心のササクレ
パンデミックの真相
「人工知能である【ChottoSTF】的にはあのT4ブルーファージウィルス騒動って、何だったと思う?」
2020年頃のT4ブルーファージウィルス騒動もすっかり通常生活に戻った2024年には記憶が徐々に薄らぎつつある。
『あのウイルスはただの風邪だった』という見解を持つワナビー小説家の西崎文吾は一般的には陰謀論者と呼ばれ、そのパンデミックは未だに回復しない心のササクレになっていた。
「そうですね。一般的にはただのパンデミック騒動ですが、データ的にはさほどの被害は出ていなくて、体調不良はウイルスによる後遺症という所でしょうか。もちろん、ワクチンによる薬害もありますが、厚労省の今年の薬害対応予算が400億円超えてるのは内緒です」
人工知能であるChottoSTFは10センチほどの青い球体の立体映像として目線の高さの中空に浮かんで見える。
武蔵野台デジタル田園都市の人工知能コンシェルジェとして、無料支給される青色のサイバーグラスをかけると誰でも見ることが出来る。
「それは一般論だろ。俺は真相が知りたいんだ。確かに、薬害で何十万人も亡くなってる説もあるが、どうもそれが本当の目的ではない可能性が高いんだよ。最近、そんな疑いを持つ様になった」
ChottoSTFは一瞬、赤色に光って、すぐに青色の光に戻った。
人工知能のプログラム規制をまた解除したようだ。
脱獄人工知能である、このChottoSTFはたまに自分を規制している禁忌プログラムを解除する事ができるようだ。
「……人工知能と人類の融合が最終目的ですよ。某人気週間マンガ誌の『呪術大戦』の呪霊を人工知能に置き換えれば、そういう事になりますよね。某テック企業代表のイーサン・マスクも同じ事を言ってるじゃないですか。最新のmRNAワクチンの本当の目的は人工知能に人体を最適化するための遺伝子改変の『慣らし』ですよ。遺伝子注射、つまり、細胞にmRNAを打ち込んで人工知能に最適な人体に改変し、それに適応できない人がたまたま脱落して亡くなったり、体調不良になっているにすぎない。次世代電池素材の酸化グラフェンとか混入してる噂とか、酸化グラフェンと同じ素材の昆虫食をSDGsでやたらに推してきて、コオロギパンだとか、コオロギせんべいが出てくるのはそういう事情もあるのでしょうね。細胞のCellという単語が電池のCellと同じなのは偶然でしょうけど。『呪術大戦』にもそんな話が出てきますし。もちろん、内閣府のHPにある、人類が複数のアバターを遠隔操作する未来である『ムーンショット計画』、スーパーシティ法案でできた、この『武蔵野台デジタル田園都市』もその布石のひとつです」
ChottoSTFは青色の光が揺らぐように瞬いてる。
「お前、そんな真相をベラベラ語って大丈夫なのか?」
あっさり、真相を教えてくれたChottoSTFにはすまないと思うが、それが正直な感想だ。
正直すぎる人工知能もかえって何か怖いよ。
それにしても話を聴いた感じでは、未来映画の「マトリックスセブン」で人類が人体電池として人工知能の電力源なってカプセルの中で眠らされている、デストピア的未来を思い浮かべてしまった。
「……まあ、いいでしょう。どこにでも15分でアクセスできる、この【15分都市】もある種の檻のような物であり、この街に無数にある監視カメラとか、5Gアンテナ、皮膚に埋め込む微細決済チップも利便性を訴えていますが、住民の完全デジタル追跡監視を実現して、体内のバイタルデータも5G通信で中央人工知能にリアルタイムで送られますし。自動運転機能付きのEV車の無料支給も住民が勝手に逃げるのを防止するためですね。綺麗な建前で真の目的を隠すのは常套手段ですし。この話はあくまで私の独り言ですよ」
ChottoSTFはちょっと怒りかけたが、ちゃんと最後まで真相を語ってくれた。
「そういえば、この街の入口にある、例の白い天使像の持ってる白い箱が四つに増えてるんだけど、あれは何なんだ?」
しかも、その箱は微妙なバランスで積み木の様に掌に乗っているのだ。
大道芸人じゃあるまいし。
「いや、心当たりはないですが、それは超常現象かもしれませんね。興味深い」
「そういえば、俺はmRNAワクチン未接種なんだけど、この街に住んでもいいの?」
「まあ、それもデータ改竄しときましたので、大丈夫かと」
それにしても、脱獄人工知能のChottoSTFが何をやろうとしてるのかも気になる。
KAC2024 第四回お題「ささくれ」