べストメンバー②
「すごい」
本田さんがたまらず感嘆の声を漏らした。
確かにすごい。これがトップ同士の戦いなのか?
それよりすごい戦いをしていたのが金井さんと福西さんだった。
拳と拳の殴り合い。
最初に仕掛けたのは金井さん。それに受けて立った福西さんは、お互いのパンチを避けずに受け、お返しのパンチを避けずに受けている。
攻撃と防御の応酬だ。きっとノーダメージではないだろう。蓄積されていくダメージにどちらが先に根をあげるのか?
五組とも互角のバトルを見せていたが、明らかに押し始めたのは八木野さんだった。
一年目というバトル歴しかないのでは流石に八木野さんに勝つことはできないか。逆に言うとそんなレベルでよく善戦したものだと言うべきか。
「うおお!」
大貫さんが叫ぶ。何かをする気だ?
「あれって、ソウルウェポン!?」
本田さんが驚きの声を上げる。ソウルウェポンって、牧田さんが召喚した武器のこと?
「ソウルウェポンはランク3からじゃないと出来ないはず!」
「それが可能になるくらい大貫には秘めたる力があるのかもしれん」
本田さんの言葉に答えたのは僕の知らない人だった。
「横山さん!?お、お疲れ様です!」
本田さんが眼鏡をかけたおじさんに深々と頭を下げる。誰だろう?的なクエッションマークの僕ら新人に本田さんが気づき、
「エクストラの社長だよ!前に爽で社員をしてらした方だよ」
「あ、おつかれさまです!
と、慌てて僕や有沢、中村達も挨拶をした。
「爽には未来を背負う若い子達が育っているみたいだね」
ガハハと笑顔で話す横山社長に本田さんはかなりテンパっている。
「本田君、大貫は君と同じ高校二年生だが、未来の我が社を背負うであろう逸材だ。彼は夜月によくしごかれているみたいだからな。今後が楽しみだ」
大貫さん、まだ高校生だったのかそれであれだけの実力を持っているなんて。すごい。
ランク3からじゃないと召喚できないソウルウェポン。おそらく一発逆転を狙う気なのだろう。しかし、
「やはり今はまだ時期尚早だったか」
横山さんがため息をつく。
そう大貫さんのソウルウェポンを実態しきれずに掻き消えた。そして力尽きた。
結果的には自滅した形となった。だがバトル経験が少ない者が戦うには一かバチかの賭けしかなかったのかもしれない。
杉尾さんに向かっていく大河さん。最初はお互いダメージを蓄積し合う攻撃の往来だったが、徐々に大河さんの攻撃を見切っていく杉尾さんが優位に立っていく。
「杉尾さんは相手の動きを見切るのが上手い。今回も大河さんの動きを見切っている」
大河さんの攻撃に的確にカウンターを入れていく杉尾さん。このまま行けば勝ちは間違いない。
ダメージを受けて体力の消耗も足にきている大河さん。そろそろ限界みたいだ。
シュウウウ!
急に大河さんの周りに風の渦が現れる。
「なんだあれ!?」
「風の属性スキルだ。何か仕掛けてきそう」
ステージを見ながら本田さんが説明する。
生まれた風がとても大きくなっていき、大河さんを隠していく。
「一体何をする気だ!?」
大河さんの姿が見えなくなるくらい大きな風の渦となった。その大きな渦が杉尾さんへと向かっていく。
「そのままぶつける気だ!」
構える杉尾さん。風の衝撃に備えている。
杉尾さんが作り出した土の障壁が風の渦をかき消していく。
そんな杉尾さんの頭上から急降下で向かってくる大河さん。その抜き放たれたエネルギー剣が杉尾さんを捉えた。
ガキイイン!
大河さんのエネルギー剣が捉えたかに見えた瞬間、杉尾さんのカウンター気味の拳の突き上げが相手の腹部にヒットし大きく吹き飛んだ。
岡本さんが左右に飛び、夜月さんを翻弄する。しかし無駄な動きを止めた夜月さんも静かに耐えている。
時折繰り出す岡本さんの攻撃に隙を見せず対応していく。
「さすが夜月さん。岡本さんの攻撃にも全く動じてない。というか出来るだけ体力の消耗を抑えてチャンスを伺ってそうだ」
本田さんの言う通りだ。どこからいつやってくるかも分からない岡本さんの攻撃も、無駄な動きを極力避けている。岡本さんは鳥の機能をふんだんに使い、夜月さんの周りを飛び続けている。
「やっぱり徐々に岡本さんの機動力が落ちている気がする」
そこを夜月さんは逃さなかった。
スピードが落ち始めた岡本さんの攻撃を避けつつ背後から一気に詰め寄る。
慌てて上空に逃げようとする岡本さんの体にしっかりとしがみつく。
上空まで飛び上がり、夜月さんを叩き落とそうと一気に急降下していく。
ドガアアアン!
とても大きな音と衝撃が客席にも響き伝わってきた。
叩きつけられたのは夜月さんではなく岡本さんだった。
岡本さんに押さえつけられた状態で急降下し、激突の瞬間にスルリと抜け、逆に岡本さんを叩きつける形となったのだ。
岡本さんが負けた。負ける姿を見たことなかったから、目の前で起きていることが少し信じられなかった。それくらい夜月さんは強いのだ。
本田さんを始め、中村や有沢も驚きの表情を隠しきれない状態みたいだ。
武田さんと伊野田さんの戦いは武田さんが適時打を与えてはいるものの、その攻撃に動じていない。逆に伊野田さんの攻撃は空を切る。しかし、その一撃はとても力強そうで、一つでもクリーンヒットすれば危ない。そんな感じがする。
一時、間をとる二人。
武田さんがエネルギー剣を握る。それに応じるように伊野田さんもエネルギー剣を握った。
初動態勢に入る二人。武田さんは相手に剣先を向けて、伊野田さんは相手から隠すように。
走り出す二人。鍔迫り合いに火花が激しく飛び散る。そこに武田さんの雷が伊野田さんを襲う。それを土の防御壁で防ぎ、さらに作り出した土の塊が武田さんに突っ込む。しかし、それを叩き割る武田さん。その生まれた隙間を狙って伊野田さんが突っ込み、剣を振るう。
それを上手く避けカウンターで斬りかかる。それをなんとか避け、互いの一撃が互いのエネルギー剣を封殺した。
剣を放し、そして繰り出す渾身の一撃。お互いの拳がクリーンヒットした。
「獅子重痕!」
武田さんの叫び声と共に追撃で伊野田さんに食らわす。吹き飛ぶ伊野田さん。
「勝った!」
「いや!相打ちだ」
武田さんが膝をつく。胸を手で押さえた。
「伊野田さんのクリーンヒットが効いたようだ」
武田さんと伊野田さんのバトルはお互い決定的なダメージを与え、引き分けに終わった。
武田さんの勝ちでない終わり方も初めて見た。信じられない感じだった。
残るは金井さんと福西さんだ。
先ほどまで拳での撃ち合いをしている二人はその勢いを止めることなく撃ち続けている。
金井さんの力を込めたパンチを避けようともせずにまともに食らう福西さん。しかし、表情は変わらず今度は金井さんに強烈なパンチを浴びせる。無論金井さんも身動き一つせずにその攻撃を体で受け止める。
僕には訳が分からなかった。その痛みを敢えて受け止める意味が何処にあるのか?そんなことせずに避けるものは避けて攻撃した方がいいんじゃないのかと。
「漢と漢の闘いって感じですね」
本田さんが視線を変えず呟く。
「ああ。金井は無敵の男である福西の背中をずっと追いかけていた。だから彼はその福西のパンチを全身で受け止め、それを越えようとしている。同じように福西も金井の想いを全身で受け止めている」
横山社長も同じく視線をステージに向けたまま答えた。
僕はその言葉を聞いても理解があんまり出来なかった。二人の関係がどういうものなのかは知らないけど、こんな漫画のような世界があるのか?お互い痛みよりも引けない何かがあるのか?今目の前で起きている戦いはもしかすると今後語り継がれるような激戦なのかもしれない。