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資格停止

――ギルドの一室。

 俺はギルド長に聴聞という名の尋問を受けている。

「それで?君がやったって?一人で?どうやって?今やってみてくれません?」


 問題になる前にギルドに報告を入れたものの、全く納得をしてもらえずに尋問が始まってしまった。当然、トルイの森の薬草乱獲事件の事だ。いや、事件でなく事案か。どっちでもいいか。


「いや……、一心不乱にむしってたら……いつの間にか」


 ギルド長は40代中頃くらいの中年の男だ。

 荒くれもの揃いのギルドには不釣り合いなきっちりと髪を分けた眼鏡の男性。ギルド長は神経質そうに机を指でトントンと叩きながら、俺への質問を続ける。


「君、いくつでしたっけ?」

 ニコニコと人当りのよさそうな笑顔を俺に向けるギルド長。キッチリと7:3に分けた髪に眼鏡を掛け、細身にスーツと言うおよそギルドとは似つかわしくない姿。丁寧な物腰ながら、その眼鏡の奥の眼光は猜疑心に満ち、獣のように鋭い。顔は笑顔だが、目は全く笑っていないタイプだ。


「じゅ……15っす」

「若いっていいですねぇ。私は今年で41になります。ところで、人は何歳からおじさんになると思いますか?」


 質問の意図が分からずやや困惑する。彼の歳より上に言えばいいのか、下に言えば良いのか。数秒考えていると、時間切れとばかりに彼はニコニコと言葉を続ける。


「うちの姪っ子曰く26歳からだそうです。判定厳しすぎません?あぁ、うちの姪っ子まだ8歳なんだけですけどね。かわいくてかわいくて。あ、写真見ます?」


 机に置いた写真立てを見せてくる。


「話が逸れましたね。つまり、……何が言いたいかと言いますと」


 ギルド長はニコニコとした顔から打って変わって、爬虫類が獲物を狙う様な冷たい目で俺を見た。口元は笑っているのがより異質さを強調させられた。


「そんな見え透いた嘘が君の3倍近く生きてるおじさんに通ると思ってんのかって話ですよ。……答えなさい」


 淡々と、抑えた音量ながら、威圧感を隠さないギルド長の言葉に俺の足はガタガタと震え出した。まるで8年前の様に、命の危険すら感じた。


「いっ……」

 ――イズミがやりました。

 なんて言えるはずがないだろう。

「言えませんっ!」


 俺は震える足と歯と身体をもう気にしないで、涙目のままギルド長をキッと見る。8年前のあの日、イズミに守られた俺がどうしてイズミを売る事ができるだろうか。


 命まで取られる事は無い。……多分。

 ギルド長は呆れた様にため息をつき、眼鏡を拭く。


「言えないならしょうがないですね。資格停止2週間。明日からね」


 ニコリと笑うギルド長に深々と頭を下げる。


「あざっす!」

 これはかなり寛大な措置だと思う。

「ご迷惑をおかけしました!」

 

 扉の前で頭を下げて部屋を出ようとすると、ギルド長は言った。


「まぁ、本当の事ももう聞いてますけどね。若いっていいですねぇ」

「え」

 固まる俺にシッシッと手を払うギルド長。

「早く行ってください。罰重くしますよ?」

「はいっ!」

 

 そして、なるべく人目に付かないように急いでギルドを出る。『資格停止2週間 シロウ・ホムラ 入会権の濫用による薬草の乱獲』と、掲示板に張り出される前に逃げ出さなければならないからだ。


 二週間の資格停止。

 その間は森に入れないし、販売もできない。

 でもまあ、二週間くらいなら蓄えもあるし、大丈夫だろう。


 ――休暇ってことにしとこう。


 そう割り切って、俺は釜に火を入れた。

 今日いっぱいはギルドへの納品もOK。せめてそれまでは働くか。


 イズミが褒めてくれた配合に戻しつつ、もう一つはちょっと冒険してみるか……。

 よし、追い薬草だ。


 などと考えていると、玄関のドアがゴンゴンとノックされた。


 ドアを開けるとイズミだった。汗だくで、息を切らせて笑顔で軽く手をあげ俺に挨拶をする。


「……あはは、ただいま。昼間はごめんね、大丈夫だった?」

「ただいまって、ここはイズミの家じゃないでしょうが」


 不粋なツッコミをする神獣のハク。白蛇。


「まぁまぁ、細かい事はいいじゃん。あっ、これ約束のお土産」

 イズミは古びた書物を一冊手渡してくる。

「……これは?」

「うん、お土産。遺跡の中で見つけたから貰って来たの。読んでないけど調合とか薬の本らしいからシロウにいいかなーって」


 パラパラとめくってみるが、遺跡の中にあったと言う事でわかるように案の定古代文字だ。だが、せっかくお土産としてくれたのだからそんな野暮はいいだろう。


「あんがと」

「明日の昼から幻獣探索だよー。戻らないとジーオが怒るよ~」


 予定が詰まっている中で強行的に戻って来た事が、ハクの急かしからもうかがえる。


「えっ……あー、もう!知ってるっては!全力で急げば朝一で出ても間に合うもん。ねぇ、部屋空いてるよね?泊っていっていいよね?」


 泊まる!?と、考えて今日中にギルドに納品しなきゃいけない事を思い出した。


 と言うか、釜に火をかけっぱなしだ。


「だめ。ちょっと今日忙しい」


 ポーションをギルドにもっていかなきゃならないし。何となく、イズミにポーションの制作者だと知られたくないし。


「えぇっ!?」

 何故かハクも驚く。

「こらこら、草とり。お前風情がイズミの誘いを断るなんて何様なんだよ」

「ちょっとハク?!別に私何も誘ってないじゃん!ただ宿取る暇が無かったから……」


 ん、今また白蛇野郎が薬草採りを馬鹿にしたぞ?


「わかった、じゃあ宿取りいこう。準備するから一旦出てくれる?」


「あっ、そうか……、昼間の事まだ怒ってる!?ごめんってば」


「いや、怒ってないよ?明日からは少し暇だからさ、今日の所はなんとかお引き取りを……」


 ハクが閃いた様に大きな声を出す。


「わかった!頑なに玄関先から中に入れない理由……女を連れ込んでるんだ!」


「えええっ!?」


「よーし、わかった。家の中見たら宿取り行くぞ。工房は企業秘密だから絶対に入るなよ」


「つまり、工房が怪しいよ、イズミ」


「いいぞ、釜茹でにして出汁(だし)とってやる白蛇野郎」


「喧嘩しないでよ~……」


 俺と白蛇のハクの口論を困り顔で宥めるイズミ。



 薬草もまだ煮詰めている段階なので、まぁ見られてもきっと問題は無いだろう。

 あれだな、納品を間に合うかどうか考えているから気を揉むんだ。


 2週間の無給休暇と割り切ればいい。


「うちに泊めはしないけど、飯くらいは食おうぜ。火消してくるから待ってろ」


 イズミは嬉しそうに頷く。


「うん!」


「……いいの?中確かめなくて」


 蛇、黙れ。


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