二日目:中流作家のこげまりさん
二日目。
今度は、都内の一戸建てにお邪魔する。
この家の奥様も、なろう作家さんらしいけど……
あ、玄関前を掃いてる。こんにちは。
「ああ、ちょっと早かったんですね、こんにちは」
すみません、早かったですかね?
「もう子どもを幼稚園に送り届けた後ですから、大丈夫ですよ」
ああ、ママさんなんですね。
お邪魔しまーす。
彼女はなろう作家のこげまりさん。
三階建ての一軒家。その二階のリビングで、いつも執筆してるらしい。
ふーん、こげまりさんは恋愛小説を書いているみたい。今書いているのは、どんなストーリーなんですか?
「今書いているのは、貴族令嬢の追放物語ですね。無実の罪を着せられ、一方的に断罪される。そこから山にこもってスローライフをしていたら、同じく追放された放浪中の王子様に出会うんです」
へー、面白そう。
評価とブックマークって、見せて貰ってもいいですか?
「今、ブクマは540件で、総合評価は1572ptですね」
えっ。凄いですね。pvはどれくらい?
「更新日に5000行くかな?と言ったところです」
じゃあランキングに載ったりなんかします?
「全然!これぐらいじゃランキングなんか引っかかりもしませんよ。異世界恋愛ジャンル、激戦区なんで」
異世界恋愛ジャンルというのがあるんですね?そんなに読まれても、ランキング入りは難しいんですね。
「そうですね。一回でも載ると、急に評価が入り出すらしいですよ。面白いですよね」
なるほど。面白い、か……。
こげまりさんは、設定集やプロットとか、作ったりします?
「いいえ。作ったことは、ないです」
ええっ。じゃあTwitterで見つけた仲間と作品を読みっこしたり……
「ないです、ないです。そんな時間があったら書きます」
そうなんですね。じゃあ、どんな感じでお話を書き進めているんですか?
「ストーリー展開を投げてみて、評価やpvが伸びたらそのエピソードを膨らませます。逆に反応が悪ければ、短めに切り上げます」
それってもはや、ライブですね。
「そうですね。なろうって、単に小説を発表する場……ではないと思うんです」
へー。
「読み手と一緒に作るものだと思ってます。だって本当に小説を読みたい人は、本屋か図書館に行くでしょ?」
確かに……
「気楽に手軽に読めて、作者にも話しかけられるっていう、特別な空間なんです。だからボールを投げ合うような感覚で、試作を詰めていく感覚ですね。書いてる最中に反応が貰えるって、凄いことですから」
本当に、そうですね。
こげまりさんが執筆するきっかけって、何かあったんですか?
「月並みですけど、本が好きなんです。で、読みまくってたらいつの間にか読みたくなる話がなくなっていて、じゃあ書こう、と」
それで書けるんだから、凄いじゃないですか。
「それは常々思っていて……お話を書く、って結構な特殊技能だと思うんです」
本当に、そう思います。
「それを肝に銘じて書いてます。多分、私は誰かが読みたい話を書いている」
はい。
「自分の哲学や好みをこう!って書いてもいいんだろうと思うんです。でも、なろうの読者がそれを望んでいるかどうかは疑問です」
そう聞くと、なろう作家さんって作家って言うより、職人みたいですね。
「それはあるかもしれません」
こげまりさんは、これが初めての作品ですか?
「そうですね」
初めてでこの評価は凄いですね。
「うーん、書きながら、まだ誰かの真似をしているなって感じていますから。これからが本番……かな」
なるほど。オリジナリティを出して行きたい、と。
「でも、職人は誰かのためにオリジナリティなんか出しませんからね。今、葛藤があります。オリジナリティ対、模倣」
そこにも葛藤が。
「やっぱり見てもらいたいですからね。馴染みのない話なんか書いても、誰も見に来ませんもの」
はー。難しい問題ですね。
「そこを突破するには、やはりファンの存在が必須だと思うんです」
ファン、ですか。
「なろうで言うと、逆お気に入りさんの数でファンの人数が分かります。私は15人」
ブックマーク500あって、ファンは15人!?
「そんなものですよ。いくら見られても評価されないのがなろうですから」
厳しいですね、なろうの読者って。
「厳しいと言うより、ランキング外の作家なんか眼中にないのが基本です。無関心なんです。だからランキングに載らない間に得た逆お気に入りユーザーは、めちゃくちゃ貴重です」
なるほど。じゃあファンをつけてから、独創性にチャレンジして行こうと?
「そうですね。跳べる勇気を貰えます」
そっかぁ。普通の小説や漫画に必須とされている独創性は、なろうでは余り受け入れられないのかぁ。
不思議だけど、七十万作品もあってやっぱり数が多すぎるから、はなからジャンルや的を絞って書くしかないのかな。