表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石のコエ  作者: 鍵の番人
1/10

1.

 新緑も目にまぶしい穏やかな放課後。

 棚田が並ぶ景観豊かな郊外に、陽光あきひろがバイトをしているメンタルクリニックがある。裏の土手を降りると川原があり、様々なレジャーが楽しめる自然にあふれた場所だ。

 とはいえ、平日はさすがに閑散としている。今も、制服を着た女子生徒が一人、しゃがみ込んでいるだけだ。

けいちゃんめ……」

 陽光は雇用主の言葉を思い出して溜息をついた。慧は精神科医であり、陽光のいとこでイケメンでもある。先ほど、バイトが終わって帰ろうとしていると、しかつめらしい表情をしてこう言ったのだ。

 ――ある少女を口説いて欲しい、と。

 中間試験のヤマと引き替えとはいえ、意味不明すぎる依頼だ。一度は断ろうと思ったが、それが咲原さきはら香波かなみだと聞いて考え直した。

 彼女の名は、男子の間ではよく噂されている。ほとんど学校に出てこない、病弱ではかなげな美少女。慧の患者だとは知らなかった。

 口説けというのは、慧なりの冗談に違いない。話し相手になる程度ならば、陽光にも少し興味があった。

 香波に近づくと、肩の辺りでそろえられた黒髪の隙間からすっきりとした横顔が見えた。

「あのー、あんた、三組の咲原だよな?」

 声をかけると、香波は驚いたように振り向き、その拍子に、小石が手の平から落ちた。

「ええと……?」

 いぶかしげな視線を向けられたので、陽光は慌てて続ける。

「ああ、驚かせてごめん。オレ、二組のもり陽光っていうんだ」

「森……。あ、そういえば、少し前からいとこがアルバイトに来てるって、先生が」

「ああ、それそれ」

 香波の表情が少し和らいだ。「それで、なにか用?」と、控えめに付け足す。

「いや、特に用ってわけじゃないんだけど……。慧ちゃんから咲原のこと聞いてさ、何してるのかなって気になって」

 まさか慧の言葉をそのまま告げるわけにもいかず、陽光は適当にごまかした。そんな陽光を、香波はじっと見つめている。話し終えた後も反応がないので、陽光は頬を掻いた。

「あー……、ええと」

「ふうん。先生に言われてきたってわけね」

 香波は小さく息をつくと、唇の端を上げた。

「悪いけど、邪魔しないでくれる? ――私、今、石と会話しているところなの」

「……は?」

(石と、会話だって?)

 陽光はぽかんとした。

 香波はその言葉通り、先ほど落とした石を拾ってなにやら話し始めた。陽光は呆気にとられたまま、呆然とその様子を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ