勇者は歩かず敵に当たる 2
「ぴーーーー!!」
「悲鳴のクセがすげぇな、嬢ちゃん」
ガーゴイル、ワイバーン、デーモン。有翼のモンスターの群れが村の空を埋め尽くしている。
それらに勇猛果敢に立ち向かう村人達を傍に、我が勇者は…逃げ惑っていた。
〈ミツキよ。昨日会得した魔法を使うのです〉
「おお!忘れてた!」
立ち止まったミツキはそれっぽい構えをとるが、3秒で首を傾げる。
「あの、どうやるんすか先生」
〈カミペディア「魔法学入門」の項目によると初心者は規定の呪文を詠唱することで発動しやすくなると〉
「呪文?知らんわ、そんなん」
でしょうね。
〈復唱してください。天よ応えよ 求むるは破壊 切り裂き轟け蒼穹の路…〉
「覚えられるかぁ!!」
情けない声で喚くミツキにガーゴイルが急降下してくる。
避けられるわけがない亜音速の斬撃。
生じる【自動防御】のバリア。
「はぁーーーん!!」
…反動を殺しきれずに吹き飛ばされ、しばらく縦回転した末に墜落する勇者様。
「…覚えてろよ…クソナビ」
頭を起こした彼女は鼻血を流していた。
〈恨む対象、おかしくないですか?〉
「あんたが余計な…。そうね、とにかくあいつは葬る!この屈辱を払う!!」
鬼神が如き顔つきになったミツキは空に戻ろうとするガーゴイルを追って跳び上がる。
「こなくそぉぉ!!!」
〈あ、当たっ…ええええ!!?〉
「折れたんですけど。聖剣折れたんですけどーー!?!?」
―その晩、閑散とした宿の食堂。
仕留めたレベル84のガーゴイルの経験値を受けてミツキは一気にレベル9になっていた。村人に賞賛もされた。ご執心の【勇者の誉れ】の数値だって2… 2、成長した。
ああ。ナビにあるまじき現実逃避である。
「カンゼンツンダワー。オワッタワー。ワッワワー…」
〈気を確かに、勇者ミツキよ〉
「ワー?」
当人は剣と共に心も折れてしまったようで、ヨダレまで垂らしている。
さて、お叱り覚悟で神界に…
「村の近くに直せる方いますよ?その剣」
「ワワワ!?」