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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
勇者と薬売り

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知恵の樹

◇◇◇


「シロウはどこか行きたいところないの?」


 多忙なる勇者様の休暇、二日目。


 朝早くに高級弁当持参でまたまたイズミはやってきた。


「そんな事急に言われてもなぁ」


「じゃあお弁当食べながら考えよう。どこでもいいよ。何なら今から王様の寝室にだって忍び込めるし」


「……王様の寝室」


 何となく淫靡な響きを感じてしまい、それは白蛇に伝わってしまう。


「イズミ。何か変な事考えてるよ、絶対」


「えっ!?べっ、別にやましい意味なはずないでしょ!?ジーオのお父さんよ?」


「あー、そうなるのか。つーか、すげぇよな。次期国王自ら魔王討伐の旅に出てるなんて」


 見るからに高級そうなパンに挟まれたサンドイッチをほおばりながらイズミも頷く。



「うん、ジーオは本当にすごいと思うよ。責任感もあるし、頭もいいし」


「カッコいいしね。王子様みたいに」


 白蛇も口を挟む。


「……みたいにっつーか、王子様そのものだろうが」


 少しむっとして答える俺を見て、嬉しそうに笑う白蛇のハク。


「あれ?嫉妬かな?ははは、なっまいき~」


「イズミ、行きたいところ見つかったわ。こいつ封印とか出来るとこ無い?」


「何だとこの罰当たりめ」


「うーん……、ハククラスの神獣だと……、オーロの大穴とかじゃないと難しいかもね」


 牛乳を飲みながら真面目に考察をする勇者様を白い目で見るハク。



「ちょっと、イズミ。バカに余計な知識を与えるのやめてくれる?」


「よーし、決定。そこに行こうぜ。……ってのはまぁ今は冗談として、図書館行きたいんだけど、お勧めある?古代文字とか古文書とかそれ系が豊富なとこ」


「任せて、良いところあるよ」



◇◇◇


「ははは、珍しいね。イズミの方から僕に会いに来てくれるなんて」


 太陽が差し込む神殿の様な大浴場で朝から風呂に入っていたジーオは太陽の様に爽やかに微笑んだ。


 朝稽古が終わり湯浴みをするジーオには、数人の侍女が(はべ)っていて、それを白い目で見るイズミ。


「……私あなたのこう言うところほんっと、嫌い」


 それを聞いてジーオも困った顔をする。


「そうは言うけど、彼女達の仕事を奪うわけにはいかないからなぁ」


 ジーオの傍らで黒蛇が湯に浸かりながらイズミを睨みつけている。


「勝手に押し入って来ておいて文句を言うなんて育ちの悪さが現れているわね。親の顔が――」


「ノワ」


 ニコニコと微笑みながら柔和な声で、だがはっきりとノワの言葉を遮り、言葉を続けるジーオ。


「それはダメだ」


 ジーオに窘められてシュンと大人しくなるノワ。


「……ごめんなさい、ジーオ」


 ノワにニコリと微笑んだ後で俺を見る。


「シロウくん……だったね。もしよかったら君も入っていくかい?」


「えっ」


 思わずジーオの傍らに侍る薄着の侍女たちに目が行くが、間髪入れずイズミが断りを入れる。


「シロウが入る訳ないじゃん。何言ってんの、本当」


 あ、そうなんだ。俺入る訳ないんだ?初めて知ったよ、はは。


「そうか、それは失礼したね。お風呂に入りに来たんじゃないなら何の用かな?」


 イズミは巨大な浴槽に浸かるジーオを見下ろしながら手を伸ばす。


「シロウが図書館行きたいんだって。鍵貸してよ」


 ジーオはきょとんと驚いた顔をした後で、ニコリと笑う。


「大浴場より図書館が優先か。勿論構わないよ、着替えるから少し待ってて。案内するよ」


 キラキラと水しぶきを上げてジーオが立ち上がり、侍女達が即座にその身体を拭きガウンを着せる。


 それをみてイズミはやはり眉を顰める。


「あれ?聞こえなかった?鍵だけ貸してくれればいいんだけど?」


「それはお断りだ。僕だって君の友人と親しくなりたいのさ。それに、薬学にせよ植物学にせよ僕もいた方が少しは役立つと思うけど?」


 特に嫌みな訳でもなく、完全に善意なのだろう事は俺にも分かるし、きっとイズミも分かっている。


 イズミはチラリと俺を見る。


「……シロウはどう思う?」


「ん?頼んでる態度じゃないよなぁ、って」


「……そんなことは聞いてないわ」


 それを聞いて笑うジーオの着替えはもう終わっていた。


「それじゃ行こうか」


「つーか、どこの図書館いくんすか?」


「イズミから何も聞いていないのかい?この世に生まれた文字の全てを集めたと言っても過言ではない、世界最大にして最古の書物庫……通称『知恵の樹』さ」


 ちょっとした調べ物のつもりが、中々ご大層なことになってきたぞ。




◇◇◇


 大浴場は城の最上部に位置しており、そこからグルグルと階段を下りていく。


 一階に降りたところで魔導施錠された扉があり、ジーオが手をかざすと扉が開く。


 俺はイズミを見る。


「お前さっき鍵だけ貸してって、まさか手だけ……」


「そんな訳無いでしょ」


「はは、そうだね。一応重要機密だからそれ以上は言わないけどね」


 扉を入り、地下に降りる。


 途中にもう二つ同じような扉があり、ジーオがそれを開ける。


 二つ目の扉を開けると魔法陣のみの小部屋だった。


「それじゃ、行くよ」


 三人と二匹が小部屋に入るとジーオはそう言い、魔法陣を起動する。



 次の瞬間、俺の目の前に現れたのは見渡す限りの本の山。


 いや、森の方が印象が近いかもしれない。


 いつの時代の物かわからない本棚の壁が、まるで木の根の様に曲がりくねりながら連なっている。


 天井は高く、明らかに城の地下では無い事だけがわかる。


 口を開けて見上げる俺をイズミはクスリと笑った。



「私も最初そうなったよ」


 本棚は曲がりくねりながらどこまでも続き、果ては見えない。


 ジーオは誇らしげに微笑む。


「どうだい?」


「いやー……、すげぇ……って言うか、すごすぎてよくわかんねぇっす」



 その答えはジーオを満足させるものだった様だった。


「わからない事を認められるのは成長の第一歩だと思うよ。『凡人は不知に気付かず、俗人は不知を認めぬ』って事さ」


「……それもわかんねぇっすね」


 キョロキョロと周りを見渡し、適当に一冊取り開いてみると150年前の絵本だった。


 悪さを働く悪い鬼を倒す英雄のお話。


「さて、これだけ本があって――」


 ジーオの言葉を遮り、文字通りジーオを押しのけてイズミが口を開く。


「ねぇ、シロウ!これだけたくさん本があって、どうやって目当ての本を探すと思う?」


 黒蛇のノワが『雌猿』と呟くが、イズミは気にしない。


「え?えー……、魔法とか?」


 そう答えるとイズミはムスッとして口を尖らせる。


「もうっ、なんでわかるのよ」


 いや、わかるっつーか物理じゃ無理だろうから消去法で魔法だろ。


「例えばね……」


 イズミは得意げに手のひらをかざす。


「勇者、シロウ、ホムラ」


 シン、と何も起こらない。


 イズミは首を傾げる。


「あれ?」


 イズミのしぐさを見てクスリと笑うジーオ。


「該当無しだね。『勇者・イズミ・美貌』」


 ジーオが手を伸ばしてそう口にすると、伸ばした手の先がポウっと光り、どこからともなく無数の書物が現れた。


「さすが、イズミ。こんなにある」


「私が見せたかったのに!」


 一人で憤慨するイズミを他所に、涼し気な笑顔でジーオは俺を見る。


「失われた古代魔法の一つらしいんだ。今現れた本には全て『勇者イズミの美貌』について書かれた箇所がある」


「……笑顔で馬鹿なこと言わないでよ」


 驚く俺にもう一つジーオは付け加えた。だから、この国では本当の秘密は文字では残さない、と――。





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