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オチ着かない話

作者: ミント

 ピピッピピピッ


 ピピピピピピピピピピピピッ


「んぁ〜? 」


 ガタンッ


 私は机の上に置いてあった目覚ましを叩く。


「んーもうなに〜」


 寝惚け眼を擦り、私は布団……ではなく何故か炬燵の中で目が覚めた。


「ってかあっつ! コタツあっつ! 」


 下半身に襲い来る炬燵の熱から逃げる為、私は匍匐前進で外へ這い出る。


 服装は何故か、昨日学校から帰ってきたままだった。


 そういえば昨日は学校昼で終わってからそのままカラオケ行って、それから帰ってご飯食べて、そのあと炬燵で瑠美ちゃんと電話して、それでそのまま寝ちゃったんだっけ。


 あーだめだなぁ私、今日卒業式なのに。


 卒業式なのに。


 なのに。


 ……ん、ちょっとタイム。


 がしゃんっ!


 慌ててさっき叩いたアラーム付き置き時計を手に取り、時刻を確認する。


 時刻は 8時17分。


「大遅刻じゃん!! 」


 やばい、どうしよう……!!


 幸いというか、私のずぼらな性格が功を成したおかげで部屋着じゃなくて制服着てるし、あぁでもしわくちゃになってる、、ってかそんなことより自分の匂いが気になる!


 最悪遅刻して行くしか……いやまてよ、そういえば昨日、、


『明日で最後だね、一緒に登校するの』


『うん、そうだね』


 親友の瑠美ちゃんが寂しげに頷く。


『高校生になって離れ離れになるけど、また遊ぼうね』


『うん。朱音あかねも元気でね』


 こんな事を瑠美ちゃんと昨日帰りに話した気がする。


 そうだ! 今まで三年間、毎日瑠美ちゃんと一緒に登校してきたんだ!


 それが今日、卒業式だけ遅刻するだなんて絶対嫌だ! なんとかしないと!


 とりあえずお母さんの部屋から香水パクってと。あぁ脇とか足とか臭くないかなぁ。くんくん、うーん、わかんない。


 ……ってかそもそもなんで家に誰もいないの!!


 まぁいいか、次は歯ブラシ歯ブラシ……あ、強くしすぎた、歯茎が痛い……。


 最後マウスウォッシュしながら髪の毛整えて、できた! よしっ、まだ待ち合わせまで1分あるっ。


 最後鞄持って、行ってきます!


 私は豪快に家の扉を開け、素早く扉を閉めてポケットから鍵を取り出し、エレベーターのボタンを押しに行こうと駆け足で鍵を閉めようとすると手が滑って落としてしまい、拾って鍵を鍵穴に入れようとしても中々入らず……


「あぁもうっ、泥棒とかする奴のせいで私はこんな目に……! 滅びろ泥棒! 」


 心から叫んで強引に鍵を閉め、走ってエレベーター……ではなく階段を駆け降りていった。


「はぁ、はぁ、」


 なんだろう、凄く肺が痛い。


 階段10階も降りたからかな。こんな事ならエレベーター待てばよかった。


 そして、ちょっとお腹痛い。


 なんでだろ、昨日調子乗ってアイス3つも食べたからかな。


「はぁ、はぁ」


 なんとか最後の気力を振り絞り、目的地である瑠美ちゃんとの待ち合わせ場所まで辿り着く。


「もう、遅いよ朱音! 」


「ご、ごめん瑠美ちゃん」


 私の到着が遅れてご立腹な様子の瑠美ちゃん。


「早く行こっ、学校遅刻しちゃう」


「うん、ほんとごめんね」


 近くの公園にある時計塔が指し示す時刻は、 8時26分を差している。


 学校には後4分で着かなくては遅刻だ。それなのによく待っててくれたね瑠美ちゃん! 優しい!


 それからさらに走る事4分。家から合計10分走り抜けたお陰でなんとか学校は遅刻せずに済んだ。徒歩25分程度の道をこれだけ早く駆け抜けたのは今日が初めてだ。私が元陸上部でなければこのタイムは出なかっただろう。


 教室へ着くなり早速体育館へ移動となった。乙女としては先にトイレに行って汗拭きシートで全身拭いた後、髪整えたりなど色々したかったところなのだが、そんな時間を先生は用意してくれないみたいだ。


 体育館へ行き、長椅子に座る。隣には私がこの一年間片思いしている伊藤拓馬いとうたくま君が座っていた。結構近い。


 ……あれ、大丈夫かな私。汗臭くないかな。


 というか香水付けてきたし、伊藤君にもしかしたら「こいつ卒業式に張り切って香水付けてきてるじゃん」とか思われてるんじゃないかなぁ。


 そして「香水付けてるのに汗臭いのはどうして? 」とか思われてるんじゃないかなぁ。いや思われてますよねぇすみませんちょっと離れます。

 

 そんなこんなで卒業証書授与式が行われた。私は臭いが気になって全く集中できなかった。それと、まだちょっとお腹が痛い。


 その後なんか無駄に立ったり座ったりを数回繰り返し、歌を歌い、また座ると卒業式は終了となった。


 最後花道を通ったけど、もう自分でもびっくりするくらい全く感動しなかった。


 その後近くの公園で集まってクラスの集合写真を撮り、その時感極まった友達が私に抱きついてこようとするのをさりげなく避けた。


 よし、これで帰れる!


 もうこの後の集まりとか、そんなの後でいい。とにかく今は家に帰りたい。お腹痛いし!


 ……しかしそんな時、事件は起きた。


「あの、野島さん! 」


 帰り際、私の名前を呼ぶ伊藤君の声。


「今、時間あるかな? 」


 まってまって。この感じはもしかして、あれかな? あれだよね?

 

 うーん、タイミング悪いなぁ伊藤君……


 どうせならキラキラした万全な状態で臨みたい。こんな汗だくの私が告白されるなんて冗談じゃない。


 でもここで「ちょっと用事が……」なんて言ったら遠回しに振ったみたいになるし、でも、でも、、あ、一旦トイレ行くか。 


 ……いいやダメだ。それじゃあ告白される前に一旦尿を足す女になる。


 仕方ない。


「う、うん。大丈夫だよ」


 私は精一杯大丈夫そうな声色で、そう告げた。


「良かった。じゃあえっとその、着いてきてください」


「はい」


 緊張しているのか最後敬語になってしまう伊藤君。私もつられて敬語になってしまった。


 こうして私は、公園内で割と人通りが少ない場所へと連れて行かれた。


 周りには花壇が沢山あって、雰囲気もいい感じ。伊藤君は誠実で頭のいい人だからきっと、前もってここに連れて来ようと計画を練ってくれていたに違いない。


「中学校生活、あっという間だったな」


「うん、そうだね」


 伊藤君が、遠くを眺めながらそう言った。


 心地良い、爽やかな風が吹く。


 今年の3月は寒い日と暖かい日が交互にくるのだが、今日は後者であった。故に私は汗だくなのだ。


 今の私は告白される緊張と朝からの腹痛が脳を支配していた。


 伊藤君は意を決したように私の目を見据え、


「俺達さ、高校が別になるだろ? これからは学校で会う事も無くなるから、だから……」


 頭が真っ白になっている様子の伊藤君。


 きっと前もって言葉を準備してきたはいいものの、いざ本番になって緊張してしまい、思うような言葉が出てこないのだろう。


 彼とは元々陸上部仲間だったのだが、前々から思っていた。彼は本番に弱い。


 頑張れ伊藤君……! 


 私はもうお腹が限界だ……!


「これからも一緒に居たいと思う! 」


 心地良い爽やかな風が、もう一度頬を撫でた。


 2人の間に沈黙が流れる。


 ……え、今ので終わり?


 伊藤君の顔を見ると返事を待っているのか、視線が私の顔と地面を彷徨っていた。


 私はどうすればいいのか分からず、腹痛に耐えながら立ち尽くす。


「……はっ! つまりだな! 」


 おぉ持ち直した!


「俺は、野島さんが好きだ」

 

 凄く、ドキッとさせられた。私も言葉を返さないと……。

 

「私も、伊藤君が好きだよ」


 私が返事をすると、伊藤君は表情をぱあっと明るくさせ、私に近づいて……


 いやダメダメダメダメ! 今抱き締められたりなんかしたら、伊藤君の恋冷めちゃうよ! 


「ちょ、ちょっと待って! 今はその、恥ずかしいから! 」


「あ、ご、ごめん」


 伊藤君は申し訳なさそうな顔で謝った。


 その後なんとなく気まずい雰囲気のまま、2人は一緒に帰ったのだった。


 そしてそれから十数年後。


「ってなもんで、私も若かったってことさぁ! あっはっはっ」


 もうすぐ中学校を卒業する娘に、私はこの話を教訓として語ってやった。酒を煽りながら。


「それがお父さんとの馴れ初めなんだね」


「ううん違う、これは前の彼氏の話。この後すぐに別れたわ」


「え、お父さんの話じゃなかったの!? 」


「よく考えてみなさい。私達は伊藤じゃないでしょう」


「た、たしかに……」


「因みに私、お父さんの前で臭いなんて気にしたことないわ。もちろん付き合う前からね」


「それはそれでどうなのお母さん……」


 私の言葉に苦笑いの娘。

 

「でも気をつけなさいよぉ。卒業式の前の日くらいは、ちゃんとした生活を心掛けないと……ぐーぐー」


「もう、お母さんってば」


 そう言って娘は私を持ち上げて布団まで運び、


「話も普段の生活も、もうちょっとオチ着いてくれたらな……なんちゃって」


 小声で恥ずかしそうにそう言って、風呂へ向かった。

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