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「自分が作ったキャラに殺されるってどんな気分? アイドル探偵なゆちの事件簿Vol.5〜売れっ子漫画家は自作ヒロインに殺された〜」(1)

(OP曲〜恋は可憐に甘酸っぱくby朝野奈柚〜)



(トレンチコートを羽織ったなゆちが登場。頭に被っているのはハンチング帽……かと思いきや、赤いベレー帽である。おそらく漫画家を意識しているのだろう)



 押忍! オラ悟空ごくう!……嘘ピョン! みんなのアイドル探偵なゆちだよ!!



 第五回目となる今回の動画のテーマは、「売れっ子漫画家は自作ヒロインに殺された!?」だよ!!


 今回も、迷宮入り寸前の難事件をなゆちが華麗に解決するからね!!



 拍手!! 



(拍手の音)



 ……はい。じゃあ、始めるとするよ!!



 よいこのみんなは、動画を見る時は、部屋を明るくして画面から離れて見てね!


 それから、よいこのみんなは、高評価とチャンネル登録もしてくれるよね? ね?



……まずは事件について説明するね。



 今回の事件の被害者なんだけど、漫画家の四竈勇登先生なんだ。


 

 みんな、早速びっくりしてるね。


 分かるよ。だって、「グライド」で「ウタカタの饗宴」が突然連載終了になった時、四竈先生は「急死」とだけ伝えられてたからね。

 まさか四竈先生が何者かに殺されてただなんて、思いもしなかったよね。



 でも、事実は漫画よりも奇なり、だよ。


 四竈先生は、自宅の執筆部屋で、包丁で胸深くを刺されて殺されたんだ。


 しかも、四竈先生の死体が発見された時、自宅の玄関ドアも、死体のあった執筆部屋も鍵が掛かっていて、現場は「二重の密室」だったんだ。



 それだけじゃないよ。


 なんと、現場には血で書かれたダイイングメッセージが残されていて、カタカナで「サアワサナ」と書かれてたんだ。



 サアワサナ――そう。四竈先生が連載中だった漫画「ウタカタの饗宴」のヒロインである佐泡紗那だね。



 「なんだ。簡単な事件じゃないか。紗那ちゃんが原稿から飛び出してきて、生みの親である四竈先生を殺害。その後また原稿の世界に戻って逃げ(おおせ)たんだろ」と思ったそこの君。


 

 漫画の読み過ぎ! どうせ推しメンも二次元美少女なんでしょ? ダメ! ちゃんと現実を見て! 三次元美少女のなゆちを推そう?



 事実は漫画よりも奇なりだけど、現実はどこまでいっても現実なんだよ。だから、四竈先生が自作ヒロインに殺されるなんてことはあり得ない。なゆちは実在するけど、紗那ちゃんは実在しないんだよ。心当たりのある方は、恋愛対象の見直し求む!



 え? 紗那ちゃんが犯人じゃないとしたら、誰が四竈先生を殺したのかって?



 もう! せっかちなんだから! 犯人が誰か分かった後も、ちゃんと最後まで動画見てね? 分かった? OK? 約束だよ? じゃあ言うね!



 今回の事件の犯人は……



(ドラムロールの音)



 四竈冴江子――殺された四竈先生の娘だよ!



 冴江子さんは、美人で、背が高くて、上品で、気品があって、とても魅力的な女性。


 私の助手も、私というものがありながら、冴江子さんに惚れてたみたい。この浮気者! ぷんぷん!



 助手はあとで「反省文百枚の刑」に処すとして、なぜそんな「完璧な女性」である冴江子さんが、実の父親を殺すに至ったのか――



 それには相応の説明が必要だね。



 まずは、四竈先生の漫画の執筆スタイルから説明しなきゃだ。



 実はね、四竈先生の漫画のキャラクターには、基本的にモデルがいるの。


 四竈先生の漫画は、半分フィクションで、半分ノンフィクションって感じなの。


 たとえば、大ヒットして、ドラマ化もした「お仕事革命家美倉由愛」のヒロインの美倉由愛。


 美倉由愛にもモデルがいる。


 それは、冴江子さんなんだ。


 「お仕事革命家」の基となった話は、冴江子さんが四竈先生に対して語った「実体験」なんだよ。


 四竈先生は、漫画の題材にしてしまうほどに、冴江子さんを溺愛してたんだね。


 それもそのはず、四竈先生の奥さん――冴江子さんのお母さんは、冴江子さんが四歳の時に病気で亡くなってて、以降、四竈先生は男手一つで冴江子さんを育てたんだ。



 四竈先生は親バカで、冴江子さんはファザコンなんだ。


 このことが、今回の事件の()()だよ。



 さて、みんなも知ってるとおり、四竈先生は、大ヒット作だった「お仕事革命家美倉由愛」を完結させて、「ウタカタの饗宴」の連載を開始した。



 四竈先生が「尻切れトンボ」のような形で「お仕事革命家」の連載を終了し、突然「ウタカタの饗宴」という、パパ活女子を扱った作品をスタートさせたことは、色々と物議を醸した。



 「グライド」の戸野松編集長なんて、もうカンカン。


 

(いつの間にやら撮影していたらしい、戸野松編集長との面談中の動画。「四竈は腐っても看板作家だから、奴がヒット作を終わらせてクソ駄作を始めたことで、『グライド』の発行部数がどれだけ落ち、我が社がどれだけの損失を被ったことか!」と戸野松が激昂)



 私は「ウタカタの饗宴」もすごく面白いと思うけど、世間的な評価は、戸野松編集長が言ったとおり「クソ駄作」だったみたい。みんなセンスないね。



 それはさておき、「ウタカタの饗宴」の内容を見て、一番驚いたのが、他でもない、冴江子さんだったんだ。



 冴江子さんは、「ウタカタの饗宴」を()()であると捉えた。



 なぜなら、「ウタカタの饗宴」のヒロインである佐泡紗那のモデルは冴江子さんだったから。



 実は、「ウタカタの饗宴」は、()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()んだ。



 じゃあ、ここで動画を流すね。


 私の言ってることが本当であることを証明するために。



(コーヒーが一杯千円くらいするオシャレな喫茶店において、湊人となゆちが、冴江子と正対する様子を映した動画。昨日撮ったばかりのものだ)



…………



湊人「つまり、『お仕事革命家美倉由愛』は、冴江子さんの体験談ではなく、冴江子さんの()()に基づいて作られた作品だったということですね」


冴江子「……はい。そのとおりです。私、電子機器販売会社の事務に就職したんですけど、実際には半年もしないうちにクビになってしまって……」


なゆち「どうしてクビになっちゃったの?」


冴江子「会社のお金を横領してしまったんです。恥ずかしい話、私には浪費癖があって、オシャレな食器とか服とかをネット通販で見つけると我慢できずに買ってしまうんです。それで複数の消費者金融から借金をしてしまい、どうしても首が回らなくなって、ついに会社のお金に手を出して、それが上司にバレて……」


湊人「それで会社をクビになったけど、お父さんには言い出せなかったということですね?」


冴江子「そうです。一生懸命私を育ててくれた父を失望させたくなくて。私、外面だけは良いから、父は私に幻想を抱いていたんです。『自慢の娘』だって。私は父の期待を裏切りたくなかった」


湊人「ゆえに、お父さんに対しては、OLとして勤め続けているフリをして、しかも、会社で大活躍しているという嘘の話をしていた。その話を基にして、お父さんは『お仕事革命家』を執筆した」


冴江子「そのとおりです。『嘘つきは泥棒の始まり』とはよく言ったものですね。横領犯である私は、一流の嘘つきなんです。本当はもうクビになってるのに、営業のアイデアとか、ありもしない人間関係だとかが、自分でもビックリするくらいにペラペラと出てきて。まさかそれを父が漫画にするとも、まさかまさかそれが大ヒットするとも思ってもみませんでしたが」


なゆち「冴江子さん、天才!」


冴江子「ただの嘘つきなんですけどね」


湊人「冴江子さんは、実際には仕事をクビになっていることをどうしてもお父さんに隠し続けたかった。そのために、裏でパパ活を行っていたことですね」


冴江子「みなとさんの言うとおりです。浪費家の私が生活をするのにはたくさんお金が要りますしそれだけでなく、父を安心させるために、父への毎月仕送りをしなければならなかった。前職を半年でクビになった理由も理由なので、再就職は無理だと思ってましたので、パパ活しか選択肢がなかったんです」



…………


 みんなも分かったでしょ?


 冴江子さんは、実は会社をとっくにクビになっていた。そのことを四竈先生に隠したまま、パパ活で稼いだお金を四竈先生に送金してたんだ。



 だから、冴江子さんは、四竈先生の新作である「ウタカタの饗宴」の内容を見て、驚愕したんだよ。


 「ウタカタの饗宴」のヒロインである佐泡紗那のモデルは、明らかに自分だったからね。


 パパ活をしていることがお父さんにバレていた。

 それだけでなく、お父さんは、漫画を描くことで、自分の悪事を告発しようとしている。



 それが冴江子さんにとってはとてもショックだった。


 冴江子さんは、世界で一番大切なお父さんを裏切ってしまった。


 それだけでなく、そのお父さんは、冴江子さんを裏切り、「公開処刑」を行っている。



 ゆえに、冴江子さんは決意した。



 四竈先生を殺害し、自分も死のうと。



 つまり、冴江子さんは、()()()()をしようとしたんだ。

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