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銀水晶は微笑む  作者:
9/20

過程






元王太子の私室には、これと言った成果はありませんでした。

次はどうするかと思案していた矢先、父上様に呼ばれましたので別室へと訪れたのがつい先程。

アンナ嬢を連れて、というお言葉の意味を図りかねておりましたが、カイン皇太子殿下が見つけたとされる資料に、クリリアント男爵とアンナ嬢の身に関することが記載されておりました。

……残酷。

その2文字に尽きるその内容を、父上様とイグラム皇帝陛下がアンナ嬢に問えば、アンナ嬢は顔色を悪くなさってしまった。

言い訳も弁明も立たぬほどに混乱しているのでしょう、ガタガタと震える華奢な身体があまりに痛ましく。

アイリスお姉様と一緒に抱き締めて差し上げることしか出来ませんでした。


「これが真実だとすれば、サハラ王国の王家は全員処罰となさいますか?」


「うむ……王弟殿下は出来た方ではあるが、直系となる以上は致し方あるまい」


「処刑を?」


「そうなる。直系だが関与はしていないとあれば、王弟殿下の血筋は毒杯であろう」


ということは、元国王家族は公開処刑ですわね。

元より民衆からの人気もなかった方々です、公開処刑となれば民衆も納得致しましょう。


「傍系や降嫁された元姫殿下たちはどう致します?」


「元国王より過去3代までの親類縁者も毒杯であろうな。本人たちに罪はなくとも、王族である以上は罰を受けねばならぬ」


父上様の一言が重く響きました。

ベアトリス側妃様の事件の際に、元国王と元王妃を処罰していればカメリア王国の侯爵家とクリリアント男爵、アンナ嬢と言った被害者は出なかったのです。

隠居なされている前国王様と前王妃様がなんらかの形で、あの方を止めればこんなことにならなかった。


「前国王夫妻は?隠居されているのでは?」


「……いや。どうやら殺害されたらしい」


「は?」


「数日前にな。フレデリックとかいうバカの罪を言及されぬ為に元王妃が刺客を差し向けたと」


アインお兄様が絶句されました。

わたくしも言葉に詰まります。

何処まで汚いのでしょう。


「この国はいつからこんなに腐っておったのか」


「ベアトリスの事件から狂ったのだろう。婚約破棄を大前提としたアリスティアとの婚約でさえ、奴らは正気に戻らなんだ」


「ベアトリス妃殿下に嫉妬とは身の程知らずよの。してアズラエル、策はあるのか?生半可な処罰では我が息子の気は済まぬぞ」


「分かっておる」


カイン皇太子殿下の気、ですか。

確かにあまりに気分が悪くなりますものね、あの穏やかなカイン皇太子殿下のお心も休まれないわ。


「アリスティアよ」


「はい」


「そなたはこれから、聖ミカエル帝国との更なる関係強化の為にカインと婚約してもらう」


「かしこまりました」


こうなることは、なんとなく予想しておりましたので驚くことは御座いません。

元よりわたくしたち皇族は、感情等で婚姻を結ぶことは出来ませんから。

しかしカイン皇太子殿下であれば、と。

かつてベアトリス側妃様に申したことがある程度には好ましく思っていますので、災い転じて福となすですわ。


「アンナよ」


「は……はい……」


「どうあろうと、そちには婚約を壊したという罪は背負ってもらわねばならぬ」


「…………」


「処刑はせぬ、安心せよ。それが我ら両帝国の決断だ」


「あ……ありがとうございます!!」


「処罰の内容は後に通達しよう。それまで、混乱しているであろう。隣の部屋でゆっくり休みなさい」


父上様が優しく微笑まれました。

嗚呼、眼福で御座いますわ。

威厳を湛えつつ、微笑まれると僅かに垂れる目尻。

5人のお子が居て、更には内3人が成人しているとは思えぬほど若々しい我が父上様。

アインお兄様は父上様に似ていらっしゃいますわ、お顔立ち母上様に良く似たキリッとしたお顔立ちですけど、お兄様も微笑まれますと目尻が僅かに垂れて、なんと庇護欲をそそられることでしょう。


「アリス、アリス」


「……あら?」


「また家族愛が暴走したのかしら?」


「アイリスお姉様、失礼なことを申さないでくださいまし。アイリスお姉様もそれはそれは美の女神が如く、」


「長くなるから今は控えて頂戴。アンナ様はわたくしがお連れしてもよろしくて?」


こてん、と。

慈愛と創造の神たるイルマビビ様に選ばれた姫巫女様の証である黒髪がさらりと揺れ、流れながら首を傾げるお姉様。

とても愛らしいそのお姿に、アンナ様も見惚れておりますわ。

わたくしにはまだ帝命が下されますでしょうし、お姉様ならばイルマビビ様の御加護が御座いますから安心でしょう。


「お願い申し上げます。アンナ様のお心を癒して差し上げてくださいませ、姫巫女様」


「えぇ、お任せを」


未だ不安そうなアンナ様は咄嗟にわたくしを見上げましたが、ゆっくり頷いて見せれば僅かに肩の力を抜いてくださいました。

あの御様子ですと、公開処刑と言われて不安や不満が溢れただけでありましょう。

婚約破棄騒動の際、アンナ様は必要最低限に口を開いたりは致しませんでした。

カイン皇太子殿下に擦り寄る様子を見せた際も、瞳の奥は暗澹な光を抱えているようにも感じられた……つまり、アンナ様の本意で行ったわけではなかった。

部屋を出るアンナ様にはしたないと分かっていながらも小さく手を振れば、アンナ様も振り返してくださいました。

根は素直な御方なのでしょう。

だから悪に染められてしまった、と。


「我が偉大なる太陽、最愛の皇帝陛下。発言の許可を頂きたく存じます」


「良い。この場は非公式だ、楽にしなさい」


「はい。アンナ様の出自は、本当に平民でしょうか」


「うぅむ……それが分からんのだ」


アンナ様のマナーは確かに無茶苦茶ではありました。

婚約者の居る男性に擦り寄り、ルールを破った破天荒さはありますが、下位貴族令嬢との交流会で目立つことはなさいませんでした。

元王太子の目がなかったから。

他の令息や、その他王家に属する貴族に関する男性が居なかったから。

令嬢との交流会では、真摯にマナーを守っていらっしゃいました。

いくら元王太子を利用しようと画策していても。

婚約者たるわたくしに無礼を働いたことは、今にして思えば元王太子を横取りしたことだけ。

それに関しても、わたくしは元より彼の方と交流等は皆無でしたから、嫌がらせや無礼だとも思いませんでしたが。

精々わたくしの体面に対する傷は付いた、という程度。

しかしそれも、カイン皇太子殿下との婚約が決まりさえすれば、下心のある貴族が精々嫌味を言う程度の矮小なもので済みます。

在るべきところに収まった、という点では、彼女のしたことにも意味があるような気がしてなりません。


「わたくしの想像でしかないのですが、」


「なんだ?」


「彼女はサハラ王国を滅ぼす為に動いたのではないかと」


「滅ぼす?何故だ?」


「今代の王太子の婚約者は誰もが知る大国の皇女でした。背景は詳しく知らずとも、わたくしが嫁ぐという事実に変わりはありません。然しなにかしら……そうですね、元王太子の不貞により元王太子有責で婚約破棄、それも大勢の目がある場でそれを行えば、例え王家であっても民衆は許しはしないでしょう。元より支持が少なかった王家です、大国の皇女に無礼を働いたともなれば処罰は必須。そこに聖ミカエル帝国の現皇太子殿下であるカイン様が申した、令嬢への数々の無礼が露呈すれば……」


「確かに王家の血筋全体が処罰になるであろうな。だがそれをして、アンナ嬢になんの理になる」


「復讐でしょう。恐らく、母君やクリリアント男爵の為に」


「確かに平民の娘が1人で考えた事案ではなさそうだ。協力した貴族が居るだろうな、それもクリリアント男爵より更に身分が上の」


「はい」


複雑に絡み合った糸を、解く必要がありますね。

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