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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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帰ろうぜ

◇◇◇


 グニャリと空間が歪み王都クアトリアに魔王たちは降り立つ。


 正確には、王都を見下ろす高台に位置する城の中だ。


「知恵の樹に向かおう」


 傷だらけのジーオがそう言うと、魔王はコクリと頷く。


「あぁ。ところで、……君たちはやっぱり平気なんだな。魔力の多寡が関係しているのか……」


 ぶつぶつ言いながらジーオの肩をポンと叩くと、不意にユラリと姿を消す。


「なっ……」


 次の瞬間、中庭から悲鳴が聞こえる。


「ふむふむ、不随意でこんな感じか。はい、握手」


 倒れる使用人の傍らで魔王はもう一人の使用人の手を触れる。


 使用人は瞬時に身体から生気を失い、どさっと芝生に倒れる。


「んー、もう少し耐性のある人も試したいな」


「……何をしている、ラータ!」


 顔色を失い、怒りに口を震わせながらジーオも中庭に降り立つ。


「何って、権能の確認さ。知恵の樹に入る前にやっておかないとだろ?」


 スッと手を伸ばしてくる手を払い、ラータを睨む。


「……騙したのか?」


「いやいや、違うよ。順番の話だ。確認をした後、知恵の樹に閉じこもるって言ってるんだ。そう難しい事言ってるか?ちょっと今忙しいからまた後で」


「ラータッ!」


 ジーオの制止を聞かずに、その6枚の翼で王都の上空を舞う。


 ヒラリと黒い羽が街に舞い、見上げた民は魔王の姿を目にする。


 ふーっと長く息を吐き出すと、楽しそうに声を上げる。


吸命(ドレイン)、最大出力」


 魔王が長く長く息を吸い込むと、生命力が目に見えるような濃度となり、彼女の口に吸い込まれる。


 眼下では、ばたばたと人が倒れ続ける。


 魔力が弱かったり、抵抗力の低い者から順に次々に倒れ、動かなくなる。


「あはははははっ!すごいすごい!……この力!」


 左目をツッと温かい物が伝う。


 真っ赤な血が左目から流れていた。


 目元を拭うと、黒羽の黒刀を抜く。


「こんな力……、使わずに負けるなんて本当にバカだな!」


 魔王が全力で放った斬撃は、町の中心にある時計台を横一文字に切り裂く。


 時計台は、燃えながら斜めにずれ落ちて、街へと降り注ぐ。


 街は阿鼻叫喚の地獄絵図。


 足元にはたくさんの人々が横たわり、それを踏みつけながらも逃げまどう人々の頭上を、巨大な時計台の影が覆う。


 魔王はその光景を見て、満足そうに天に届かんばかりの高笑いをする。



 そして、人々の上から降り注ぐ瓦礫の雨と時計台。


 それらは激しい音を立てて上空の何かにぶつかり、止まる。


 鬼気迫る表情で、目と鼻から血を流しながらカルラが声を上げる。


「障壁……、全開!早く逃げなさい!」


「ふむふむ、やるねぇー。あ、そうだ。君でも試してみよう」


 障壁に集中していて動けないカルラを、黒翼の魔王が襲う。


 直接吸命(ドレイン)を使おうと手を伸ばし、その手にジーオの戦斧が振り抜かれる。


 ヒラリと回避しながら魔王は楽しそうに笑う。


「引きこもる前に少しは身体動かさないとね」




◇◇◇


 ――地獄かと思った。


 道ばたに横たわる人、それを踏み分け逃げる人、破壊された時計台、燃えさかる街、黒翼の魔王。


 もしかしなくても、それを誰がやったのかはわかった。


 俺は、大きな勘違いをしていた。



 この期に及んでもう時間など無い。これ以上イズミの姿で、身体で、人の命を奪わせることなど許してはならない。


 もう、ほかに選択肢なんて無かったんだ。


「ハク、シアン、ヴィクリム」


 3人は返事をせずに俺を見る。


「……お前らは、長生きだよな?」


 くそっ。


 くそっ!


 くそっ!くそっ!くそっ!


 

 情けなくて目の前の地獄がぼやける。


「……また300年待たせちゃうけど、任せていいか?」


 ハクはポロポロと涙を流しながらシロウに顔を寄せる。


 それが諦めから来るものでは無いとわかっていたから、反対はできなかった。他に手は無いのだ。


「やり方、わかるのかい?」


 シロウは剣を身体の前に持ち、真っ白な刀身を見つめる。


「剣が教えてくれた。……と言っても、俺の魔力と技術だと良いとこ五分五分ってところかな」


「なら、平気ですね」


 シアンはニッコリと笑う。


「もう300年楽しみが増えますなぁ」


 ヴィクリムも顎に触れながら薄笑みを浮かべ、目の前の地獄を眺める。


「サテ、そろそろ行きましょうかね」


 俺はコクリと頷く。


「あぁ。2人は人間の避難補助と警護を頼む。俺は……、魔王を封印する」


「はい!」

「了解でございます」


 ヴィクリムは身軽にヒラリと地獄に踏み入り、シアンは手をかざして声を上げる。


「おいで!ギガンテラ」


 グニャリと空間が歪み、城がまるで砂場の城程の大きさに見えるような超大型の鬼が現れる。


 それと同時に、無数の狼も現れて、牧羊犬の様に人々に吠えて街の外れへと誘導する。


 ギガンテラは障壁で止められている時計台を軽々と脇の広場へと移動する。



「あっちは大丈夫そうだね」


 俺の首の横でハクが言う。


「そうだな。……行こうぜ」


「うん」


 俺の身体は風魔法を纏い、タっと地面を踏み切ると王都上空に浮かぶ黒翼の魔王へと向かった――。


◇◇◇


 身体中傷と火傷だらけで、大きく肩で息をしながらジーオは魔王と相対している。


 ナギオウの右手を以ても、その武器を以ても、完全に封印が解けた魔王には遠く及ばない。


 魔王は薄笑いを浮かべながら左手をグーパーと握っては開く。


「ほらほら、近づかないと当たらないぞ」


 魔王の狙いはジーオ程の実力者に対しての全力直接吸命(ドレイン)だ。


 遠距離は黒翼の焔、中距離は黒羽の黒刀、そして至近距離は直接吸命(ドレイン)。正に死角は無い。



「どいてくれ」


 ジーオの背後からシロウの声がする。


「シロウくん……!?加勢に来て――」


 シロウはジーオを見ず、じっと目の前の幼馴染を見つめながらハクアの剣をヒュンと一振りする。


「どけよ、王子様。あいつは俺の幼馴染だ。……だから、俺がやる」


「1人なんて無茶だ!君は魔王の力をわかってない!」


「1人じゃない」



 ジッと見つめた魔王の目元には、涙の跡の様に薄く血の跡が見えた。


「俺と、イズミでだ」


 地獄の様な王都の上で、黒い炎に照らされてハクアの剣は白く輝いた。


 世界を、民を救う為と言いながら魔王を……イズミを倒すために、結果王都を火の海に変えてしまったジーオには今尚真っすぐにイズミを見据えるシロウは、ハクアの剣よりも眩しく見えた。


 ――あぁ、何故僕は両方救うと言う選択が出来なかったのだろう。


「援護する。邪魔ならそのまま斬ってくれ」


 自己満足か贖罪かはわからない。


 シロウは返事もせず、魔王へと向かう。


「やれやれ面倒くさいのが来たぞ」


 魔王は呆れ笑いでシロウを見る。


 光の属性を持つシロウに触れられると闇の権能たる吸命(ドレイン)や黒翼が発現しなくなってしまうので、力は劣るにせよ注意は必要だ。


 シロウの攻撃自体は極めて単調だ。ハクの風魔法の補助を受けながら高速で移動して、ハクアの剣を振る。


 高速移動とは言え単距離間を瞬間移動の様な速度で移動する魔王は捉えきれない。ジーオも攻撃に割って入るが、直接吸命(ドレイン)を気にして踏み込むことが出来ない。


 或いは、ジーオの腕前でハクアの剣を持っていればもう少し戦いになったのかもしれない。


 爆心鬼ナギオウの使っていた巨大な戦斧を振るうが、その大振りでは魔王の影に触れる事も出来ない。


 魔王は薄笑みを絶やさずに、歴史でも稀な強者達との戦いを楽しんでいる。


 光属性の持ち主、技の極致、そして魔王四天王。既に剣を交えたナシュアを含め、戦闘に関して言えば正に300年を越える人生の集大成とも言える。


 今を逃せば次はいつあるのかはわからない絶好の機会を、知恵の樹に篭る前に最大限楽しみたいのだ。


 自身の勝利は揺るがない。


 その好奇心の前提にはそれがある。



 シロウは剣を構え、ただ愚直に魔王を目指す。


 黒い炎と斬撃に覆われたその一直線の道を、まるで従者の様に愚直に露払いをするジーオ。


 闘牛士よろしくすんでの所で身を躱す魔王。


 そんなやり取りが何合か続けられた後、均衡が崩れた。



 黒刀の斬撃を両手で持った戦斧で受け止めたジーオの右手は四天王の一人ナギオウの腕をラータが繋いだものだ。


 その右手を透明な四角い箱が覆ったかと思うと、次の瞬間箱は弾け割れ、そこには愛刀アマツの異国刀を握った自身の右手があった。


「なっ……!?」


 魔王とジーオの動きが一瞬止まる。


 そのまま落下するナギオウの腕と戦斧をパシッと軽々受け止めてヴィクリムは笑う。



「腕、別に切った訳じゃありませんので。戻しておきました。ウヒヒヒヒ」


「はぁ!?何だそれ」


 黒翼の焔はジーオを襲う。


 チン、と鯉口を切る音がして刀は鞘を離れる。


 蘇った技の極致の右腕は、その錆び付いた刀は焔を、羽を、一閃で火の粉に変える。


 直後、カルラの極大魔法陣が王都の上空に展開される。


 ジーオと切り結んでいた魔王はグニャリと空間を歪め姿を消すと、次の瞬間カルラの背後に現れて勝ち誇った様な薄笑いを浮かべる。


「はい、浅知恵」


 剣を振り上げた魔王を見て、目を閉じ息を吐く。


「そうね」


 カルラの目の前の空間が歪み、シアンとシロウが現れる。


「イズミちゃんをよろしく」


 シアンはシロウの背中をトンと叩くと、カルラと共にその場を離れる。


「っはは、いい小細工だ!」


 構わず魔王はシロウに向けて黒羽の黒刀を振り下ろす。



 その瞬間、シロウの脳裏には走馬燈の様に300年前の記憶が浮かぶ。剣は魔王の胸を刺し、光となって消えていく。


 理由はわからない。


 だが、確信があった。



 黒刀は、止まると――。



 振り下ろされた黒刀はピタリとシロウの頭上で止まる。



「はぁっ!?」



 一瞬身体の自由を奪われた魔王は頓狂な声を上げ、その左目からは涙のように血が流れた。


 シロウは、両手で剣を持つ。


「……ごめんな。また……、会おうな!」


 泣き叫ぶような声で、剣に力を込めてトッと魔王の心臓を貫く。



 血が噴きだし、次の瞬間、勇者と魔王の身体は淡い光に包まれる。


「……ごめんな」


 恨みがましくシロウを睨む魔王の瞳が、ふと一瞬優しげな瞳に変わった気がした。



 そして、光は消えて、魔王の身体はガクッと生気を失う。



「え……」


 剣が見せた、300年前の光景とは異なる現象。


 シロウも、魔王も光にはならなかった。


 それは、封印転生術が発動していない事を意味していた。



「……失敗?」



 泣き叫びたかった。


 動かなくなったイズミが、落ちないようにギュッと抱きしめる。


 どこからともなく歓声があがると、やがてそれは雪崩の様に王都全域に伝播した。


 本当なら、この街の何もかもを壊したかった。


 魔王の悪行が霞むくらい、何百年も語り継がれるように。


 ハクも、シアンも、ヴィクリムも泣かなかった。泣けば、シロウを責める事になるから。


 大歓声の中、魔王の亡骸を抱きかかえた勇者は仲間達の元へと降り立つ。



「ごめん」


 シアンは微笑みながら首を横に振る。


「いえ。……行きましょうか」


 シロウは頷き、そのまま俯いて震える。


「……行きたいところがあるんだ。イズミと2人で」


 動かなくなった幼馴染に向けて呟く。


「……帰ろうぜ」



◇◇◇


 ぐにゃりと空間が歪み、シロウとイズミだけが出てくる。


 一軒だけ燃え残った家が目の前に見える。



「約束、守ったぞ」



 そこは、かつてカカポ村と言う村が在った場所。


 そう言うと、シロウの両目から止め処なく涙が溢れ出す。


「まっ……守らせんじゃねぇよ。こんな約束……」


 泣きじゃくる声は自分ですらうまく聞き取れない。



 かつてイズミと約束をした。――いつか魔王を倒したら、その時は私を連れて行ってね、と。


 一緒に行こう、では無く『連れて行って』と。


 

 私を倒して、髪でも他の何かでも、一緒に連れて行って、と。





 イズミの言うとおり、村なんて無かった。


 9年前、魔物に襲われてからそのままの姿で襲われたまま残っていた。


 父や、母や、幼い頃の自分やイズミを思い出す。


 村は無く、家族ももういない。


 でも、イズミがいた。


 ……もう、イズミはいない。



 シロウは膝を付き、イズミを抱きしめながら声を上げて泣いた。



 ――ピクリと動いた気がした。


「……で」


 気のせいじゃない。


 イズミはゆっくりと手を伸ばすと、弱々しくシロウの背中に手を回す。


「……泣かないで」


 目を疑う。耳を疑う。


 見開いた目で見つめていると、イズミは力なく笑う。


「お化けじゃないよ?」


「……ラータじゃ、ないよな?」


「そのつもりだけど」


 シロウは袖で目をゴシゴシと擦る。


「原理は?」


「知らないよ、そんなの。シロウがやってくれたんじゃないの?」


 封印転生術は失敗したはず。


 シロウの未熟な魔法知識でそれ以上の考察をするのは難しい。


 それでも、一つの仮定をするならば、シロウの放った不完全な転生術は、イズミの中にいたラータに作用したのかもしれない。


 今はまだわからない。あくまでも、仮定の話。


「信じるぞ」


 起きて早々の詰問に疲れた笑顔のイズミ。


「信じてよ」


 シロウは、イズミを強く抱き締め声を上げる。


「ナシュア!ハク!シアン!ヴィクリム!……やったぞ!はははははは」


「あっ、ごめんシロウ。痛い。胸の所、いたたた」


「っと、悪い。ははははは!」


「もう、悪いと思ってる声じゃないんですけど。ふふふ」



 笑い声が響き渡る。


 それは、村に9年振りに響く笑い声――。


 


 

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