始まりが突然すぎる①
とりあえず試し書き
1
寒かった冬が過ぎ、春の訪れを知らせる桜も散り始めた頃だろうか。僕は中学からの友人である北川、中村と3人で、ある場所へと自転車で向かっていた。
「急げ蒼太!時間無いぞ!」
先を行く中村に追いつこうと返事もせず立ち漕ぎをするが新聞配達をしている中村は身体能力が高いのかスタミナがあるのか分からないが、自転車を漕ぐスピードはとても早かった。それに難なく付いていく北川。2人とも中学では卓球部で、そこから仲良くなったみたいだ。
僕も初めはサッカー部だったが、練習について行けず1年ほどで部活を辞めてしまった。
3年の時に同じクラスだった中村と意気投合し、よくカラオケに行く仲になった。卒業を目前になって何かバイトをしようと話した時に中村と友達だった北川と知り合い、北川の一個上の先輩がやっているバイトを紹介してくれるらしく、僕と中村が誘われた。
で、実際にバイトの様子を見てみようってなって向かっているのだが、どうやら開始時間が11時からみたいで、北川が先輩から遅くても30分前には着いとけよ〜と言われていたらしい。
現在の時刻は10時。ここからじゃあかなり飛ばさないと間に合わない。
何のバイトをするのか?
前日に北川から聞いたのだが、どうやら遊園地とかでアニマル系の着ぐるみを着て子供に風船をあげる内容らしい。
なんだ楽勝じゃん!とバイト経験の無い僕からしても楽なバイトだと思っていた。そんな簡単なバイトを30分前に到着してずっと見ていろというのか?それならすぐにでも入って稼いだ方が良いのでは?と思ってしまう。
予定より10分遅れで到着した。
場所は大和町にあるスーパーだった。
ここでやるの?
目の前には買い物客ばかり。スーパーに買い物に来た親子に風船を配るんだろうか?
「多分あれだ」
言って北川が指差した方向に一つの白いテントがあった。
北川を先頭に僕と中村が続く。
丁度よく誰かがテントから出てきた。
見た目が若く、なかなかの高身長のイケメンだった。
その男の人が僕らを見つけるなり手を振った。それに応え軽く会釈する北川。知り合い?もしかして北川が言ってた先輩か?
「なんとか間に合ったね、来ないんじゃないかって焦ったよ」
「遅くなりました」
謝る北川。背の高い男の人がこっちに視線を移す。
「言ってた友達?」
「はい。こっちが中村陽介でそっちが新井蒼太です」
「こんにちは」
「初めまして」
軽く挨拶をする僕らに笑顔で対応する男の人。
「初めまして。北川君の友人の本田です。とりあえず、中に入って、他の先輩達に挨拶しとき」
促されて3人は本田さんを先頭にテントの中に入った。
中はまあまあ広めで、そこに色々と物が置かれており、数名の男女が居た。見知らぬ3人が中に入った事で、そこに注目がいく。
「武田さん!話していた後輩とその友達です。今日は見学に呼びました」
本田さんに紹介され軽くお辞儀をする3人。
「初めまして。武田です!よろしく」
黒髪の男性がにこやかに近寄ってきた。この武田って人もなかなかの身長で雰囲気が大きく見えた。
「よろしくお願いします」
北川が受け応える。
「若いね〜何才?」
「15歳です」
隣にいる女性の質問に北川が答える。その返答に奥の人達も驚く。
この人達がこれから可愛い着ぐるみに身を包み風船を配りに行くのか…
表と裏のギャップにちょっと笑いそうになった。
テントの中には仕事に使うための道具?や私物?とかが置かれていた。
その中に一つ大事に置かれている物があった。
近寄り、まじまじと見つめる僕。
一つの箱に大事に置かれている物。見た感じ腕に付けるような形をしており、プラチナの輝きと手の甲付近にガラスの様な丸い水晶がはめられていた。
「初めまして、川崎です。それ見た事ないでしょ?」
猫みたいな可愛らしい顔をした女の人が隣で話しかけてきた。
「あ…これって?」
「これはバトルブレスレット。私達はバトブレって呼んでるんだけど。これは仕事する上でとても大切な物なの。うちに入ったら自分専用の物が支給されるの。手に取ってみる?」
「良いんですか?」
「落とさないでね」
言ってバトルブレスレットというものを一つ取り出した川崎さんは僕に手渡した。
思ってた以上に軽く、しかしながらしっかりとした作りになっているのが手から伝わってくる。
「これをどうするんですか?」
「自分の腕に装着するの」
「腕に?」
言われて試しに自分の腕にはめてみる。
「他の人のだから何も起こらないけど、自分のブレスレットなら、この水晶がその人の属性に光りだすの」
「ヘ〜」
そのバトルブレスレットに付いた水晶が明るく光る。
「え?」
「光った?え?なんで?」
光る水晶を見せる僕に目を丸くして驚く川崎さん。
「うそ!?なんで!?」
ビックリする女の人に困惑する僕。
「武田さん!」
テントから入ってきた女性が血相を変えて入ってきた。
「高田君がさっき足を怪我したらしくて!」
「ええ??」
そう言って女性はテントを出ていく。その後を追う武田さん。
「ちょっと待ってて」
そう告げて武田さんに続く本田さん。
隣にいた川崎さんと僕達3人だけがテント内に取り残された形となった。
北川や中村と何とも言えない目線を送った後、みんなが帰ってきた。
本田さんに肩を借りて入ってきたのは若い男の人だ。見た感じ高校生といったところか?右足をヒコヒコと庇いながら近くの椅子に腰かけた。
「大丈夫?」
隣の川崎さんが心配そうに言葉を投げかける。
「はい、大丈夫です!やれます!」
怪我した高田という男の人は顔を歪めながらもそう答える。
「いやいや無理やろ!」
本田さんが苦笑する。
「怪我した状態じゃあ戦えないでしょ」
本田さんの強めの口調に何も返せず、ただ怪我した足をさすっている。
「ん〜今回はサブメンバーを連れてきてないし…どうするか…」
武田さんはそう言って何か良い方法がないか必死に考えている様子だった。辺りをグルリと見回し、やがてその目線は僕達で止まる。
「誰か一人出てくれない?」
武田さんは笑いながら僕達に問いかけた。
「え?」
一瞬何を言っているのか理解できなかったが、要するに怪我した人の代わりに出ろって事だよね?
「それは無理じゃないんですか?」
武田さんの隣にいた別の女性の人が僕達を見ながら言う。
「やり方も何も知らないし、それに専用のバトブレも無いんですよ」
「確かに」
女性の言葉に頷く本田さん。
「腕輪の心配なら大丈夫かもしれない」
川崎さんが声をあげる。僕が女性に目を配ると、真剣な眼差しで僕を見つめていた。
「あなたが装着した時、このバトブレが反応していた」
「それはあり得ないでしょ?」
武田さんの隣にいる女性が否定する。川崎さんは僕の腕を持ち上げ、装着しているバトブレをみんなに見せた。
「ほら!間違いなく反応してる!」
「ホントだ!どうして?」
驚きの声をあげる女性。
「ねえ、お願い。一緒に出てくれない?」
川崎さんは真剣な眼差しを僕に向けた。そんな目で女性にお願いされるのは生まれて初めての事で思わず顔が赤らいだ。
「いや、でも、、、」
「ごめん出て!立っとくだけで良いけん!後は俺らでフォローする!」
え〜〜!?