誉れとモテには乗り易い 1
「どぅおりゃあああ!!」
高山に囲まれた深い森。ひとりの少女が怒声を発しながらその背丈と同じほどある大剣を振るっていた。
〈勇者ミツキよ…威勢だけでは当たりません。敵をよく見るのです〉
「うるっさいなぁ!目で追えるならとっくに倒してんの!」
彼女が対峙しているのはオルトロスと呼ばれるモンスター。神がまとめた資料、〈カミペディア〉の解説文には「地獄の猟犬」と記されている。
「うりゃっ!」
またしても少女の攻撃は空を斬り、オルトロスはその場でぴょんぴょん跳ねてこちらに得意気な顔を向けてくる。
「煽りやがってぇ…!あーもうヤダ!やっぱ無理!こんなとこでレベル上げなんてできっこないんだよ」
〈最初の転送地点に”てっとり早く強くなれるところ”と指定したのはあなたです、ミツキ〉
「程度ってもんがあるでしょ!山越えたら魔王城の森から始まる冒険があってたまるか!」
この森は冒険最終盤を思わせる高レベルモンスターで溢れており、あのオルトロスのレベルも61である。
一方我が勇者ミツキのレベルは…5。本来なら有り得ないレベリングなのは私だって分かっている。
〈命中さえすれば問題ありません。武器の性能はこの世界一なのですから〉
聖剣デカイ。神が転生前の彼女に贈った“お決まりのやつ”。どうやらあらゆる世界への「転生の儀」の慣習になっているらしい。
そしてデカイの加護は他の事例と比べても相当に手厚い。攻撃力はさることながら【自動防御】、【魔力回復速度上昇】、【魔法効果強化】、【荷重軽減】…神が思いつく補助効果は全て込めておきましたと言わんばかりの聖剣中の聖剣なのだ。
この剣を以てすれば大概のモンスターは倒せる。私はそう確信していた。
しかし何事にも誤算は生じるものである。
「命中しないのが問題なんでしょうが!!絶対そこだけ忘れてたよね?!神様!」
〈そそそ、そんなことは、ない、はずです!おそらく、きっと、ね、願わくば!これは試練なのです。真に完璧な武器など持ってしまったら…あれです、努力が要らなくなるではありませんか〉
「いや、それでいいんだけど。てかナビのクセに動揺すんなし」
〈何度もお伝えしているように私だって生きて…〉
「じゃあ戦えー!戦闘丸投げされるこっちの身にもなってよ」
〈“身”があるならやっています。それにサポートは十二分にしているつもりです〉
「転移は行ったことある場所限定、回復は教会の中限定、あとできるのはステータス?の確認とウンチクってさ…。ポンコツ!このポンコツナビ!」
諸々の問題が重なり、森唯一の村とその目と鼻の先のエリアとの往復は合計20回目に達していた。
〈ナビにそれ以上求めないでください。ぐすっ…実家に…実家に帰らせていただきます〉
「あ、ちょっ、モンスターの前に置いてくなぁー!!」