一日目:底辺作家のフスコデさん
(ナレーション)
緊急事態宣言真っ只中の、東京。
みんな自粛せざるを得なくて、少しずつ笑顔を忘れつつある。
けれど、そんな人々に、毎日のちょっとした楽しみを与える人たちがいる。
なろう作家。
「小説家になろう」という、日本最大級の投稿型小説サイトに小説を投稿している人たちだ。
もちろん、全員がプロ作家というわけではない。
プロもいるけど、出版経験もない人だって、書いていい。
誰だって書くことが出来るウェブサイトだ。
小説を自由に掲載したり、掲載された小説を読める、無料のサイト。
そこに投稿する人って、どんな人たちなんだろう。
私たちは、なろう作家たちの72時間を追った。
一日目。
都内某所のアパート。
ここに、一人目のなろう作家さんが住んでるって聞いたけど……?
コンコン。
「あ、こんにちは~」
こんにちは。あなたが、なろう作家のフスコデさん……?
「あ、そうです~」
では早速、お宅にお邪魔しまーす。
都内のワンルーム。1DK。男性の独り暮らし。
失礼ですが、ご職業は?
「テナント勤務です。事務方ですね」
へー、テナント勤務の会社員さん。
「今はこのご時世、テナント業界も死活問題ですよ」
ああ、本当にそうですね。今日はお休みですか?
「はい」
ということは、お休みを執筆活動に当てると。
「そうですね。執筆するのは、仕事終わりか、休日が多いです」
さて、早速、執筆活動開始。
ん?
このサイトの小説には、評価欄があるんですね。
「そう……ですね。ブックマーク数と、評価点というのがありますね」
読者さんは、読んだらブックマークと評価点を入れてくれるんですね?
「いやー、一概にそうとは言い切れませんね」
えっ。どうして?
「小説を読んでくれても、ブックマークしてくれるか、評価してくれるかどうかというのは、マチマチなんですよ」
何でだろう。評価してくれるといいですね。
「それが、あんまりしてくれないんですよねー。評価点をたくさんもらえれば、ランキングに載れて、たくさんの人が見に来てくれるものなんですが」
小説のランキングなんていうものがあるんですね?どれどれ。
わっ、トップページにある。なるほどー、ここに載れば確かに人がいっぱい見に来てくれそうですね。
「一日ほど表示されるから、めちゃくちゃ見て貰えますよ」
本当だ。一日で10万pvなんて作品もある。
ところでフスコデさんの作品は、どれくらいの人が見に来てくれるんですか?
あっ。でも、200pvもある。それなのに、誰も評価してくれない?
「一更新でブクマ1つくかどうかですよね」
そうなんですか。現在、お書きになっている連載のブックマークはどれぐらい?
「30です」
30人が見てくれている……?
「実際にはもっと多いと思うんですけどね」
まあ、確かに200pvありますからね。
……ちなみにどんなお話を書いてるんですか?
「まあ、こんな感じですかね」
大学ノートだ。
うわっ、すごい。キャラクターや世界観の設定がびっしり書き込まれている……
「今書いてるジャンルは、ハイファンタジーです。前回は純文学に挑戦してブクマ1で終わったので、今回は人気ジャンルのハイファンタジーで書いてみました。題名は〝紅蓮の旅人〟魔王に村を焼かれた勇者が、復讐の旅に出ると言うのが大まかな設定です。王道ファンタジーですから、モンスターの名前とか植物の名前なんかにもこだわって、他作品との差別化というか、世界観を強調して……」
とてもこだわっている作品なんですね。
「そうですね。どうしても、設定を考えるのが好きで」
見に来て貰えるといいですね。
「そこなんですよね~。実はTwitterでの宣伝もやってるんです」
へー。
「Twitterで宣伝すると色んな人と繋がれて、今、そのその仲間たちとで読み合いをしてるんですよ。みんなで高め合って行けたらなぁって。読んだら感想を書きに行くよ、って約束し合ったり」
なるほど、感想ですか。
「ブクマや評価より嬉しい時、ありますね」
ふむ。ブクマ30。感想も30。評価点360……?
「仲間は心の支えですね」
そうですか。
「作品を書く、というのも大事ですけど、やっぱり仲間の存在が大きいですね。ほら、ここに逆お気に入りユーザーっていう欄があるでしょう。彼らをお気に入り登録するとメッセージを送れるようになったりして、親交が深まることもあるんですよ」
そっか。なろうはただポイントを稼いで、ランキング入りを目指すっていうだけのサイトじゃないんだ。
「まあ、それでも勿論、評価はされたいですけどね」
やはり評価はモチベーションになるわけですね?
「そうですね。正直、評価されないとお腹が痛くなりますよ。執筆に費やした全ての時間を否定された気がしますね」
そっかぁ、とても苦労して書かれているんですね……
「なろう作家さん、みなさんそうだと思いますよ」
やめたいと思ったことはある?
「毎日思ってますよ。でも、仲間も頑張ってるから書くかぁ……というところはありますね」
評価されない悩みはあるけれど、フスコデさんは仲間と繋がれて、執筆出来て、それなりに楽しいみたい。