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石のコエ  作者: 鍵の番人
2/10

2.

「――不思議ちゃんじゃねーか!」

 翌日、病院に着くや否や、陽光は叫んだ。

「冗談じゃない。話とか無理。変になつかれてストーカーにでもなったら困るだろ!」

 院長室で本に埋もれていたけいは、しぶしぶといった表情で顔を上げる。

「なつかれてって……。違うよ陽光。僕は口説いてくれって言ったんだ」

「だから無理だって。大体、口説けって何だよ。あいつは恋愛恐怖症か何かなのか?」

 陽光の剣幕に、ようやく慧は本をとじて椅子ごと陽光に向き直った。

「もしかして、石や草の声が聞こえるとでも言っていたかい?」

 昨日の衝撃発言をあっさりと慧が繰り返す。陽光は一瞬言葉を失ったが、すぐにもう一度口を開いた。

「そ……、そうだよ! 病気なら病気で、治療するのは慧ちゃんの仕事だろ!」

「まあ待て」

 慧はおもむろに窓のカーテンを開けた。窓の外に、小さく香波の姿が見える。

「彼女は病気ではないよ。生まれつきの特性のようなもので、治るようなものでもない。……むしろ、もっとやっかいな……」

「え?」 

 最後の方が聞き取れなかったので問い返すと、慧は「いや、何でもない」と首を振った。

「とにかく、彼女は人より感受性が強くて繊細なだけなんだ。特に、共感力がずばぬけていてね。他者と自分との間に境界を築けない。相手の気持ちがわかる――のが高じて、石や植物の気持ちまでわかるようになったんだ」

「はあ? 繊細なだけって……。だからって、石の気持ちがわかるなんてあるのかよ」

「信じられない気持ちはわかるよ。こういう特性の人は他にもいるけど、彼女は正直、いきすぎでね。これ以上症状が進まないように、抑えてくれる人が必要なんだ」

 わかったような、わからないような。

 陽光は狐につままれたような気持ちで、質問を続ける。

「そういわれても……。それ、慧ちゃんじゃだめなのか?」

「僕はあくまで医師だ。個人的な関係にはなれない。親御さんは彼女の性質をなかなか理解してくれないし、友達はいないというし。同じ学校に通う君なら適任だと思うんだ」

 意外にもきちんとした理由があった。断る気満々だった陽光は、逃げ道をふさがれて恨めしい目を慧に向けた。

「……でも、なんでオレなんだよ? オレ、あんまり気とかつかえないんだけど……」

「だから君にしたんだよ」

「――はあ?」

「打っても響かない壁みたいな存在がちょうどいい。気をつかったって彼女には逆効果になることが多いからね。君はそのままフツーにしていればいいんだよ」

「……なあ。オレのこと、めっちゃ馬鹿にしてない?」

 陽光の控えめな抗議は、慧の無駄にさわやかな笑顔で一蹴された。そして、ぽんと背中を押されてクリニックから追い出されたのだった。

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