嵐(2)
「 ! まさか毒」
「そのまさかだよ。たぶんこの、叔父上も見たことない新しい菓子だけに入っていると思うけど。かなりの猛毒だろう。一口で冥界行き間違えなしだ」
フェリシテは信じられなかった。恐ろしさのあまり身体が震えだした。
「大丈夫? だから言いたくなかった」
フェリシテは淡々としている彼も恐ろしかった。何人も殺してきたような、と例えたがそれが今は歓喜の色を湛えていた。
「まさかギスラン様を恨んで、リリアーヌさんが?」
「違うな。彼女ならわざわざ今まで作ったことが無い菓子を入れる訳が無い。いつものままの方が不信に思わないだろう。彼女の行動を知ったものがこれを混ぜたのだろう」
「でもそれは難しいかも」
「どう言うこと?」
「彼女は今日が初めてじゃ無かったもの。時々話しかけたそうに私の近辺に現れていたわ。今思えば手には何時も菓子箱を持っていたから、その度に作っていたと思う。今日だけ何故、声をかけたのかしら? しかも都合良く毒入りだし」
ユベールは少し考え込んだ。フェリシテの話だと偶然を利用するには余りにも稚拙だ。リリアーヌが作る度に毒入り菓子を混入したとしても何度も渡せず持ち帰っている。もし中を見れば自分が作ったのと違う菓子があれば不信に思うし、誰かにやってしまえば関係ない死人が出てしまって騒ぎになる。今回初めて仕込んだに違いないが、リリアーヌが今日と言う日に動くことを決心させた何かを掴めれば何か見えてくる気がした。
「確かに奥ゆかしいリリアーヌが勇気を出せた理由が糸口だな」
「王子はリリアーヌさんのこと良くご存知なのですか?」
「ああ、彼女可愛かっただろう? 控えめで楚々としていて。もともと私の婚約者候補だったから良く知っているよ。叔父上より歳の釣り合いは取れているだろう? さっきも言ったように王族の婚姻は条件が難しいからね。特に私や叔父上ぐらいになると大変だよ。だからもし君が叔父上を選んだなら、リリアーヌと叔父上との間はあの調子だから離縁して貰って、私と結婚させるとかも考えられているようだしね。彼女は君ほどじゃないけど、王族にとって貴重な女性なんだよ」
自分とは正反対のようなお姫様らしい彼女が、ユベールと結婚するかもと聞いた時、胸がチクリと痛んだ気がした。
「このことギスラン様に早くお知らせしないと! 」
「駄目だ! 悟らせないためにわざわざ怒らせたのに」
「あっ、それであんなことを。でも命狙われているんでしょう? 教えて差し上げないと大変だわ! でもいったい誰がこんなことを」
「それこそ叔父上が知ったら大事になる。折角尻尾を出しかけた奴が穴倉に戻ってしまう。そんなことは絶対させない。何年もこの機会を待っていたんだから…それにいったい誰がだって?それは私が聞きたい。私の兄弟を殺した犯人なんだから…」
ユベールはもうフェリシテの前で偽るのを止めたのだろうか?
彼女がもちろん見たことが無い、激昂に彩られたユベールを目の当たりにしていた。輝く美貌を称えた 〝太陽神の如き〟 では無く、その名のように近寄ることも出来ない全てを焼き尽くす炎の星そのもののようだった。
「ジェラール王子殺害の…どうして今?」
ユベールは嘲るように嗤った。
「ははは、鋭い君が分からない? 私のことはあんなに言い当てるのに? 君だよ、フェリシテ、君だ〈天の花嫁〉が現れるという啓示から全てが始まった。王権を狙う奴にジェラールは殺された。その血で花嫁を迎える準備は整ったんだ。夫選びの遊戯? 冗談じゃない! これは候補者殺しの遊戯だ。最後に残ったものの背後に大逆人がいる。今日で一人容疑者は消えた。君と叔父上の噂はかなり効き目があったようだ。残りは三人。フェリシテ、君には感謝しているよ。最高の切り札なんだから」
フェリシテはユベールの人が変わったかのような態度にも愕然としたが、自分によって引き起こされた生死をかけた陰謀に顔色を失った。身体中の血が凍っていくようだった。王国に安寧をもたらす聖なる血が忌まわしいもののように感じた。人々は猜疑心に溢れ醜い心をさらし、血を流す。怨嗟は終わることが無く続いているのだ。
「わ、わたしが―――」
ユベールはフェリシテの様子がおかしい事に気が付いた。しかも自分が我を忘れて彼女に憤懣をぶつけてしまったことも―――
(今、自分は彼女に何てことを言ってしまったんだ!)
フェリシテは泣いているのかと思った。空から時折舞い落ちる雪のような肌が真っ青になって、小刻みに震えて瞑目している。その瞳がゆっくり開いた。その翡翠のような瞳に涙はなかった。そして微かに笑った。そう感じただけかもしれないが、微笑んだように見えた。何故微笑む事が出来るのかユベールは分からなかった。
その微笑に洗われるかのように彼も平常心に戻って行った。
「話して下さってありがとうございました。私が出来ることは何でも言って下さい。終わらせましょう。王子、全てを。オラール王国の未来のために。いいえ、私達の明日の為にも」
「君は何て…」
ユベールはそれ以上言葉を続けられなかった。彼女が自分の言葉に傷つかなかった訳では無いだろう。それを全て呑み込んで他を照らそうとする。これほど王国に相応しい女性はいないだろう。建国王を産んだ天人のように輝かしい未来を与えるに違いない。陽光の下で慈愛に満ちて赤ん坊を抱いていた彼女を再び思い出した。自分以外の男との間に授かった子を抱く彼女の姿を想像して、先日より胸苦しさを感じる―――
(この気持ちに気付いては駄目だ。気付いては…愚かなことは十三年前で十分だ―――
そう、全てを終わらせるために…待っているのだから――――が)
その後、暗殺者の気配が消えた。失敗して用心しているのだろう。ギスランは死んでいないし、その周りで死んだものもいない。証拠の毒入り菓子は跡形も無く消えてしまった。それは犯人をかえって慎重にさせてしまったようだった。
しかし進展が無いのでは無く、糸口は掴んでいた。それは考えられないもので確定するにはためらわれるものだった。もう一度、何か動きがあれば間違え無く押さえる事が出来るものと確信している。
その日の午後は突然の賓客が王城を訪れていた。その対応に王宮は慌しく追われていた時だった。王都のはずれの砦から早馬が到着したのだ。それは女王に宛てられた火急の救援要請だった。その内容とは妖魔の群れが砦を襲って来たとのことだ。今は凌いでいるが、砦の人員だけで防ぐのは難しいとのことだった。それを突破されたら砦内の町はひとたまりも無い状況だと言うことだ。
妖魔は少々の攻撃では死なない。傷はすぐ塞がり首が落ちてもすぐ再生するのだ。再生が間にあわないぐらい徹底的に致命傷を与えなければ殺すことが出来ない。獰猛で残虐な種族でひ弱な人間など軽く引き裂かれてしまう。
すぐさまユベールが呼ばれた。砦の管轄が東だったからだ。
「火急の呼び出しにより参上いたしました」
臣下の礼をとって面をあげたユベールは、何時もは威厳に満ちた母の顔が青ざめているのを見た。妖魔が出たとの報告を聞いて来たが、女王がこれほど狼狽しているのに驚いた。
「ユベール! そなた何故一緒に行っておらなんだ!」
「どうなさいました母上。そのような取り乱しようは?」
「そなた! フェリシテの今日の予定は知っておろうが!そなたの管轄なのに何故」
「まさか! 妖魔が出たと言うのは!」
今日、フェリシテは城外の砦の慰労に出かけていた。日帰り出来そうな砦や駐屯地など彼女は度々訪れては兵士達を労っているのだ。その場所に妖魔が現れたと言うのだ。
「フェリシテはまだ聖剣を使うことが出来ない。開放の呪を覚えただけでは使うことは出来ぬ。ユベール、急ぎ救援に向かうのじゃ!」
その時、後ろから声がした。
「ブリジット女王。私も同行させて頂きたい。その妖魔は私が追ってきたものかと思われます。聞けば群れない妖魔が群れていると。あの妖魔ならやりかねない」
後ろから現れ玉座の前に進み出て、自分の横に立った人物をユベールは見た。
真っ直ぐな濃藍色の長い髪を背中に流し、紫水晶のような瞳の冴える美貌。額に宝玉の環が輝いている。
「レギナルト皇子。それは心強い。お頼み申す」
「女王のご依頼であった件もこれで片付きますでしょう。聖剣の種類が違うとは言っても一度は見られた方が宜しいでしょうから」
レギナルト皇子と呼ばれた人物は今日突然現れた賓客で隣国のデュルラー帝国、第一皇子。〈闇の聖剣〉を擁する皇位継承者だ。近年稀に見ない傑出した皇子だとオラール王国にも名を馳せている。
最近デュルラー帝国にも〈冥の花嫁〉が現れたと聞いていたが、同時代に天・冥の花嫁が揃うのは大変珍しいことだと話題になっていた。まるで建国伝説のようだと
レギナルト皇子の突然の訪問は、オラール王国に逃げ込んだ上級妖魔を追ってきたとのことだった。そこで王国での討伐許可と捜査協力を女王に求めていた矢先だったのだ。共通の敵である妖魔討伐は両国間の協力の下強固なものなのである。
女王はその許可と共にフェリシテの聖剣の使い方の伝授を願っていたのだ。
女王は安堵の溜息をついた。聖剣の持ち主が行けばフェリシテの生存率は高くなるからだ。砦も簡単に突破される造りでは無い。彼らが到着するまで持ちこたえるだろう。
「頼みましたぞ。レギナルト皇子。横にいる者が余の息子で第二王子のユベールじゃ。このものが案内いたす。ユベールしっかり頼むぞ」
「第二王子のユベール殿?貴殿が第二…」
レギナルトは隣国のオラール王国のお家事情は知っているが目の前のユベールを初めて見て少し驚いた様子だった。表情には出さないが紫の瞳が少し細められた。
「初めましてレギナルト皇子。急ぎますので話は道々」
「承知した」
ユベールは焦っていた。こんな所で時間をかける訳にはいかない。一刻も早くフェリシテの元へ向かうことしか考えられなかった。
(皆、命をかけて彼女を守るだろうが安心は出来ない。あの跳ねっ返りの事だ、前線に出るかもしれない。今日に限って何故私は付いていかなかったんだ!)
ユベールは疾風のように馬で駆けながら自分の失態に唇を噛みしめた。
王都が王国の中で最も大きな街だが、その周辺は砦に守られた集落が点在する。妖魔対策の為に町の周囲は堅牢な壁で囲まれ容易に越えられない。
狙われるのは砦の外界へ開く門だった。そこを突破されれば今度は逆に民衆は外へ逃げることも出来ず妖魔の餌食となる。
フェリシテはその要である砦の上にある物見の場所にいた。急な襲撃でしかも初めて妖魔を見た彼女だったが冷静だった。妖魔はおぞましく人の形とは言えない。頭のようなものが二つあったり手なのか足なのか分からないものが何本もあったり色々だ。でも部屋の片隅で震えることなど無かった。勇敢にも防戦一方の味方の兵達を励まし続けた。そして助けに来てくれると疑わなかった。
砂塵を舞い上がらせながら馬で駆けてくる一団を見つけた。騎馬隊は妖魔を囲むように一糸乱れず展開して行く。その中に金色に光る髪を見た。
「みんな、ユベール王子が来てくれたわよ!もう大丈夫よ!王子―――っ。ユベールお・う・じ―――っ。ここよ」
フェリシテは大きな声で叫びながら手を力いっぱい振って跳ねた。ユベールが気付いたと思ったら一層跳ねて名前を呼んでいる。
「あの馬鹿!あんなところで。跳ねっ返りが!」
ユベールは悪態をつきながらも、安堵の溜息を漏らした。到着するまで生きた心地がしなかったのだ。手綱を握る手が震えて仕方が無かった。まるで自分の指じゃないように感じた。指先まで血が通って無く鼓動が止まったような感覚だった。フェリシテの姿を確認出来た時に、一気に鼓動が脈打ち始める感覚に襲われた。目眩にも似た感覚だ
レギナルト皇子は横目でユベールの様子を窺った。そして身を乗り出して手を振るフェリシテを見た。意外と物見の足場は高く無い位置にあり良く見える。
「勇敢で美しい〈天の花嫁〉―――オラール王国も安泰であろう。ユベール殿も果報者であるな。では早速参ろうか」
「私は別に――」
〈天の花嫁〉は自分のものでは無いと否定するユベールに、レギナルト皇子は意味深な笑みを向け、眼前の妖魔を見る。
妖魔は全部で小物を合わせて八体。その中にレギナルト皇子が追ってきた妖魔もいた。それは自分より下級の妖魔を操り群れて人間を襲う。砦からの軍勢とユベールの騎馬隊で挟み討ちをして今は妖魔達を足止めしている状態だ。
レギナルト皇子は響き渡る堂々とした声でフェリシテに呼びかけた。
「天の姫よ。今から闇の聖剣を使う。特と見られよ」
フェリシテはユベールの側らに騎乗する人物に初めて注意を払った。王者の覇気に満ち夜の髪色をした姿に息を呑んだ。
「あの方は?闇の聖剣って…」
「あれは!デュルラー帝国の皇位継承者であられるレギナルト皇子殿下では?」
側らの将校が驚きに目を見張りながら答えてくれた。
レギナルト皇子は軽やかに大地に降り立つと腰に下げた〈闇の聖剣〉を抜き両手で捧げ持った。〈闇の聖剣〉は柄に月の紋章が施され鈍い色を放ち銀色に光っていた。
一呼吸おいて皇子は聖剣本来の力を解放する呪を詠じ始めた。
「ДЖИУЫГЛ…深淵の静寂を破り我は汝を召喚する。我にその闇の無限と虚を滅ぼす閃きを貸し与えよ…йлФжДП」
呪が終わるに従って聖剣の刀身が白銀に輝き始め、その反対に周辺は光が失われたかの様に、闇色に染まっていった。しかし妖魔や人々と建物はくっきり見えるのだ。大気が闇色に染まったと表現したらいいだろう。呪は妖魔の動きを支配する。その場で身動き一つ出来なくなるのだ。皇子は聖剣を一振りした。するとその闇を切り裂くように閃光が降り注ぎ、妖魔達に次々と雷が直撃した。小物の妖魔ならひとたまりも無い。跡形も無く霧散し断末魔の叫び声が響き渡った。
皇子が動いた。例の妖魔の前で聖剣を構える。さすがに上級妖魔だけあって力も強く、呪縛の効きも弱い。皇子は攻撃をかわしながら妖魔に聖剣を突き立てた。刀剣から雷がほとばしり耳に耐え難い、切り裂くような声をあげて妖魔は絶命したのだ。
それを確認した皇子はまだ白銀に輝く聖剣を鞘に収めた。すると結界が消え周囲は次第に明るさを取り戻していった。
一軍が総がかりでかかっても斃すことが困難な妖魔を、瞬く間に消滅させることの出来る聖剣の威力を人々は目の当りにした。見たこと無いものは驚嘆し〈光の聖剣〉を見たことあるものでさえも格段に違う力の差に戦いた。
ユベールもレギナルト皇子の戦慄する力に感嘆した。
「レギナルト殿、噂通り素晴らしいお力ですね。建国王の再来とか言われる訳だ」
「ははっ、そのような戯言。貴殿こそ太陽神の如きと言われているとか」
「それこそ戯言です。見かけだけですから。しかし貴方は本物だ。容姿といい、その力といい。我々と違ってデュルラー帝国は安泰でしょう」
「――オラール王国の継承者は私と同じ歳と言うのに〈沈黙の地〉の封印を施したとか。私はその当時驚いたものだ。情けないことに私はまだ聖剣を扱えず、脆弱な父が封印の儀式を共にした。結果、我が国は封印が弱く多くの妖魔が出没する。素晴らしいことだ。だからあのような不幸が無く、その王子が成長されていたならば私など遥かに凌ぐ聖剣の守護者になられたであろう」
ユベールは苛ついた。そんなこと何時も聞かされることだった。他国の皇子に…それも何か言いたそうに色々言われる筋合いは無いのだ。
「同じことを皆申します。しかし過ぎたことを言っても仕方ありません」
「これは失礼。私も繰言は嫌いであった。気分を害されたなら謝罪す――」
レギナルト皇子が最後まで言葉を結ばず、駆け寄って来たフェリシテを見た。
彼女は皇子を見つめていた。フェリシテは聖剣の力を自在に操る彼の姿に感動していたのだ。
「これは困った。そのように美しい瞳で黙って見つめられたら言葉が出ない」
「あっ! 申し訳ございません。不躾に見てしまって。髪のお色とかも珍しかったし、聖剣を使う方は初めてだったので、つい。大変失礼致しました。私、フェリシテと申します。今日はありがとうございました」
「正直な方だ。この髪が珍しい? 濃い色が? 確に此処では確かに珍しいが…我が国では一般的だ。私はデュルラーのレギナルトと申す。妖魔討伐のついでにブリジット陛下より貴女に聖剣の極意を伝授するように申しつかっている」
フェリシテの瞳が輝いた。
「聖剣の! ありがとうございます。なかなか出来なくて困っていたんです」
「本当に勇敢な花嫁だ。しかしブリジット陛下の発想には驚かされた。まさか花嫁に剣を使わせることを考えるなど、我々では思いつきもしない。もし思いついても我が国の〈冥の花嫁〉にはとても無理だが」
「帝国には今〈冥の花嫁〉がいらっしゃるのですか?」
レギナルト皇子が、ふっと微笑んで頷いた。その笑みは遠い愛しいものを思い浮かべて微笑みかけているようだった。フェリシテはとても羨ましく感じた。
「貴女は大変だ。聞くところによると求婚者が数名いるとか?それを聞くと私は幸せ者だ。彼女は私だけのものだったから。だがもし此方のような事情だったとしても絶対に彼女を他の男に渡しなどしない。そう他の全てを滅しても…花嫁を手に入れるには、それぐらいの心がけが必要だと思うが?ユベール殿?」
「………」
問いかけられたユベールは返答出来なかった。お前は何をしているのだ? と言われたようなものだった。レギナルト皇子の〈冥の花嫁〉に対する烈しいまでの想いが伝わる。揺ぎ無い大帝国の皇子が見せる愛の形だった。
フェリシテは皇子から目が離せない。天と冥の違いがあっても皇統を継ぐ直系の皇子に、何かしら感じるものは同じなのかもしれない。だがそれよりも自分と同じ立場の花嫁が結婚する相手を知りたくなった。この皇子と〈冥の花嫁〉の関係が掴めればきっと自分の参考になると思うのだ。
何時までも瞳で追いながら魅せられたように帝国の皇子を見つめるフェリシテに、ユベールは苛立った。圧倒的な自信と覇気をみなぎらせ、全てを兼ねそろえた男と比べると太刀打ち出来るものはそういない。
(恋に疎いフェリシテでも…あの皇子なら流石に心動かさずにはいられないだろう。だがそれだけは絶対に駄目だ!許されないんだ)
ユベールはフェリシテが望む幸せのためなら、どんなことでも叶えてやるつもりだった。それが自分の彼女に対する思いだった。
血脈を守る為、天冥の血は決して混ざることは許されない。
まるで神話をなぞるようだった――――
お待たせいたしました!(ええっ~待ってなかった?)レギナルト皇子の登場でした。ユベールのライバルで嫉妬してくれそうな…出来る男をと考えてましたが…設定が上手くいかず、思わずレギナルトに再登場して頂きました。これ以上のライバルはいないと思います(笑)特に好きな言葉は「彼女を他の男に渡しなどしない。そう他の全てを滅しても…」これを言わせたかったぁ~満足です。