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レクトとウルリケ  作者: やまだのぼる@ナンパモブ2巻12/5発売!


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12/44

くじベリー

「どうした、レクト」

 ライマーの声に、ぼんやりと考え事をしていたレクトは顔を上げた。

 “休憩所の木”の上から、ライマーがひょっこりと顔を出している。

「お前も登って来いよ。くじベリー、こっちで食おうぜ」

「ああ、うん」

 レクトは腰かけていた石から立ち上がった。

 放課後の森。

 学院の生徒たちは、思い思いの場所で遊んだり植物やキノコを採集したりしていたが、今日レクトとライマー、それにモリスの三人が集めていたのは、この季節に赤い小さな実を付けるテリクベリーだった。

 それが子供たちに“くじベリー”と呼ばれる理由は、甘酸っぱい実の中に時々、ひどく苦い実が混じっているからだ。

 甘い実も苦い実も同じように赤く、外見からは全く区別がつかないので、子供たちはまるで運試しのくじをするようにこの実を食べる。

 世界中から才能あふれる子供たちが集められたこの学院の森でも、テリクベリーはやはり人気だった。

 レクトは木の幹のこぶに足を掛け、ライマーとモリスの待つ枝の上まで登った。

 登りやすいうえに、枝が三本お誂え向きに並んでいて座りやすいこの木を“休憩所の木”と名付けたのはライマーだ。

 森の小道をしばらく歩いて疲れた頃に現れるこの木は、枝に腰かけて休憩するのに持ってこいというわけだ。

「よし、じゃあ俺から行くぜ」

 登ってきたレクトが枝に座ったところで、ライマーが待ちきれないように自分のローブの袖に手を突っ込んだ。

「これだ」

 そう言って、赤い実を一粒摘まみ出すと、口に放り込む。

「うまい」

 にやりと笑ったライマーに続いて、モリスが自分の袖からベリーを摘まみ出す。

「じゃあ僕はこれ」

 モリスはおそるおそる口に入れて、それからほっとしたように「よかった、甘い」と呟く。

「よし、次レクトだぜ」

「うん」

 レクトは自分のローブの袖に手を入れ、そこに入っている何粒かのベリーを指先で転がした。

「ええと」

 気乗りしないまま、レクトはその中の一粒を摘まみ出す。

「これにしよう」

 そう言って口に含んだ瞬間、青臭い苦みが口いっぱいに広がった。

「げえっ」

 呻いて吐き出したレクトを見て、ライマーが手を叩いて笑う。

「やった、レクトが当たったぞ」

「一粒目で、もう当たったのかい」

 モリスが驚いたように言った。

「今日はついてないね、レクト」

「ついてない?」

 ライマーがその言葉を聞き咎める。

「ああ、そうか。そういえば今日は授業中にも」

「うげえっ」

 口直しに慌てて次のベリーを口に含んだレクトがまた吐き出したのを見て、ライマーが身体をのけぞらせて大笑いする。

「すげえ。ふた粒連続。初めて見た」

「危ないよ、ライマー。落ちるよ」

 ライマーがあまりに身をよじって笑うので、モリスが心配そうに声を上げる。

「レクトも大丈夫かい」

「ああ、う、うん」

 やっと三粒目で甘い実に当たったレクトは涙目で頷いた。

「ひどい目にあった」

「いやあ、面白いもんが見れた」

 ひとしきり笑った後で、ライマーが自分のベリーを食べながら、そういえば、とレクトに顔を向ける。

「今日、災難だったな、レクト」

「え、何がだい」

「ほら。ワルハット先生の授業で、ウルリケお嬢様がフルエプラムの種を持ってこなかっただろ。あれ、日直のお前のせいにされちまってさ」

「ああ、あれね」

 レクトは曖昧に頷く。

「僕のせいにされたっていうか……」

「レクトは偉いよね」

 モリスが口を挟んだ。

「日直は僕でしたって、自分で手を挙げてたもんね」

「そうだよな。俺だったら絶対挙げない」

 ライマーが能天気に笑う。

「怒られたくないもんな」

「実はさ」

 レクトはずっとわだかまっていたことを、口にした。

「あのとき、女子の連絡はケリーがしてくれるって言ってくれたんだ。それで、僕は任せたつもりだったんだけど」

「ケリー?」

 ライマーはモリスと顔を見合わせた。

「どういうことだ?」

 レクトは、その日の放課後に教室であったことを二人にも説明する。

「ケリーのほかに、べルティーナとデルマもいたんだけど」

「いつもの三人組か」

 ライマーは腕を組んだ。

「でもケリーのやつ、ワルハット先生の授業でそんなこと何も言ってなかったじゃんか」

「うん」

 レクトは頷く。

「きっと忘れちゃってるんだと思うけど……」

「そうかもな」

 ライマーはやはり深く考えずに頷く。

「俺だって三日も四日も前のことなんて覚えてねえからな」

「うーん、でも」

 モリスが遠慮がちに言う。

「べルティーナとデルマもいたんだよね、ケリーだけじゃなくて」

「うん」

「三人とも忘れるって、ちょっと僕はあんまりない気がする」

「どういう意味だよ」

「だから、わざとウルリケにだけ伝えなかったってことだよ。レクト、君だってそれを疑ってるんでしょ?」

「え?」

 今までそんなことを思いつきもしなかった様子のライマーは、

「あ、そういうこと?」

 と素っ頓狂な声を上げ、それから両手で自分の両腕を抱く。

「あいつら、仲が悪いから、それで? うひゃあ、女って怖え」

「そうと決まったわけじゃないけど……」

 レクトがなおも言葉を濁すと、モリスは、

「でも心配だね」

 と暗い声を出した。

「こんなことがこれからも起こったら、どんどんクラスの雰囲気が悪くなりそうだね」

「そうだな」

 ライマーも真剣な顔で頷く。

「俺たちもべルティーナたちは怒らせないようにしないとな」

「いや、そういうことじゃなくて」

「だって、ウルリケは自業自得だろ」

 ライマーは鼻を鳴らす。

「あいつみたいな態度取ってたら、やられたって仕方ねえよ。モリスだってそう思っただろ?」

「うん、まあね」

 モリスは顔をしかめる。

「べルティーナが怒るのも無理ないかなとは、僕も思ったけどね」

「俺だって嫌いだぜ、あいつ。人のことをいっつもばかにしたみたいな目で見るしさ」

「それはライマーがいつもばかみたいなことをしてるから」

「なんだと?」

 ライマーとモリスの会話を黙って聞いていたレクトだったが、そこで我慢できなくなって

「ウルリケは、そんなに悪い子じゃないんだ」

 と呟いた。

「ほら、僕はオリエンテーションでウルリケとペアだったから」

「ああ、そうだね」

 モリスが頷く。

「最初は、組むのが憂鬱だって言ってたのにね」

「うん。だけどああ見えて結構優しいし、素直なところもあるんだ。笑うことだって」

 そこまで話してから、面白がるような顔のライマーと目が合って、レクトは口に出してしまったことを後悔する。

「なんだお前、実はウルリケのことが好きだったのか」

「ち、違うよ」

 レクトは慌てて首を振る。

「どうしてそういう話になるのさ」

「そういえば前にもそんなことがあった気がするな。ウルリケって、レクトにだけは結構優しいんだよな」

「別にそんなことないってば」

「いや。怪しいぞ。やっぱりお前ら、好き同士なんじゃないのか」

「違うってば」

「いや、怪しい!」

「よしなよ、ライマー」

 一応モリスがたしなめてくれるが、調子に乗ったライマーは「レクトとウルリケ、好き同士ー」などと節を付けて歌い出す始末だ。

「もういいよ」

 やっぱり話すんじゃなかった。

 レクトは木から乱暴に飛び降りた。

「おい、待てよレクト!」

 慌てたライマーの声がしたが、レクトは振り返らずに走った。




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― 新着の感想 ―
[一言] まあこうやってぶつかりあって葛藤して経験値を積んで大人になっていく訳ですけれども。 ウルリケは自分でも自分の欠点をわかっていたっぽいのにあまり克服できてないのは家で教育にお金と時間をかけられ…
2023/06/29 12:24 退会済み
管理
[一言] ライマー、子供かよ(※子供です)。 モリスも気のつく感じではあるんだけれど、ウルリケのかわいいところを関わりのない段階で察するのは難しい。 私はいじめられる側が、こうだからいじめられるのは…
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