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スーツアクターバトル  作者: ハムモツ
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基礎的なこと②

 1週間後、ついに僕等3人のバトブレが会社に届いたという連絡を自宅で受けた。

 つまり今日から僕等も練習に参加できるのである。

 先週見たような練習を思い出すと、果たしてついていけるのか不安はあったけど、時間は待ってくれない。

 自分の部屋で無駄に時間が流れていく。ソワソワ、ソワソワしているうちにもう出発しないと間に合わない時間になったので急いで準備する。

 今回北川と中村が用事で来れないらしく、一人寂しく自転車を漕いで会社に向かった。

 会社前に着くと一人という寂しさと、会社という建物の存在にちょっと足がすくんでしまっていた。

 でもいつまでもここに居ても仕方ないと深呼吸し、玄関ドアを開け2階にあがった。

 2階入り口ドアを開けると、たくさんの人が静かにデスクワークしていた。


「お疲れ様です(汗)」


 ビビりながら挨拶をすると、みんなが僕に視線を向け、挨拶を返してくれた。

 手前に武田さん、金井さん、女性の方。奥におじさん2人。一番奥にひげを蓄えたメガネの方。

 左側には面接で使った手前のソファの奥に3人の女性がデスクワークしていた。その人達の上には2枚の紙が貼られていた。よく見ると、武田雪洋を契約社員にする辞令だった。

 隣にはもう一枚、伊野田淳弥という人で、エクストラという荒尾市にある会社へのレンタル移籍をした辞令だった。


「下で待ってて」


 武田さんに促され、僕は会釈して1階へと降りた。

 1階には誰かいるのか、話し声が聞こえてくる。

 中に入ると、ちょっとしたアスファルトのスペースと仕切りがある先にカーペット?があって、話し声はそのカーペット奥からだった。

 カーペットは土足厳禁で手前のアスファルトで誰かが靴を脱いでいたので、自分も靴を脱ぐ。

 靴の数的に3人はいるだろうか?


 カーペットの空間はちょっと広めで、真ん中にテーブルがあり、テレビや棚とかが壁際にあった。


「お疲れさ〜ん」


 岡本さんが声をかけ、それに続いて土端さんと、あと1人見知らぬ女性が挨拶をしてくれた。


「ども」


 と、挨拶をするけど、特に自分は今日何も疲れたことしてないけどな〜なんて思っていた。


「初めまして。岸江穂花です」


 見知らぬ女性はそう言ってお辞儀をした。


「新井蒼太です」


 同じくお辞儀を返した。


「ここに座りなよ」


 岡本さんに促されて、その隣に座った。


「学校帰り?学校どこだっけ」


 土端さんの質問に僕は首を横に振る。


「学校は北高です。通信制なんで毎日じゃありません」

「てことは今日は休み?」

「はい」


 そう、僕は中学卒業後、北高の通信制に入学した。

 基本的に3年で卒業を目指す人は日曜と月曜に通学。4年で卒業を目指す人はそのどちらかに通学すればいい。後は自宅で教科書を見ながら、たくさんある課題を書いて提出すること。

 そして7月、12月、3月のテストで合格ラインをクリアし、それぞれの授業出席日数規程をクリアすれば単位がもらえ、卒業が出来るのである。

 だから通信制のほとんどが社会人である。残り少数が僕のような現役高校生と変わらぬ年齢なのだ。


「良いなあ〜あたし課題が面倒。来年は保育の実習が始まるし、、、」


 テーブルに体を倒してぐったりしている土端さんに微笑む岸江さん。


「あたしもヤバい」


 二人は大学が違うけど、同じ保育士を目指す大学2年生だ。

 金髪の岡本さんも後で知ったが、大学4年生らしく、卒業後は何も決まっていない。

 そんな会話をしていると、2階から武田さんが降りてきた。


「じゃあ倉庫に移動しようか」


 武田さんの運転で、倉庫まで移動した。

 倉庫の中に入ると、武田さんを中心に円の形になった。


「ゴールデンウィークのチームメンバーは、この5人プラス新人の北川君ともう一人の7名になる予定です。なので今日は新人の新井君を中心に基礎練習をします」


 武田さんから発した北川君の名前に心細い気持ちがちょっとは緩和されたような気がした。


 ゴールデンウィークはイベント業界でも一番忙しい時期で現場数が多くなる。それが2週間後。自分もデビュー戦に向けて基礎だけはしっかりと練習しなければならない。


 早速、武田さんと土端さん、岸江さんのペア。そして僕と岡本さんのペアになった。

 武田さん達は奥の方に移動し、僕と岡本さんは、手前に移動した。


「まずは動きの基本を教えるね。バトルは前回参加してもらって分かったと思うけど、バトルブレスレットを使用した5VS5の格闘戦になる。

 勝利条件は相手5人全員の殲滅か相手陣地にある対象物を破壊。もし30分内に決着がつかない場合は、残ったメンバーが多いチームの勝利となる」


 岡本さんは咳払いを一つし、


「ちなみにスーツには耐久度が存在するんだけど、その耐久値を越えた場合は撃破されたものとみなされる。撃破され、人数が不利となったチームには時間が経つにつれてゲージボーナスが加算される」

「ボーナス?」

「バトル中に応援してくれるお客さんの声の力がゲージで溜まっていく。それは俺たちが装着するバトルスーツに直結していて、様々な力に変換されていくんだ。メンバー数で不利でもこれを活用すれば逆転は可能って事。ちなみに拠点の核はそれほど耐久値は無くて脆い。破壊してしまえば一瞬で決着は決まる」

「ってことは、別に敵を倒さなくても勝てたりするんですね」

「うん。だけど、そう簡単にはいかない。スタート前に最初のチーム陣形を決めなきゃいけないんだけど、その陣形が相手と相性が悪かったら陣形能力ボーナスポイント面で不利になり、いきなり苦戦を強いられる。攻撃特化で有利になることもあれば、不利になることもあるし、その逆もまた然りだ」


 指を立てて説明する岡本さんの言葉に半分理解し、半分はチンプンカンプンだった。


「まあ徐々に慣れていけばいい。今回のゴールデンウィークは俺や武田君もいるからいくらだってフォロー出来るし。まず今日は基本中の動きを練習していこう」

「はい!」


 ということで、説明もそこそこに早速動きの練習から始まった。

 手技、足技の基礎を教えてもらうが、今までサッカーを趣味でやってはいたけど、それ以外ずっとゲーム三昧だった自分には荷が重く、また体もかなり硬く、うまく出来なかった。

 対して岡本さんはかなり体が柔らかく、股が180度全開に開いていた。


「すごい、、、」


 自分も頑張ればそれくらいになるのだろうか?


 1時間の基礎の後、今度はバトルブレスレットを使用しての練習に入る。2つに分かれていたペアは合流する。


「これが君のブレスレットだよ」


 武田さんから受け取ったブレスレットは前回使用した高木さんのとはちょっと色が違っていた。


「ブレスレットには一人一人違う属性が付いてて、変身するスーツも個人個人違うんだ。新井君はどんなスーツと属性なんだろうな」


 武田さんの言葉を聞き、僕は改めてブレスレットに目を向けた。


「早速変身してみようか」


 岡本さんに頷き、僕は前回と同じように手の甲にある水晶に触れ、押した。



 シュバーー



 すると忽ち光が僕を包み込んだ。視界も全て光一色に遮られた。

 その光が収まる。


「ああ!」


 土端さんが驚きの声をあげた。

 視界は全方位見れなくなっており、より鋭く、そして呼吸はやや苦しくなっていた。

 全身装着している感がある。


「鳥ベースのスーツ、、、俺と同じか、、、」


 岡本さんが呟く。

 僕は鳥のスーツに身を纏っているらしい。


「新井君、こっちの鏡で自分を見てみ〜」


 土端さんに促され、鏡の前に立ってみた。


「これが俺のバトルスーツ」


 近くにある鏡に移動し自分の姿をマジマジと眺める。

 鳥の顔を象ったマスク?ヘルメット?に、体の真ん中が茶色で、左右外側が腕にかけて青色のスーツとなっていた。


「新井君、水晶は何色に光ってる?」

「水晶?あ」


 岡本さんの差した僕の右腕。つまりバトルブレスレットに視線を移した。

 水晶は手の甲にある。変身するときに手の甲にある水晶を押すのだ。

 その水晶の色は赤色だった。


「火属性の鳥」

「岡本さんが風属性の鳥だから、タイプはちょっと違いますね」

「うん」


 岡本さんと土端さんの会話を聞きつつ鏡に写った自分の姿を見つめた。


「よし、今度はこのバトブレを使った練習に入る。新井は引き続き岡本君に基本を教えてもらうように。土端と岸江は俺と実践訓練だ」


 武田さんの指示に従い再び2つに分かれた。


「引き続きよろしくお願いします」


 ペコリとお辞儀をする僕に対し、岡本さんはニコリと笑みを浮かべながら右手に装着した自分のバトブレを使い変身した。

 包まれた光の中から現れたのは、この前見た姿と同じ赤色のスーツと鳥ヘッドだった。


「俺は風属性の鳥だ。基本的に鳥ベースの人は風属性が多い。風属性の方が舞うのにプラスに働くからだ。だが、新井君の場合は鳥がベースでありながら火属性。

鳥との相性はあまり合っているとは言えない」

「え?そうなんですか?」

「だけど使い方によっては強力な技を繰り出せたりもする。まだこの業界は始まって日が浅いし、世の中の認知度は低い。だからこそこれからの時代は無限の可能性がある。今は常識である事もいつかは覆る時が来るかもしれない」

「・・・」

「ちなみに属性にはそれぞれ相性がある。火は風に強く風は土に強い。土は雷に強く雷は水に強い。そして水は火に強い」

「相性か」

「だから相性的には俺の風よりも新井君の火が有利というわけだ。というわけで、来たるゴールデンウィークに向けて少しでも使いこなせるように練習するよ!」

「は、はい!」


 それから僕は岡本さんからバトルブレスレットを使った技の基本を教えてもらった。

 全員のスーツにある標準装備で銃と刀がある。といっても銃には弾が無いし、刀に至っては刃がなくて鞘のみだ。

 つまり弾や刃は装着者自身のバトルエネルギーによって作り出さなければならない。より攻撃力のある弾や刃を作り出すためには、個人の基礎能力を上げなければならなかった。

 他には攻撃に火の属性を組み込むやり方。バトルブレスレットを使用しての防御方法。

 残りの1時間はその基本的な練習であっという間に終わった。

 練習が終わった時には汗びっしょりだった。


「お疲れ様。しっかりと身体をケアして疲れを残さないようにね」

「お、お疲れ様でした!」


 ヘロヘロの僕は変身を解いた。バトルブレスレットは持ち出し禁止。会社に大切に保管される。

 慣れない動きで帰宅した時には早くも全身が筋肉痛だった。

 これ、明日もっとバッキバキの筋肉痛だろうな、、、。

 次の練習は1週間後。本番の三日前だ。それまでに今日教えてもらった基礎を復讐しないと。

 僕は今まで感じたことのない新しい事へのドキドキと不安に包まれていた。

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