見る。


「じゃあ探せよ。何で7年放置してんだよ、ジジイ」


「ナシュアお前その小指をどうするつもりだ?」


「どうもこうもねぇよ。細かい事気にすんな」


「……ゴホン。とにかく、今はまだ探せんのだ。力の顕現も無い以上場所も何もわからん」


「使えん予言書だな。場所くらいはっきり書いとけや」


「はっきり書いてそれが魔物に渡ったらどうする?」


 ゼルの指摘を聞いて不服そうに眉を顰めると、小指をテーブルクロスに擦り付ける。


「おい、やめろと言っとるだろ」



「四天王とやらも全く姿を現さねぇし、どうなってんだよ。まさか奴ら俺が怖くて死ぬの待ってんじゃねぇの?」


「……自惚れるな、馬鹿者。確かに、お前は強いかもしれんが、強すぎる」


 ナシュアはにっこりと優しくほほ笑むとゼルの肩にタオルを掛ける。


「お爺ちゃん、そろそろお迎えか?わけわかんねぇ事言っちゃって」


「黙れ!強すぎるが故に、常に弱い者いじめになっとるんじゃ。真の強者と命のやり取りを行ったことがない。それが貴様の弱さじゃ」


 ナシュアは大きくため息を吐く。


「それ、全然俺のせいじゃねぇんですけど」


 場所は荘厳な城の一室、大賢者ゼルに与えられた書斎の一角。


 ゼルは手の予言書を見せるように持ち、パンと叩く。


「とにかく、この一年余りが人類の存亡の際ぞ!一刻も早く転生された勇者様を庇護するんじゃ」


◇◇◇


 空は雲一つ無いいい天気。


 知恵の樹で借りた本の貸出期日があるはあるが、だからと言って十日間ずっと本を読んでいると言うのもどうにも釣り合いが悪いと感じ、今日は近くの森に採集にやってきた。


「シロウ、これは?」


「それは毒草だな。薬にも使えるから入れといて」


「オッケー。ど、く、そ、うっと」


 本来この街のギルドに登録していない俺にはこの森で採集をする権利は無いのだが、そこは偉大なる勇者様の御威光と言うことで一日限りで許可を得る事に成功した。


 所変われば草変わる。


 俺のホームグラウンドのトルイの森とは自生している植物の種類が微妙に異なる。


「シロウー、キノコ見つけた~」


 イズミが何やら黒ずんだキノコを見つける。


 動物図鑑で見たことがある。


「臭いは?」


 イズミはキノコの臭いをかぐと眉を顰める。


「臭い……って言うか、何か独特な臭いがする」


「あぁ、本当にそうなんか。それ糞だな。オブリアノシシの糞。キノコとよく間違えるって図鑑に載ってた」


「早く言えばかぁ!」


 イズミはその全膂力を以て糞を遠くに放り投げる。


 糞は空気抵抗に耐え切れず空中でチリとなる。


「集え!集え!集えっ!」


 無駄に勢いよく水魔法を展開して、ゴシゴシと手を洗う勇者。


「その独特のにおいから、隠し味として使用する地域もあるらしいぞ?図鑑で見た」


 洗った手をハクに臭いをかがせて、ようやく落ち着いたイズミは朽ち木の上に腰かける。


「……もう今日は草取りしない」


「おつかれさーん」



 何にせよ、少し元気が出たようで何よりだと思う。

 

 

 できるだけトルイの森には生えていない植物を優先して採集する。


 あと何日かしたらきっとまたイズミは忙しく世界を飛び回る事になるんだろうな、と思うと子供の頃みたいなこんなゆったりした時間はしばらく無いんだろうなぁと少し寂しくなる。


 全然関係ない事を急に思いついてイズミを振り返る。


「なぁ、イズミって風魔法が得意なの?」


「うん、得意だと思う」


「火は?」


「使えるよ。治癒以外はそれなりに満遍なく使える」


 俺は採集を止め、腕を組むとブツブツ呟きながら考える。


「……水はさっき使えるのを見てるだろ?じゃあ例えばそれを……」



「同時には使える?」


 イズミはコクリと頷いた。


「うん、ある程度だけどね」


「……ちょっと試してほしいんだけど」

 俺がそう言うと、イズミはワクワクした様子で笑う。

「何だろ」


◇◇◇


 ――俺の考えたのはこうだ。


 ①風魔法で二層の球体を作る。「できるよ」


 ②その中に水を入れる。「簡単」


 ③下処理をした薬草を水に入れる。「それはシロウお願いね」


 ④二層の球の間で炎を起こし、球体を閉じる。「……んー、あ、できる」


 完成である。



 宙に浮かぶ球体の中では、下処理を終えた薬草がグツグツと煮たてられている。


魔道式真空二層釜だ。


「おおー、すげぇ。難しい?」


「慣れればそんなに。カルラ辺りに頼めば全部合わせた術式にしてくれるんじゃない?そうすればもっと簡単になると思うけど」


「マジか。俺でもできるかな?」


「一つの術になってればできるんじゃない?知らないけど。頼もうか?」


「あ、じゃあ……」


 と考えて言葉を飲み込む。


「俺、頼みに行くわ。忙しいかな?」


 イズミはクスリと笑う。


「多分、暇。あの子あんまり外出たがらないから」


「よし、じゃあ夜手土産もってお伺いしようぜ」


「さっきのキノコなんていいんじゃない?」


「……糞な。意外に喜びそうなのが怖いが」



 ガサリと離れた繁みの音にイズミが気付く。


 大型で毛深い四つ足の獣、オブリアノシシだろう。


 薬草を似ている匂いに寄って来たのか?いや、糞があるくらいだから元々通り道なのだろう。


 オブリアノシシはこの国の定義では魔物ではなく動物だ。


 国によって差はあるが、概ね『魔力を持ち』『人を捕食する』ものを魔物と定義している。


 オブリアノシシも人を襲うことがあるが、それは繁殖期の一時期や巣穴を荒らすなど相手の縄張りを侵した時がほとんどだ。


 オブリアノシシは周囲を警戒した後で繁みから身体を出し、その後ろには小さな個体が3匹続いた。


「子供だ、かわいい」


 それを見てイズミはクスリとほほ笑む。

 

 親が繁みから出て、またその少し先の繁みに入ると、子供たちも急ぎ足に親の後を追った。


「あの子達は動物?」


「だな」


 子供たちも全部繁みに消えると、イズミは少し寂しそうにぼそりとつぶやいた。


「……全部一緒だったらよかったのにね」


 その真意はわからなかったが、安易に頷く事もできなかった。






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