勇者は歩かず敵に当たる 3
〈ここですね〉
翌朝、村の裏手。山の麓の岩肌に小さな鉄扉が直接取り付けられている。宿の主曰く伝説の鍛冶屋の住処なのだそうだ。
「怪しすぎるんですけど。これゴミ捨て場じゃなくて?」
野ざらしで乱雑に置かれた木箱や工具、武具の数々。私も不安になってきた。
「失敬な娘だな。見ない顔だがうちに用か?」
「うわっ!後ろから話しかけないでよ」
身の丈1mあるかどうかの長髯の男。おそらくドワーフという種族だろう。
「…ふむ。ただの剣じゃないな」
彼の興味はデカイにしかないようだ。
「中に入れ。修繕費、査定してやる」
「えっ?えぇ?なんで折れてんの分かった??」
そう。デカイの労しい刀身は鞘に納めてあるのに、だ。
「ミスリルとオリハルコンの合金とは驚いた。ワシでもこの発想は…」
ドワーフの男―ヒンゲがブツブツ呟きながらデカイを調べて何分経っただろうか。ミツキは貧乏ゆすりをしはじめていた。
「もういいからいくらかかんのさ。てかホントに直せる?」
「知らん技術だからな、断言はできん。しかしこんな剣をいじれる機会は…。うむ。金は要らんからやらせてくれ」
「マジ!?おっさん好き!」
尻尾を振らんがばかりのミツキを無視してヒンゲは貴重そうな鉱石が並んだ棚を振り返る。
「…ん?そういやオリハルコンの在庫切らしてたか」
「おいコラ、ジジイ」
「短くなってもかまわんなら溶かして繋げるが」
「短くってどんくらい?」
「さぁ。うまくいくまでだ」
「…帰る!」
「待て待て。オリハルコンはその先の洞窟でも採れる」
入り口と反対側の扉を指差すヒンゲ。
「つーことで、ほれ」
ミツキが手渡されたのはルビー製のツルハシ。【爆破】のアビリティ付きだ。
「あたしが掘ってこいってか!」
「ワシは炉の準備をしておくでな。ああ、これが標本だ。あとはカンテラっと」
「ねぇ、ちょっ…」
「落盤には気をつけろよ。余計なところは掘るな」
「はぁ…」
そうして溜め息混じりにトボトボと洞窟へと繰り出すミツキなのであった。