君の色は虹の色
◇◇◇
「お願いしやっす」
朝早く、委託販売のポーションをギルドに納品に来る。
朝はギルドに人が少ないからである。荒くれどもの朝は遅い。
今週分は強気に100本にした。余ってしまったら次回から減らせばいい。
出納受付のネイサさんは早朝でもニコニコと感じが良い。
「シロウくん、久しぶり~。お元気そうで何より!」
「うっす、心機一転頑張りまっす」
「……奥にある魔法陣の事は秘密ね?」
ひそひそ声でネイサさんは言うので、当然頷く。
「俺に話し相手がいるとでも?」
ネイサさんは呆れたように笑う。
今回謹慎するまで何年も名前すら知らなかったのだが、気が付けば普通に会話ができるようになった。勿論、『普通に』と言うのは俺基準の話だけど。
俺が渡したポーション瓶を検品して、サラサラと書類を作成してくれる。
最後にポンとギルド印を押印。書類の完成だ。
「それじゃ、確かに。ポーション100本。責任を持って販売させていただきます」
俺はペコリと頭を下げる。
「お願いしまっす」
受け取った書類をなんとなく眺める。
登録者名『シロウ・ホムラ』、職業『薬師』、等級『藍』。
「どうかしました?」
いつもは書類の正誤も確認せず、そのまま受け取り速やかに踵を返すのでネイサさんも首を傾げる。
「イズミは――」
少し口に出すのを憚った。
だが、この際恥を捨てて言葉を続ける。
「――『等級』は何ですか?」
ネイサさんはニコリと笑う。
「『虹』よ」
『等級』は、勿論職業でなく冒険者に対しての格付けだ。
下から順に、白・紫・藍・青・緑・黄・橙・赤、銀・金、白銀……最後に『虹』だ。
この格付けは全国に周知されており、他ギルドや他国で仕事を請け負う際にどの程度の技能・能力があるのかの物差しになる。
等級『赤』以上は単独ギルドでの認定ができず、『虹』に至っては複数の国家元首と、各職業事に個別の実績規程、そして虹等級保持者の推薦が必要になる。
とにかく、イズミは最高等級『虹』の保持者らしい。……と言っても、聞く前から薄々わかってはいたが。
無意識のうちに眉が寄っていたので、元に戻す。
「どうすれば等級が上がりますか?」
ネイサさんはなぜだか嬉しそうにニコニコとしていて、俺が不思議そうに彼女を見ると弁解するように口を開いた。
「あっ、ごめんね?……そう言うの気にしない子だと思ってたから」
「あー、いや。俺個人としては何等級でも食っていければそれでいいんですけども」
「けども?」
また、頭にカルラの顔が浮かぶ。
「俺がしょうもないせいで爺ちゃんとかがバカにされるのは気に入らないんで」
ネイサさんは微笑みながらコクリと頷いた。
「そういうの、男の子っぽくていいわね」
そう言われると急に気恥しくなってくる。
「……子、ってネイサさんもそんなに歳変わらないじゃないっすか」
「ふふふ、それはどうかなぁ」
◇◇◇
ネイサさんによると、等級の高低は『世界への貢献度』で変わるそうだ。
職業により貢献方法は様々であり、薬師の場合だと大きく二つ――。
『どれだけの人を救ったか?』
『どれだけの人を救える薬を作ったか?』
――だ、そうだ。
「えーっと、例えばですけど毒薬を用いて魔物を倒したりとかは?」
「その場合は『調合師』とか『毒師』として申請する方が望ましいですね。実際の実績との乖離が大きいのは公益にも反しますし」
俺は腕を組んで考えうる。
「なるほどっす」
そして、業務外だと言うのにネイサさんを長い時間拘束してしまった事に今更ながら気が付いた。
「あ……、すいません。長々と」
だが、やはりネイサさんは笑顔で首を横に振る。
「いいえ~。これもお仕事のうちですよ」
当たり前なんだけど、そう言われるとほんの少しだけ寂しい気持ちもある。
「ありがとうございました!」
「頑張って!」
深々とお辞儀をして館を出る。
入ったときは1人だったはずなのに、今はなぜか後ろにぴったりともう1人いる。
心霊現象と言うわけでは無い。……イズミである。
「おはよ。すごい偶然だねぇ、ふふふ」
上機嫌にニコニコと俺の後ろをついてくる。
「お疲れさん」
「お金受け取りに来たの?丁度いいね、朝ごはんにしようよ」
「謹慎中だった俺が何のお金を受け取りに来れるんですかねぇ」
「まぁそれは冗談だけど。お金は気にしなくていいよ、私いっぱい持ってるから」
「俺が気にするんだよ」
「別に気にしなくていいのに」
口を尖らせて後をついてくる。
「お前、等級『虹』なんだって?」
「えっ!?……今までそんな事聞いてきたこと無いのに、どうしたの?」
少し慌てた声でイズミは言った。
「別に。俺『藍』だって。下から3番目」
「へぇ、そんな色の等級あるんだ?」
その口ぶりからすると、イズミは『藍』等級を通っていない様子だ。
「……もしかして、最初から『虹』じゃないよな?」
「まさか。そんなはずないじゃん。銀……だっけ?」
銀等級。上から数えて、虹・白銀・金・銀。四番目か。
俺から数えると……六個も上だ。
おっと、いけない。
たった六個だ。
「イズミはさ」
「ん?」
「あれから、カカポ村行ったことあるか?」
あれからというのは、言うまでもなく村が滅んだ八年前だ。
すると、少し困った顔で笑うイズミ。
「無いよ?」
「そっか、じゃあさ。いつか、もう少しお前が落ち着いたら――」
俺の言葉を遮ってイズミは首を横に振る。
「ごめん、違うの。無いの。村は……もう跡形も無いの」
少し驚き、言葉に詰まる。
困った顔で笑ったイズミの気持ちが、少しだけ分かったような気がして、俺も困った顔で笑った。
「そっか。でも、いいよ。じゃあ、いつか魔王を倒したら……一緒に行こうぜ」
イズミはにこりと微笑む。
「うん。約束ね。その時は、私を連れていってね」
――俺がその言葉の違和感に気が付くのは、もう少し後の話だった。
そう言った矢先にグゥ~っとイズミのお腹が鳴る。
「あっ」
「……」
いつの日かの帰郷の約束よりも、まずは朝ご飯が先か。




