勇者は歩かず敵に当たる 1
深緑の村 スタト・オ・ワリ。件の森の東端に位置し、人口は100人ほど。そのほとんどがいつでもモンスターの襲撃に対処できるように常日頃武装して過ごしている。砦柵や民家の壁もやたら堅牢な造りで、この地の危険度を改めて思い知らされる。
「トシ子さんや、トシ子さん」
〈何故か拒絶反応が出るのでその呼び方はやめてください〉
「せっかく凝ったアダ名考えてあげたのにかわいくないなぁ」
ミツキは木の枝を拾って足元の地面に「104」、続いて「10」の上に「ト」、「4」の上に「シ」と書いて見せる。
〈で、ご用件は?〉
私は早々に話を流すことにした。
「あたし、モテてなくない?勇者の威光とかってのはどうした!」
〈”誉れ”です。現在の数値は…0、ですね〉
「はい??」
〈カミペディアには「勇者として活躍するごとに効力が上昇する」とありますが〉
「…クソぅ…騙された…!」
〈自分の確認不足を責任転嫁してはいけません〉
「ハゲ部長みたいな説教すんな!分かったよ。活躍してやんよ。こんにゃろうめぇ…!!」
動機は不純でもやる気にはなったようだ。なんとも都合が良いアビリティである。
ちなみに「ハゲ部長」の語意が少し気になったものの、地球のインターネットは怖いのでスルーした。
〈ときにミツキよ、今これは何をしているのですか?〉
「んー?人間観察?」
休みをよこせというミツキの要望を渋々飲んだ本日転生4日目。彼女は広場のベンチに腰かけたまま3時間も過ごしていた。
〈この世界の生活を学ぶ為ですか?〉
感知できる範囲にいる村人達のレベルが平均74なのは伏せておこう。
「暇なんだよ!スマホもテレビもない!せめて飲んだくれたくてもこの若さじゃお酒買わせてもらえない!どうにかなりそうだわ!!」
〈ならばレベリングに…〉
「嫌でーす」
私もどうにかなりそうなのですが。
「魔王軍だー!!やったれ、てめぇらああ!!」
「ぬおぉぉ!!」
突然辺りが喧騒に包まれ、村人が集まりはじめる。凄い勢いで。
「魔王軍!?」
「おい嬢ちゃん!旅の者なら宿で隠れとけ!」
「りょ、了解っす」
〈ミツキよ。“勇者”ミツキよ〉
「へいへい。おっちゃん、あたしも戦うよ」