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第7話 か、顔が近い……!

「おじゃましました。朝からお騒がせしてごめんなさい」

「いいのよ~よかったらまた明日もいらっしゃい。ごはん用意して待ってるから」

「そんな、ご迷惑ですよ!」

「若い子が気なんか使わなくていいのよ! 隣の筋肉塊を超えるくらい図々しくなりなさい!」


 それはどういう意味だ。それじゃまるで俺が図々しいみたいな印象を受けるじゃないか。勘弁してくれ。


「お母様、雄太郎くんは図々しくないです。とても優しい人です」

「あら怒られちゃった。雄太郎、良い子を見つけたわね~」

「母さん、朝からあんまり東郷さんをからかわないでくれ」

「雄太郎にまで怒られちゃった! それじゃおじゃま虫は退散しましょうかね~。それじゃ、いってらっしゃい!」


 いたずらっ子のようにクスクスと笑う母さんに見送られながら、俺達は学校に向けて出発した。


 ちなみに美桜は「二人の邪魔をしないように先に行ってるね~!」と言って、いつもより早く出ていった。


「なんか母さんがごめんね」

「ううん、大丈夫。お母様、面白くて優しい人なんだね」

「そうだね、ちょっと変わってる節もあるけど」

「もう、お母様の事をそんな風に言っちゃメッ! だよ?」


 少しだけ眉尻を上げながら人差し指をピンっとする東郷さん。小柄な見た目も相まってか、こういう可愛らしい行動がとても似合う気がする。


「それにしても、誰かと登校なんてした事ないから、不思議な感じだよ」

「お友達としたりしないの?」

「俺、友達って出来た事が無いんだよね。昔はいじめられてたし、ある程度大きくなってからは、筋トレ一筋で友達を作るって意識が無かったからさ」

「あっ……なんかごめん……」


 東郷さんは、申し訳なさそうに表情を曇らせながら、顔を伏せてしまった。


 俺としては一人でいるのは日常だったし、別に気にしなくてもいいんだけどなぁ。


「……あれ? 昨日親しく話してた人いたよね? あの人は?」

「ああ、加古さんの事? 小学校から知ってるからね。ただ友達かって聞かれると違うかな」

「そっか……良かった……」


 ……? 何が良かったんだろう? わからないけど、少し東郷さんが元気になったみたいだ。


「あっ、作る気はなかったとはいえ、一人じゃないと嫌ってわけじゃないぞ。実際に東郷さんと一緒にいるのは楽しいし、好きだよ」

「はうぁ!? あ、ああ、ありがとう! えーっと、あの、その……雄太郎くん! 今日も筋トレ頑張ってるね!」

「ああ、これ? ちょっとでも筋トレしてないと落ち着かなくてさ。こんなんだから母さんにも筋肉とか言われちゃうんだよね」


 俺は今日も片手でダンベルを上げながら登校している。これをしていないと、落ち着かない体になってしまっていたりする。


「……私は沢山努力してるって思うから、カッコイイと思うけどなぁ……」

「……そ、そっか。なんか照れるな……ありがとう」

「はっ……!? か、カッコイイなんて……うちゃ何ば言いよーと!?」

「落ち着いて東郷さん。ほら深呼吸」


 方言を漏らしながら焦る東郷さんに、ゆっくりと深呼吸をさせる。


 自分で言った事で焦っちゃうなんて、東郷さんって結構ドジなところもあるんだな。


「ありがとう、少し落ち着いた。ごめんね、急に変な事を言って」

「全然大丈夫。それに、カッコイイって言われた事って全然ないから、嬉しかったよ」

「あ、あう……そ、そうだ! そのダンベルってどれくらい重いの?」

「これは十キロだね。試しに持ってみる?」

「いいの? ちょっと気になってたんだよね」


 そのまま渡しても良かったんだけど、もしかしたら落としてしまう可能性を考慮した俺は、足元にダンベルを置いてあげた。


「お……おもっ……全然持ち上がらない……」

「あんまり無理をしない方が……」

「だ、だいじょうぶ……ふぬうぅぅぅぅ……!! きゃあ!?」

「危ないっ!!」


 東郷さんの細くて綺麗な腕じゃ厳しそうかなと思った矢先、手を滑らせて後ろに倒れかけた東郷さんを守るために、咄嗟に背中に腕を伸ばした。


 よかった、何とか間に合って地面に衝突するのは防げた。


「大丈夫? 怪我はない? 腕とか腰とか痛めてない?」

「は、はわわわわわ……ち、ちかっ……」

「あっ……」


 咄嗟に助ける事しか意識していなかったせいで、俺と東郷さんはかなり密着してしまっている。特に顔はかなり近くにある。恐らく十センチ程度しか離れていないだろう……少しでも動けばぶつかってしまいそうだ。


「ご、ごめん。昨日の図書館の時も今も……俺みたいにデカい男に迫られたら怖いよね」

「こ、怖くは……その、はなれっ……」


 耳まで真っ赤にするくらい怖がらせてしまった東郷さんから、俺は急いで離れた。


 はぁ……俺は昨日何を学んだんだ。こんなんだから筋肉馬鹿とか言われるんだよ……ヒーローみたいにスマートでカッコよくなるには、まだまだ道は遠そうだ。


「とりあえず怪我が無くて良かった。遅刻しちゃうし、そろそろ行こうか。立てる?」

「う、うん」


 俺は東郷さんの手を取って立たせてあげてから、学校に向かって歩き出したけど、東郷さんはボーっと立ち尽くして動く気配がない。


 ボーっとしちゃうくらい驚かせてしまったんだろう。申し訳なさでいっぱいだけど、早くしないと遅刻してしまう。


「雄太郎くんの顔が、あげん近くに……!」

「東郷さーん?」

「あっ……ごめん、なに?」

「遅刻しちゃうから急いだほうがいい」


 何か小声で呟いているが、あまりにも小声すぎて何を言っていたかは聞き取れなかった。


 はぁ……東郷さんには、昨日から色々と迷惑をかけちゃってるな……なんとかこの埋め合わせが出来ればいいんだけど……。


「……ところで東郷さん、いつまで俺の手を握ってるの?」

「あっ……! えとえと……あの、その……」

「……?」

「頑張れ私……今こそチャンス……!」


 何かぶつぶつと言ってから、東郷さんは一大決心をしたような真剣な顔で俺を見つめながら、手に力を込めた。


「このまま行きたいなー、なんて……」

「…………」

「……あのっ! い、嫌ならしゃっちがとはゆわんけん!」

「しゃっちが……?」

「あっごめん! 嫌なら無理にとは言わないからって言ったの!」


 なるほど、流石に今の方言は、何を言ってるかわからなかった。


 それにしても、手を繋いで登校か……想定外の事だけど、東郷さんが望んでる事だし、これは埋め合わせの機会が訪れたかもしれない。


「落ち着いて東郷さん。俺で良ければ、いくらでも」

「いいの!?」

「うん」

「えへへ、やったぁ……頑張ってよかった……」


 俺の了承がよっぽど嬉しかったのか、東郷さんは少しだらしない笑みを浮かべる。


 ……うっかりハンドグリップを握ってる時みたいにしないように気をつけないと。


『そげん泣くなって! またあいつらが来たっちゃ、やっつけちゃるけん!』


 東郷さんと手を繋いでいたら、幼い頃にヒーローに助けてもらった後、彼と手を繋いで家まで帰った事を思い出した。


 あの時は凄く安心したんだよな……彼みたいに、俺も東郷さんを安心させられるくらいの男になりたいものだ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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