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地狱

道に迷っていたとはいえ…



僕は思った


この家は「失敗」だった



久しぶりの登山だったが、勝手を思い出せぬまま疲れだけが溜まっていき、次第に日も暮れてきた


僕はやむを得ず、眼に付いた廃屋で休憩をしようと踏み入った


人が住まなくなってから相当経過しているであろう日本家屋で、畳を破って野草や竹が生えてきている場所すらある

気味が悪くなり立ち去ろうとも思ったが、その時に雨が降り出した


恐ろしさは有ったが、濡れながら無事に下山出来るとも思えなかった



廃屋の恐ろしさは雰囲気だけでは無い

どんな「先客」がいるか解らない


犯罪者や頭のおかしい人間は、殆どの場合は幽霊より恐ろしく、幽霊よりも人に危害を加える


僕は死ぬような眼に遭った事はまだ無いが、それでも左の手の甲にある傷は、昔廃墟を探索していた時に、突然出て来た刃物男に負わされたものだった



──おかしい


僕は立ち止まる


僕が歩くたびに、近くの何処か他の所でも足音が聞こえた



論理的に思考するのであれば、これは僕の足音の反響だ

人間が僕の歩く様を真似たところで、ぴったり重なるように音を鳴らす事は出来ない


真似ようとした者は、僕が動くのを視てから動く事になる

必ずワンテンポ遅れる筈だ



きっと今、自分は疲労と不安から必要の無い恐怖に取り憑かれている


僕は深く息を吸い込むと、ゆっくり吐き出した

気分は落ち着いたが、雨の匂いと廃屋の植物臭さが混ざって、完全に良い気分にはなれなかった


不安を無くすために、部屋をくまなく視て回る


一階には入ってすぐ居間があり、台所、風呂、トイレ、寝室だったと思しき部屋が有った

畳張りが多く気は引けたが、僕は土足で家中を探索した



次に、階段を視る


二階と繋がっているのは一つの階段だけだ

これは、一階に比べ「逃げ場」が無い事を意味する


危険な気もしたが、これでもし二階に変質者が居てそれを見逃していた場合、致命的な事になる場合も有る

諦めて僕は、慎重に階段を上がっていった




二階に上ると、幾つかの違和感に僕は気が付いた


一つは「二階が暗過ぎる」こと

そしてもう一つは「足音が増えたこと」だった



窓が無い訳ではない

言語化が難しいが、雰囲気そのものが二階全体を真っ暗にしてしまっていた


そして、僕が歩くたびに「足音は二つ聞こえるようになった」


一刻も早く逃げ出したい衝動が有ったが、足音は二つとも階段から聞こえた

つまり、誰かが居ると仮定して「それは僕の逃げ道に立っている」



パニックになりそうになったが、僕はあらためて深呼吸をすると、頬を手で軽くマッサージした


これは僕が「自分が動揺している」と気付いた時に行うようにしているもので、心を落ち着かせる効果が有る


落ち着いた上でもう一度、何歩か歩く

確実に足音は、僕の後ろを付けてきていた



階段を上がった先には廊下がある

いま僕の立っている場所だ


二階はあまり大きくなく、部屋は下手すると一間しかない

その襖が眼の前に有った


意を決して開く

その時、後ろの足音が動き出した


僕は慌てて部屋に飛び込む

部屋の中は窓一つ無く、全くの闇だ



荷物から懐中電灯を取り出して、点ける


照らされた部屋の隅という隅に、様々な年齢の人間が音も立てず、まばたきもせずに立っていた



僕はあらためて思った


この家に入ったのは「失敗」だった

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