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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
勇者と薬売り

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◇◇◇


「ありがと。お守り替わりにするね」


 シロウのギルド資格停止処分が解け、作った塗り薬の小瓶を手に取りイズミはニッコリと笑う。


「そうだな。実際に使う機会なんて無い方がいいに決まってる」


 ペンを取り出してラベルにサラサラと何かを書いている。



 降神歴482年竜月4日、シロウから貰う――。



「ふふ、これでよし」



「きっとこの薬で治る様な傷はイズミの自然治癒で治る方が速いと思うけどね~」


 白蛇のハクが口を挟むが、正直シロウもそれは否定できない。だが、そう言う問題ではないのだ。



「うるせぇな。今はそれが限界なんだよ」


 それを聞いてイズミは嬉しそうに頷きハクにデコピンをする。


「今は、ね。お土産何か欲しいのある?」


「つーか、どこに行くのかも知らねーのに何が欲しいかわかるわけないだろ」


「あ、そっか」



 シロウは少し考えた後で、口を開く。


「次どこ行くんだ?順調なのか?魔王討伐は」


 イズミは目を大きく開き、驚いた顔をする。シロウの方からそれを聞かれた事はなかったのだ。


「うん。少しずつだけど。こないだのユニコーンの角を使って作る『清浄石』って言うのを使って瘴気の谷を越えるんだって。その奥にある城に漸く二人目の四天王がいるらしくて、……きっと、そいつを倒せば」


 そこまで話して俯き言葉を止めるイズミ。そして、そんなイズミを見てシロウは首を傾げる。


「イズミ?」


「イズミ―。止まってる止まってる」


 一人と一匹の呼びかけでハッと我に返るイズミ。


「あ、あはは。何でもない。そろそろ行くね」


「おう」


「一つだけ。ナシュアは私達を発見したって言ったでしょ?」



 四極天の一人、『武の極致』ナシュア。大柄で屈強な戦士であり、二人の生まれ育ったカカポ村が魔物に滅ぼされた後真っ先に救出に来たそうだ。


「気絶してたから全然覚えてないけど、そうらしいな」


「どこで気絶してたかくらいは覚えてる?」


 シロウは頭を捻る。


 だが、思い出せない。


 村を襲う魔物や、建物を焼く炎は断片的に覚えているのだが。


 断片的な記憶の中には、幼いイズミの顔がある。


「……俺かイズミの家?」



 呆れた様に笑うイズミ。


「まぁ、ほぼそのどっちかだもんね。正解は私の家。……私を守ろうとして立ちはだかってくれたんだよ」


「え」


 イズミは照れ臭そうに笑う。


「だから、私にとっての勇者はいつだってシロウなんだよ。あはは、それだけ知っておいて」



 そして、イズミは手を振りハクの口へと消えていった。



◇◇◇


 イズミを送り出し、久し振りの採取に出かける事にする。


 草むしりはいいなぁ、無心になれる。


 草むしって、下ごしらえをして、抽出の間を読書に充てよう。解説書の出来がいいのもあって、簡単な言い回しや構文のものなら調べながら読むことが出来るようになってきた。


 俺クラスの草ムシラーになると、オートで必要な草を選別出来るのでその分を思考に回すことが出来る。


 そうか、俺はイズミの家で気絶していたのか。


 不思議なほどそのあたりの記憶が無いが、心理的外傷だとかそんなものが関係しているのだろうか?


 暗くなると森の奥から魔物が出るというので、その前に街に戻る。


 今日もカゴ一杯になるまで薬草を集めた。久しぶりのしゃがみ仕事は地味に腰に来るな。


 2週間も稼ぎが無かったのだから、今週は頑張って稼がなきゃな。


 何をするに付けて俺に失望したカルラの顔が浮かんでくる。



『謙遜のつもりでも随分つまらない事いうのね。自分の仕事に誇りを持ってないってことだよ』



 ぐぉぉ、正論なのかも知れないが思い返すだけで怒りと苛立ちと何だかわからない感情が絶妙に調合される。

 

 

 彼女の言う通り、俺はきっと……いや、間違いなく薬師を魔道士より下に思ってしまっていたんだ。


 手当にせよ治癒にせよ、魔法で出来るし各段に早いし、コストだって安い。



 草の下処理をしながら首を捻る。


 それなら、薬師は何をすべきなのだろう?


 魔道士や賢者の下位互換で無い、薬師の意義と言うものが無ければならない。


 俺なんかがそんな大それた事――


 と、思ってしまってまたカルラの顔が浮かんだ。


『だっさ』


 実際には言っていないイメージ映像である。


 だが、怒りが沸々と込み上げてくる。



 カルラの呆れ顔にも、俺の卑屈さにも。



 ダン、と包丁に力は入る。


「つっ……!」


 左手の指を少し切ってしまう。


「……やれやれ全く、何やってんだよ本当に」


 イズミに渡した塗り薬の余りを探し、手当をする。


 こんな傷カルラだったら瞬時に治せるんだろうなと思うと、また俺の中のカルラがあきれ顔でため息をつく。


『おっそ』


 大きくため息……否、深呼吸をする。そういえば、治癒は使えないって言ってたっけな。


 一度では足りず、二度、三度。



 下処理をした草を釜で煮て、抽出に移る。



 工房の椅子に座り、火を見ながら古代文字の勉強を始める。


 火の魔法を閉じ込めた『火晶石』で無く、薪で火を焚き釜を茹でる。爺ちゃん曰く、その魔法で出す均一の炎で無く、ムラのある自然の炎の方で作った方がじんわりと柔らかく抽出されるらしい。


 まぁ、迷信やおまじないレベルの古い感傷かもしれないけど。



「そう言えばイズミ――」


 と、本から顔を上げずに声に出して固まる。


 勿論イズミはここにいない。今日また世界を救う旅へと出発した。


 この数日間ずっと目の前に座っていたから、無意識にそこにいるものだと思い声をかけてしまった。


「――は、元気でやってるかなぁ?ははは……」


 俺一人しかいないのに、何かに向かって言い訳の様に言葉を足す。



 そう言えば、で思い出した。


 イズミは俺の作ったポーションを好んで飲んでいる。


 少し調合を変えた爽やかな後口の物だ。


 

 体力回復で飲んでいるわけでも、ケガを治す為に飲んでいるわけでも無いだろう。


 悔しいが、白蛇ハクの言うように今の俺の作る回復薬なんてイズミの自然治癒にすら勝てないだろうに、飲んでいる。


 俺が作っていると知らない様子だったから、幼馴染への忖度として飲んでいるわけではなさそうだ。


 ……と、するとイズミにとってあのポーションにはそう言った実用を超えた何等かの価値がある、と言うわけだ。


 勝手な推測や、見当違いの推理かもしれないけど。


 パンと勢いよく本を閉じる。


 知らないうちに口元には笑みが浮かんでいた。


『私にとっての勇者はいつだってシロウなんだよ』


 俺に気を使っての言葉かも知れない。



 けど、それなら効果は十分だ。


 確かに、俺の心には火が付いたのだから。



 





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