勇者イズミの帰還
◇◇◇
その夜、王都クアトリアでは盛大なセレモニーが行われた。
勇者イズミ達『四極天』が、魔王四天王の一人『獄殺卿ヴィクリム』を退けた事を受けてのセレモニーだ。
夜にも関わらず、沢山の人達がイズミ達の活躍を喜び、城の前の広場はお祭り騒ぎの様相を呈していた。
広場を見下ろす城のバルコニーには、ジーオの父である現国王とイズミ達四極天が席を構えており、沢山の豪勢な料理と希少且つ高価なお酒が並んでいた。
高価な酒を浴びるように飲み、最上級の料理を貪るナシュアとは対照的に、イズミはバルコニーの端で頬杖を突いてため息を吐く。
ナシュアとカルラは酒を飲み、大声で笑っている。
ジーオは国のお偉方と歓談している。
「……何にも状況は変わって無いのに」
ぼそりと呟くイズミを窘めるハク。
「皆不安なんだよ。たまには目に見える成果を感じて安心したいのさ」
ハクの言葉が随分楽観的に聞こえて、少し苛立ちを感じてしまう。
「だから何の成果も無いって言ってるじゃない。私の覚悟が決まって無かったせいで……」
「その話は今はやめとこうよ。折角の宴を楽しんだらいいと思うんだけど」
「楽しめるわけないでしょ」
イズミは立ち上がる。
「帰る」
「えぇっ!?主役だよ!?」
驚くハクには返事をせずにカルラに声を掛ける。
「カルラ―、帰る」
「はーい、お疲れ~」
既に大分出来上がっているカルラは酒の入ったグラスを持ちながら手を振るので、酒が辺りに飛び散る。
「ジーオ、帰るね。人いっぱいいるの苦手なんだ」
ジーオはニコリと爽やかに微笑む。
「あぁ。獄殺卿の動向を含めてまた方針が決まったら連絡するよ。少しの間だけどゆっくり休むといい」
「うん、ありがと。またね」
「あっ、イズミ」
立ち去ろうとするイズミを引き留めるジーオ。聞くか聞くまいか少し考えた後で、口を開く。
「……村の因縁は晴れたかい?」
イズミは寂しそうに笑い首を横に振る。
「ううん、まだ」
◇◇◇
カルラの移動魔法陣によって、シロウの街のギルドへと着く。
キィと音を立てて魔法陣のある部屋の扉を開け、すぐ隣のギルド長室を覗くとギルド長はそれに気づく。
「おや、イズミさん。おかえりなさい。お疲れ様」
「そっちこそ。遅くまでお疲れ様」
ギルド入り口の方を指差して困った顔で微笑む。
「人、いっぱいいる?」
「それはもう。勇者イズミが四天王を撃破した、とどんちゃん騒ぎですよ」
イズミは困った顔のまま部屋に入ると、椅子に座りため息を吐く。
「むー、そっか。それが嫌で王都から逃げてきたんだけどなぁ」
ギルド長は苦笑する。
「お疲れ様でございます、としか言えませんね。よければ変装くらいはお貸しできますよ」
「ありがと」
◇◇◇
ゴンゴンとドアをノックする音がしたので、イズミだろうと思いドアを開けると案の定イズミだった。
「これはこれは勇者様。こんな夜更けに何の御用ですか?」
先の折れた黒いとんがり帽子と、埃をかぶった年代物のローブを纏い首にはマフラーを巻き口元まで隠しているが、まぁ変装のつもりなのだろう。
幅広な帽子のつばとマフラーの隙間から見える目が一瞬まん丸くなるのが見えた。
「一応、変装のつもりなんだけど」
「あぁ、知ってる。有名人も大変だよな。おかげでそのレアな格好が見られたわけっすか」
物珍し気にニヤニヤ眺めていると、古びたローブから似つかわしくない綺麗な布包みを取り出し、ズイっと俺に突きつけてくる。
「お城から料理貰って来た。一緒に食べよ」
「え、いいんすか。今お茶淹れますんでどうぞどうぞ」
お城からの料理と言うワードに期待感は高まる。
うちのお茶でつり合いが取れるのだろうか?
「いつもは邪険にするくせに、手土産があるとすぐこれだよ」
白蛇のハクの嫌味が聞こえたが気にしない。
「ふふ、じゃあ今度から毎回料理貰ってこようかな」
◇◇◇
「かんぱーい」
酒を飲ませる訳にはいかないので、やはりと言うかポーションで乾杯をする。
テーブルには、包まれていた綺麗な布をテーブルクロスにして包まれていた4段の重箱が並んでいる。
「おおおぉ」
所狭しと重箱に敷き詰められた料理達。その半分以上は名前もわからない。
よく見ると、布と重箱が既に相当高級そうな事に気が付く。
「お腹空いちゃった。食べよ」
「お、おう!いただこうぜ!……つーか、お腹空いたってお前食べて来てないのかよ。まさか持って帰ってくる為になんて言わないよな?」
「うん。人一杯だし、偉い人ばっかりで落ち着かないもん」
「なるほど、幸いここには偉い人いないしな」
「そう言う意味じゃないってば」
エビフライを食べる。
あっ、旨い。
おそらくこの重箱自体に何等かの魔術が施されていて、まるで出来立てのような温度とサクサク感。
「うめぇ」
「おいしいね」
「ケガ、しなかったか?」
「うん。お陰様で」
「そりゃ何よりだ。あっ、思い出した。食事代!帰ってきたら返す約束だろ」
ハクがエビの尻尾を食べながら呆れ顔で俺を見る。
「……えー?その何百倍もする料理食べながら今言うかい、それ」
「それはそれだろ。土産は土産、約束は約束」
イズミは少し嬉しそうに懐からピッタリの金額を取り出す。
「勿論忘れてないよ?また貸してね」
「ちゃんと返すならな」
尻尾食うのかよと思いハクの前に俺の食べたエビの尻尾を置いてみるが、すごい嫌そうな顔をして尻尾で弾き飛ばされた。
「あっ!てめぇ、ちゃんと後で片づけろよ!」
「人のお皿に食いカス載せるなんてどうかしてるよ、君」
正直イラッときたが飯がまずくなるので気にするのをやめよう。
「あー、ギルドから来たんだろ?人すごかっただろ?」
「みたいだね。私は裏口から出てきちゃったけど」
「顔くらい見せてやればいいのに。みんな超喜んでたぞ?街もすごかったし」
イズミはポーションの入ったグラスを持ち、困った顔をした。
「でもさ、倒した訳じゃないんだよ?」
チラリとハクを見ると、ハクも心配そうな目でイズミを見ている。
「お前さ、『私は勇者なんかじゃない』って言ったよな?」
「……うん」
「でも実際に、お前の活躍で街中の……下手したら国中の、いや世界中の人が勇気を貰った訳だよ」
俺はグイッとお茶を一気に飲む。
「で、思ったんだ。『勇者』ってのは、人に勇気を与えられる奴の事なんだな、ってさ。てことは、お前は~?」
話を向けると、イズミはグラスで口を隠したまま小声で、確認するように呟く。
「……勇者?」
わざとらしくパチンと指を鳴らす。
「はは、だろ?」
四極天、とは言うが人々はやっぱりイズミの活躍に勇気づけられているんだと思ったのは幼馴染の欲目だろうか?
「ならさ」
「おう。何だ?」
イズミはグラスを置き、俺をじっと見つめて微笑む。
「やっぱりシロウも私の勇者だって事だね」
なんだか妙に照れくさい。
「……おだてても何も出ないぞ」
「ふふ、ケチ。お酒出そうよ、お酒」
「はぁ!?出すわけねーだろ。お前は禁酒だよ、禁酒!」
「ケチ」




