新人のゴールデンウィーク①
4 新人のゴールデンウィーク
1日目、唐津
2日目、武雄
3日目、干拓の里
事務所二階に貼り出されていたGWのスケジュール表。僕が入っている班の行き先を確認する。
てことは今日最初の現場は唐津という事になる。
「ふーん、唐津か」
別の班の中村が隣でスケジュール表を眺めていた。
「中村はどこ行くの?」
「えーと、諸富。一人は寂しいなあ」
そうセリフを残して先に出発していった。
駐車場で中村を乗せたハイエースを見送った後、程なくして僕等も同じタイプのハイエースに乗って出発した。
事務所は佐賀市内にある鍋島という地区にある。そこは田畑が広がっており、比較的車の通りは少ない。事務所はその一角のちょっとした住宅街の中にある。道路を挟んだ向かい側にはちょい広めの公園があり、大和にある倉庫かこの公園で練習をする。
そんな鍋島から約30分ほど車を走らせると、やがて温泉街みたいな場所に出た。ゴールデンウィークの初日なだけに道を歩くお客さんの数もとても多かった。
ハイエースの中は運転席に武田さん、助手席に岡本さんが座っており、その後部座席には横に3人が座れる横長の席が2列あり、その後ろに荷物を置ける空間が広がっている。
前の席に左から土端さん、岸江さん、末光さんの女性3人が座り、後ろの席に僕と北川が座っていた。
「緊張するやろ?」
後ろを振り向いた岸江さんの笑顔にただ黙って頷く僕と北川。
「大丈夫よ、すぐ慣れるから」
と言ってニコリと微笑んだ。その笑顔にちょっとだけ緊張が溶ける。
約1時間くらいの下道を走り、田園広がる景色を抜けると海が見えた。
これが唐津湾だろうか。
車の数も建物の数も増え、遠くには唐津城が姿を見せていた。
そうこうしているうちに現場に到着。
「ここですか?」
降りた場所は大きなショッピングモールの裏だった。
「ここから荷物搬入するよ!」
「あ!」
土端さんを始め、岸江さん、末光さんらがバタバタと荷物を降ろす。武田さんは一人店内の方へと向かった。
一通り荷物を降ろし終えると岡本さんが乗ってきた車を運転して何処かへと走り去ってしまった。
「岡本さんどこ行ったんですか?」
「ん?駐車場に止めに行ったのよ」
岸江さんの言葉になるほどと頷いた。
近くの台車を借りてそこに荷物を乗せる。そこへ店内から戻って来た武田さんが一人一人に何かを渡していく。渡された物は入店許可証だった。
「失くしたら五百円払わないといけないから失くさないようにね」
武田さんに言われて、僕は大事に入店許可証を首にかけた。
店内はまだ準備中で、無音でちょっと薄暗い空間が広がっていた。
僕達一行が着いたのは、エスカレーターがある横の空間だった。ここで皆んな荷物を降ろし始め、忙しそうに準備し始めた。
僕は何をしていいか分からずにオロオロする。同調するように北川も僕の隣でボーッとみんなを見ている。
それを見た岸江さんが僕の所にやってきた。
「一緒にテント立てて、中に荷物を入れようか」
「はい」
僕と北川は見よう見真似で作業をした。テントを立てた後は荷物を中に入れながらテント内を整理した。
バトルブレスレットはもっとも大事に安全な場所へ移動させた。
テント内作業を終え、外に出ると、何もなかった空間が簡易ステージと客席、そして音響卓が出来上がっていた。
「いつの間に?」
僕と北川は急に緊張度が増した。
ステージは正直小さい。こんな小さいステージでどう戦うのだ?
「大丈夫。バトル中はこのステージが特設ステージになってだだっ広くなるから」
「あ、それ前回も聞きました。不思議ですね。そうやってるんだろう?」
岸江さんと話してると、相手チームが遅れて入ってきた。
「新井君、今日対戦するチームよ」
言って20メートル先の対戦相手に挨拶する岸江さん。
一人の男性が武田さんに近づいていく。
「よう武田。元気か」
「ああ、そっちも元気そうだな」
「当たり前だろ。今日こそは勝たせてもらうからな」
結構威勢よく武田さんと話していた男の人は準備にテント設置などの取り掛かった。
「あの人ね西って言って、武田さんと同じ高校の同級生だったのよ。伊野田さんと三人ライバルのように競ってたみたいだけど」
「伊野田さんて人は?」
「前に武田さんと同級生で去年までウチのチームにいたんだけど、今は別のチームにいるの。まあ経営者も元はウチのチームの社員さんで、ほぼ兄弟会社みたいなものだけど」
丁寧に説明してくれた土端さん。僕は今日対戦する相手チームを見ながら聞いていた。
「相手チームは唐津を拠点に活動するドルフィンて会社で、佐賀でもうちの爽より前からあった会社だ。向こうの要注意人物はそれといっていないが、油断はしないように。落ち着いて戦えば勝てると思う。作戦は前衛に岡本さん、中盤は俺、後衛は土端、岸江、新井君の三人でいく。北川君は場合によっては参戦してもらうかもしれないけど、とりあえずバトルがどんなものか見ていてくれ。末光は全般的なフォローを頼む。陣形は魚鱗でいく」
武田さんの作戦に頷き、いよいよ変身の時。
各々がバトルスーツへと変身していく。
「緊張してる?」
隣で髪をゴムで束ねている岸江さんの問いに僕はチョットだけと手でジェスチャーした。
「私も緊張する。頑張ろうね」
微笑む表情に僕は頷いて応えた。
変身した岸江さんの姿はイルカそのものだった。青と橙に染められたバトルスーツに見惚れる僕。
「何しよん?早よ変身せんね」
土端さんの言葉に我に返った僕は慌てて変身した。
岡本さんと同じ鳥色のベースに身を包む。岡本さんは同じ鳥ベースとは言っても鳥の種類が違うみたいだ。それに貧相な僕のバトルスーツよりも岡本さんの方がだいぶ豪華に感じた。
北川も頑張ろうな!と僕に言葉を投げかける。
全員の変身が終わったところで全員が武田さんの方を向く。
「ゴールデンウィーク初日だ。行くぞ」
さあ本当の初陣だ!