牧師
「良い教会だな。」
「ラスボスもいますから。」
「それ言っていいの?」
「いや、知っているでしょ。」
確かに序盤の教会にしてはかなり歴史を感じられるつくりとなっている。
豪華なつくりではないが手が入っており、小奇麗に感じる。
大切に今日まで使われてきたのだろう。
しかし、中にいるのはくだらない小悪党の牧師だ。
「ここも一人で行くのか。」
「はい。」
「そうだよな。」
当然だという顔の村娘を見て、俺は中に入っていった。
「すいません。失礼……」
声を出したことを後悔した。
目の前にいるのは牧師と主人公。
そして、記憶では主人公がここに来るのは2度しかない。
1回目ががラスボス前。そしてもう1回目が牧師と戦う時だ。
そして、初めて教会に行くシーンは今でも覚えてる。
少し嫌がる牧師を押して教会を掃除している主人公だったが、懺悔室の奥にある隠し部屋を見つけてしまう。
そこには悪魔を崇拝する祭壇や生贄が多数ある。
その瞬間後ろから思いっきり牧師に殴られ、失神してします。
起きた時には汚名を着せられ悪魔崇拝者としてこの街を追放される。
しかも、その汚名は物語中盤で牧師を倒す時まで付いて回る。
この物語で最初で最大と言ってもいいほど大きな躓きなのだ。
前までだったらこの状態を無視していたのだが今は主人公が根っこからの善人だと分かっている。
「どうしたんですか?何かここに御用ですか。」
牧師は柔らかく微笑み、俺を迎えた。
この笑顔の裏に何が隠されているのかと思うと俺は苛立ちを覚えた。腹が立って仕方ない。
「いえ、この町に来てから一切教会に来ていなかったので祈りを捧げようと思いまして。」
「いい事ですね。どうぞ。」
「はい。」
俺は祭壇の前で祈りを捧げた。
しかし、自分の作った世界の神様に祈るというのは何とも気恥ずかしい。
かといって祈る事を口実に来たのだ、手を抜いて祈る事は出来なかった。
祈るふりを終わらせ俺は牧師に振り返った。
「ありがとうございます。」
「随分と長く祈られておりましたね。なにかあれば聞きますが。」
牧師は相変わらずの薄っぺらい笑顔で俺を見てきた。
ぶん殴ってしまいたい衝動に駆られるがもう少し様子を見てからでも遅くないと決意をする。
「いえ、今日は時間がないので」
「そうですか。」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あの、お布施は……」
「すいません。忘れました。」
「……そうですか。分かりました。」
一瞬、牧師の顔が引きつるのを俺は見逃さなかった。
本当にどうしようもない生臭だ。
やはり主人公についたほうがいいのではないかと考えが揺らいできた。
ーギィー
静かな教会にどこからか錆びた扉が開く音がした。
その瞬間、牧師の顔に緊張が走った。
俺はすかさず、話を振った。
「どうしたんですか。」
「いえ、勇者様に掃除をお願いしたんですが、どうやら頼んでいないところまで掃除をしてくれているみたいですね。」
「頼んでいないところ?」
「ええ。……奥の物置です。」
「そうですか。」
「もう帰られるのですよね。玄関まで送りますよ。」
「ありがとうございます。」
俺は、あえて相手の口車に乗っかり牧師のエスコートについていった。
巧みに懺悔室の方からは視線を遠ざけるよう動いている。
「では、気を付けて帰ってください。」
「はい。ありがとうございます。」
牧師は俺が出ていくと鍵を閉めた。