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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
勇者と薬売り

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勇者の休暇の過ごし方

◇◇◇


「ほら、シロウ!こっちこっち!」


「あー、ちょっと待てって。あんまり先に行くなよ」


 少し離れた所から楽しそうに俺を呼び、手を振るイズミ。


 

 魔王四天王の一人、『獄殺卿ヴィクリム』を倒して少しの間休暇になったそうなので、『どこか行きたいところあるか?』と聞いたのが間違いだった。


 暗がりから目だけ光る何か魔物の気配とうなり声。


 岩むき出しの洞窟。


 ところどころに落ちている冒険者の装備や、何らかの骨。


 

 そう。俺とイズミはダンジョンに来ている。


「おい!マジで先に行くなっての!闇の隙間から何かが俺を狙ってるんだよ!」


「もう。大丈夫って言ってるでしょ」


「お前はな!」



 何度目かの懇願で、ようやくイズミは俺の近くへと来た。


「しょうがないなぁ。でもシロウが誘ってくれたんだよ?」


「確かに、『どこか行きたいところあるか?』とは聞いたよ?でもまさかダンジョンとは思わないだろ。普段から仕事で来てるだろ、お前。どれだけ仕事中毒なんだよ」


 空中に浮かべる灯り用の炎魔法をパタパタと手で仰ぎながらイズミは笑う。


「だってシロウとは来た事ないじゃん」


「……そりゃそうだけどさ。つーか、ここどこなんだよ。もう攻略済みのところなんだろうな?」


「うん。確か奥の方に変わった植物があったから、いつか連れてきたいなって思ってたの」



「……推奨等級は?」


「赤だっけ?銀だっけ?そんなに高くないよ」


「イズミ……絶対に俺から離れるなよ」


 イズミは何故か少し照れ臭そうに頷いた。


「わかった」



 本能的に力量差を感じてか、イズミがいると魔物は現れない。


 さっきみたいに少し離れただけで、俺を影から狙う息遣いが聞こえたのに、隣を歩く今は全くだ。



「足元気を付けてね」


 何かの白骨死体が所々に転がっていて、壁面から染み出る湧き水が地面を軽く濡らす。


 グッと足に力を入れると、表面の苔がズルリと剥がれバランスを崩す。


「うおっ……」


「シロウ!」


 咄嗟にイズミが差し出した手を掴み事なきを得る。



「あっぶねぇ……」


「気を付けてね、私回復魔法使えないんだから」


「悪い悪い」


 と、そこで手を繋いだままになっていることに気付く。


「あ、手」


 イズミは一瞬考えた後で、にこりと微笑む。


「持っててあげる。怪我したら困るでしょ」


 宙に浮かぶ炎が照らすせいか、少し顔が赤く見えた。


 イズミに手を引かれ、ダンジョンの奥まで進む。



 何となく、子供の頃を思い出した。


 俺とイズミの生まれたカカポ村の外れにあった、ダンジョンと言うにはあまりに狭い洞窟。


 暗いところが怖いというイズミの手を引いて、大人たちにばれないようにしばしば中を探検したものだ。



「……そういえば、昔はお前暗いところ苦手だったよな。今はさすがに平気なのか?」


「うん」


 俺の手を引き、半歩前を歩くイズミは振り返って答える。


「もう慣れたよ」


 慣れた。


 平気と慣れたの言葉の違いを考えてしまい、言葉が止まってしまう。



 チラリと横目で俺の表情を窺って、イズミは言葉を続ける。


「今は平気だよ、シロウがいるもん」


「あ、そうっすか」


「シロウがいれば、魔王城だってきっと平気」


「俺が死ぬわ」


「んー、そっか。なら、もっと強くなってもらわないとねぇ」


 悪戯そうにイズミは笑う。



「あっ、見て。光る苔」


 少し歩いて、前方に光る岩を見つけて声を上げるイズミ。


「あー。その名の通りヒカリゴケだな。あんまり珍しくない。等級で言うと『藍』だな」


 少し残念そうにしゃがんでコケを眺める。


「そっか、シロウと同じか」


「何か嫌な言い方だな」


 って、俺が『藍』って言ったのが悪いのか。


「ねぇ、何で光るの?」


「確か反射だとさ。真っ暗だと光らないはず」


「へぇ、物知りだね」


 そう言うと、イズミはフッと灯り用の炎を吹き消した。


 日の当たらない洞窟の奥には、完全な闇が訪れる。


 隣にいるはずのイズミの姿さえも見えない。


 手を握られているので、そこに伝わる体温だけが辛うじてイズミが隣にいることを知らせる。


「ほんとだ」


 嬉しそうな声。


 一瞬何のことかと思ったが、ヒカリゴケの事だと思い至る。


「だろ。ホタルとかと違って自分で光ってる訳じゃないからな。光が全くないと光らないんだよ」


「……そっか」


 そのまま暫く暗闇の中で沈黙が流れる。


 瞼を閉じても開いても、変わらない闇の中。



「昔は全然物知りじゃなかったのにね」


「まぁな。爺ちゃんが教えてくれたから」


 灯り点けるね、と断りを入れてからイズミはゆっくり小さな灯りを灯した。


 最初はほんの火種程度の小さな火だったが、真っ暗闇に慣れた俺の目には真昼の様に明るく映った。


 ヒカリゴケは、炎を反射してうすぼんやりと光出す。


「ほら、光っただろ」


 そう言って、イズミの顔を見ると頬が濡れている事に気が付いた。


「ほんとだ」


 俺の視線に当然気が付いて、目元を拭いながらまたヒカリゴケを眺めるイズミ。



 どうかしたか?と聞くのも野暮だと思ったので、何も聞かずに暫くヒカリゴケの蘊蓄(うんちく)を語っているとイズミは立ち上がり俺の手を引いた。


「奥、行こうか」


 半分忘れかけていたが、この洞窟に来た目的はイズミが俺に見せたい植物があるという事だったっけ。




◇◇◇


 それからお弁当休憩を挟んで2時間程歩くと、イズミは思い出したように声を上げた。


「あっ、もうすぐだよ。この先の大空洞にあったんだ。日が当たらないのに、まるで地上の植物みたいにきれいな花をつける樹が!花も綺麗で、形もかわいくてね……」


 いつもより3割増しくらいの高いテンションで、やや早歩きになり俺の手を引く勇者イズミ。


 俺も転ばないように歩調を合わせる。


 狭い通路を抜けて、通路の先の広い空間がわかる。



 そして、大空洞に出る。


 樹は折れていた。


「嘘……」


 イズミはポカンと立ち尽くす。


 近づいて樹を眺めると、焦げ痕や大きな爪痕があり、幹の真ん中あたりからベキッと真っ二つに折れてしまっている。


 爪痕は魔物だとして、焦げ痕は恐らく魔法の痕か?


 想像になってしまうが、この大空洞で大型の魔物と冒険者の戦闘があったのだろう。


 その余波で、この不思議な樹は折れてしまったのだろう。どっちが勝ったかはわからないが、死骸が残っていないことを考えると、魔物が勝ったのだろう。



 イズミは樹に近づくとぽろぽろと涙を流し始めてしまった。


「……シロウに見せたかったのに」


「何十年後かはわからないけど、見られるかもな」


「え……?」



 俺は折れた根本の方を指さす。


「ほれ、これ」


 折れた幹から、一本だけ若枝が伸びている。



「……すごい」


 俺はまるで自分が褒められたように、誇らしげな気持になる。


「まぁ、何十年かかるかわからないけどな。いつかまた見に来ようぜ」


 イズミは勢いよく何度か頷いた。


「うん!一緒に……連れてきてね」


 イズミはすっと小指を伸ばす。


「約束ね」


 まるで、子供のようなおまじない。


「おう」



◇◇◇


 折れた樹の近くに座り、おやつタイム。


 イズミは言い辛そうに口を開く。


「四天王はさ、逃がしちゃったんだ。すぐ戦ってれば倒せたかもしれないのに、私が躊躇ったせいで逃がしちゃったんだ」


 何となく、今日はこれを俺に伝えたかったのだなとすぐに分かった。


「なんで躊躇したんだ?」


「魔王の封印って言うのがあってね。約400年前に、当時の勇者達が魔王と四天王に施したんだって」


 曰く、四天王それぞれに魔王を封じる封印がされており、四天王全員を倒すと魔王の力が開放されるとの事だ。


「要するに……四天王を全員倒すと、魔王がフルパワーで復活するってわけか」


 イズミは無言で頷いた。


「確かに……効率で言えば、四天王を残したまま魔王を倒すのが一番いいんだろうけど……」


 本来部外者の俺が言うような事でも無い。


 だが、自惚れで無くイズミは『幼馴染として』の俺の言葉を求めていると思う。


「イズミは一人じゃないだろ。ナシュアさんだって、カルラだって、ジーオさんだっている。絶対に大丈夫だ」


 イズミは少し微笑んだ後で、力強く一度頷いた。


「シロウもいるしね」


「それは、まぁ置いといて」



「私、頑張るね。もう負けないから」


「おう。俺も頑張る」



 勇者イズミと、俺の休日。


 ほんの少しでも、背中を押せただろうか?

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