教室の隅ですらいけない。
教室の真ん中で陽キャに挟まれ寝る日々、机を蹴られ周囲から悪口が聞こえる。
ただ眠たい。
授業を受け、ノートを取り、休み時間は寝る。そんな毎日だった。
そんな毎日が退屈で変わらないかなと思っていた。
でも実際のところ変わるとこんな気持ちなんだろうな、と言いたくなるような光景が目の前に広がっている。
日本じゃ見たことがない、ロシアとか高山地域の様な、見渡す限り長い草が生え、遠くに見えるは何千メートルはある山。
しかし、自分の周りの半径二メートルほどはミステリーサークルのように草が生えず、地面が広がっている。
さっきまで教室で寝ていたはずの僕は暫し意識を手放しその光景に目を取られる。そうしてガサガサと草の擦れる音に気付き我に帰る。辺りを見渡すことしかできなかった僕の意識は、音へと集中が向く。
怖い、何がいるかわからないこの場所で音が四方から聞こえて来る。恐怖を植え付けるには十分な要素である。
知らない土地、四方は視界の悪い長い草、そうして草をかき分ける様な音。何が迫っていてもわからないこの場所はどこに逃げるか考えても四方からする音によって逃げ場がない事を悟る事しかできない。
自分の服装に目をやる。黒の学生服で緑が多いこの場所でかなり目立つ気がする。だが動かなければいずれこの場所に音の正体がやって来るかもしれない。
草をかき分け、自分のいた場所から少し動きその場に伏せる。地面から服に水が伝わり体を冷やす。自分の手持ちは何もない。あるのは僅かな知識とこの学生服のみ。
伏せて気持ちが悪いが思考を巡らせる。
このまま死ぬ事を想像し、体が震える。この考えを捨て別の行動に思考を向けなければ本当に死ぬ確率の方が高いことは間違いない。
一を数えて二を数える、三を吸い、四で吐く。
自分で呼吸しポジティブな事を考える。
水はろ過すればいくらでも飲めそうなくらい地面が湿っている。水は確保できたに違いない。
だがたまたま雨が降っただけなのでは、この地域は雨が降らない可能性もある。
それに食料はどうするのだろうか。目の前にある草を抜こうとするが抜けない、単子葉植物、チューリップの様な草なので球根かと思ったが地下茎植物の様である。しっかり根が張っていて抜けない。手で掘ってまで確認したが食料は確保できない。ただこの草はきっと乾燥しやすいはずなので火をつけたりしやすくなったかもしれない。
だがここから動けない。思考を巡らせても音に怯えその場に伏せる事しかできない。吹っ切れたいが視界が悪い中、見えない相手と格闘することしかできない…
1時間だろうかもっと長くだろうか思考を巡らせ、精神状態が地までついたところで逆に冷静になる。音は風が吹いた後に来る。ガサガサ聞こえるのは風のせいだと。
[この時は考えが一方向にしか向いてなかったが相手が風と共に動き音を消している可能性もあった…]
ここまで考えれば相手がいるという想定の元動いてた方がおかしく感じる、何時間か前にいた自分が立っていた場所の周りは獣道もなく、自分が進もうとしている道も草が生い茂っているだけである。ここが地球じゃない可能性も考えたがそんな訳はない。この植物もどっかで見たことがあるし、太陽も浮かんでいる。太陽は沈む事なく、さっきまで何時間もいたと思っていた時間はたったの数十分も経ってないことに気づく。
なんだ、と学生服にに染み込んだ水を絞り、濡れていて気持ち悪いがもう一回着て、一番高い山の方に向かう、高い山には木も生えているし、食料があるかもしれない。こうして僕の旅が始まったのだった。