しがない薬師なんで。
◇◇◇
「ポーションとかは作んないんすか?」
「買った方が早いじゃん」
「身も蓋もねぇっす。あ、角粉終わりましたけど次は?」
カルラは古代文字で書かれているだろう石板を取り出し、細目で見る。
「えーっとねぇ。バジリスクの黒焼きと、コカトリスの睾丸を粉にして」
「睾丸」
棚をひっくり返して、黒い消し炭と白い球を手に持ちニコリと笑う。
「さて、どっちをやる?」
シロウは引きつった笑顔で消し炭を指さす。
「……あ、自分黒焼きいいっすか?」
「じゃあ私白いの貸して」
イズミはそういっておろし金と白い球を受け取ると、当然躊躇なくおろし金にかける。
「……ぐおぉ、見てるだけで辛い」
「ん?替わる?」
「……いや、勘弁だ」
「何で?変なの」
「そして、それらを粉にしたものがここに用意してあります」
白と黒の粉末が乗ったお椀をトンとテーブルの上に置く。
「最初から出せよ!」
「ん?もういいの?これおろさなくて」
「うん、いいよ。ただ反応を楽しんでただけだから」
イズミは首を傾げながら削りかけの球とおろし金をカルラに渡す。
「ふーん、よくわかんないけど。楽しかった?」
「うん」
「……魔女の所以を垣間見た」
薄紙を皿に敷いてそれぞれに粉を分ける。
石板を眺めて次の工程を調べている。
「シロウくんは古代文字読めないの?」
「ただのしがない薬売りなんで」
――その言葉が地雷だった。
カルラは、俺の言葉に大きくため息をついて呆れ顔で俺を見る。
「あ、ガッカリ。謙遜のつもりでも随分つまらない事いうのね。自分の仕事に誇りを持ってないってことだよ、それ」
カルラの言葉が一瞬理解できず、固まってしまう。
「カルラ」
イズミが少しムッとしてカルラを制止すると、カルラは先刻までと同様にニコニコと笑顔に変わる。
「あ、あぁごめん。そうだね、生活に困っていなくて趣味や遊びで仕事する事だってあるだろうね。何にでもプロを求めるってのは悪い癖だよね~。えへへ、ごめん」
恥ずかしそうに頭をかいてカルラは謝ってくる。
きっと皮肉でなく、本心で謝っているのだろう。
で、そもそも俺は勘違いをしていたのだ。
彼らは『四極天』と称される程の人物であり、俺は彼らに何かを認められているわけではない。
彼らはイズミの友人として、俺を持て成してくれたに過ぎないのだ。
「でも、もう一つだけいい?魔導士は薬師より偉い?勇者は魔導士より偉い?勇者は子供より偉いのかい?世界を救った子供と、酒を飲んで寝ている勇者はどっちが偉いの?」
恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
何も言えずにただ立ち尽くす。
イズミがカルラの口を塞ごうとするが、カルラが何かの魔法を使っていて近づけない。
「シロウくんのお爺さんは教えてくれなかったのかな?職業に上下は無いんだよ」
道徳の授業で聞くような耳に触りの良い綺麗ごとをにっこりと笑顔でカルラは言う。
俺は何も言い返せない。
「カルラ!」
横でイズミが真面目な顔で怒っていて声を上げる。
そっと左手でカルラとの間の見えない壁に触れると、黒い稲妻のようなものが迸る。
「わかったってば。もう言わないよ、楽しくやろう」
ニッコリと笑うカルラを横目でキッと睨むイズミ。
「やれるわけないでしょ」
「ま、いいけど。帰るならギルドのポータル開くよ」
ショックを受けたからか、帰り道の記憶がなく、気が付いたら、家のベッドで天井を眺めていた。
◇◇◇
ゴウンと轟音をあげて巨大な魔獣の拳が遺跡を砕く。
ジーオはその拳をヒラリと軽くかわし、飛び散る破片の隙間を縫って魔獣へ近づき建物程の大きさの魔獣を両断する。
鞘から抜かれたその剣は、煌びやかな鞘とは対照的に錆びついていた。
両断されたその魔獣は次の瞬間ピンク色の火柱に包まれてピンク色の灰になる。
「……カルラか。早かったね、もう少しゆっくりしててよかったのに」
ピンク色の炎魔法はカルラの専売特許のようで、術者を見もせずにジーオは言う。
「だってさ~、イズミと喧嘩したんだもん。ストレス解消させて~。他にいないの?」
「ははは、魔物さん達もいい迷惑だぜ。みんな~、逃げて~」
おどけて魔物たちに避難を促す真似をするナシュアを無視して、心配そうな顔でカルラを見るジーオ。
「どうかしたのかい?」
「んんー、あの子が薬師って仕事を下に見てたからちょっとね」
それを聞いてジーオも小さくため息を吐く。
「……カルラの悪い癖だよ。誰もがみなその職業に命を懸けているわけじゃないっていつも言っているだろ?」
「だってさ~。あれは色々甘やかされすぎだよ」
「ははは、ひと様の事情は放っておけよ。爺さんが育ててるならきっと平気だろ」
ナシュアはバシバシとカルラの頭を叩こうとするが、障壁により阻まれる。
「ん?知ってるの?物知り爺さん」
「まぁね、俺も昔拾われた口だから」
顎を触りながら得意げに話すナシュアを白い目で見るカルラ。
「……うわー、なにその情報。不安がマシマシなんですけど。イズミ大丈夫なの?イズミの相手は私が納得できる相手じゃないと絶対許さないからね」
「何様だよ、お前」
カルラは岩に座り、大きくため息を吐く。
「ま、とにかくイズミはもうちょっとお休みあげて。あ、清浄石は作ってきたから」
ジーオはニコリと笑う。
「そうだね。僕らも別に疲れていないし、先にすすもうか」
◇◇◇
「シロウ、ご飯買ってきたけど」
暫く経ってもシロウは部屋から出てくる気配が無かった為、イズミはドアをノックする。
返事が無いので、悪いとは思いながら玄関のドアを開ける。
「……シロウー」
小声でシロウを呼びながら部屋を進む。
シロウは工房の机で本を読んでいた。
イズミがお土産に持ってきた古代文字の解説書。
シロウはイズミに気が付くと、少し恥ずかしそうに本を閉じる。
「……勝手に入ってくんなよ」
「ごめん。ご飯買ってきたから」
「何の言い訳にもなってねぇ」
お弁当を机に置き、イズミも腰を下ろす。
「ごめんね、シロウ。今日はカルラが失礼な事を言って」
チラリと様子を窺うようにイズミは言う。
「イズミ、戻ったらカルラさんに伝えてほしいんだ」
「……何?」
「悪いのは爺ちゃんじゃ無くて俺だって。……職に貴賤は無い、なんてのは綺麗ごとだとしてもさ。少なくとも自分の仕事に誇りを持ってないと話にならねぇよ」
イズミはクスリと笑う。
「伝えておく」
「いや、でもショックだったけどな。いい友人持ったよ、お前。友人?合ってる?」
「うん、合ってる」
「次会った時はもうあんなことは言わせねぇから」
「ふふ、伝えとくね」
グ~っとイズミのお腹の音が鳴る。
ハッと恥ずかしそうにお腹を押さえるが、シロウは特に気にしていない様子。
「せっかく買ってきてくれたんだ。食べようぜ」
「うん!私お肉のやつね」
「お好きにどうぞ……」




