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異世界転生

「見たことのない天井だ……」


 一度は行ってみたい言葉を思わず口にしてみる。

 目を覚ますとそこが見知らぬ家などという経験は金輪際ないものだろう。


「くすっ……」


 声のする方向を見ると気品が溢れる少女が立っていた。茶色のセミロングの髪に合わせたような茶色の瞳。動きやすい格好をしていたが聡明さが溢れていた。


「目覚めたのですか?」


 その声もやはり気品と知性に溢れていた。しかし、それよりもいまは気になることが。


「あれ、今笑わなかった?」

「目覚めたのですね?」

「いや、そうじゃなくて笑わなかった?」

「ご無事でなによりです。」

「あ、ああ、ありがとう」


 これ以上触れてはいけないような気がして仕方なく折れることにした。


「森で倒れていたんですよ。覚えていますか?」

「君が助けてくれたのですか。」

「くすっ……見つけたときは少しウルフの群れに右足を齧られていましたが、目立った外傷はないようだったので。」

「あれ、笑った?」

「何のことですか、どこに可笑しい所があったんですか?」

「まぁ、そうか。助けてくれてありがとう、痛むところもないし大丈夫だよ。」


 齧られたという右足を見るとアザ一つ残っていなかった。


「あんなところで、どうしたんですか」

「いや、それがレッドベアーを倒したところまで覚えているんだけど、そのあと急に気を失って」

「魔法で倒したんですか?」

「そういえばそうだったような……」

「くすっ……魔力が尽きて倒れたんですね。」


 再び、笑い声が聞こえてきたので顔を見てみたがやはりすました顔で俺の方を見ていた。


「それにしても珍しいですね。魔力欠乏で倒れるなんて。」




 俺が書いた小説の冒頭の言葉だ。


 その時の言葉を俺に向けられている。


 本来、主人公がレッドベアを満身創痍の果てに打ち倒し村娘に助けられる筈なのだが……


 どうも締まらない事になってしまっている。




 魔力欠乏・・・魔力が不足して一時的に活動ができなくなる様。




 俺は一発の魔法で魔力不足として活動停止になるほどの虚弱体質ということになる。


 目の前の娘にどれだけ勘付かれているが……




「どんだけ虚弱体質なんですか?」




 前言撤回、完璧に気がつかれているようだ。




「最近、レッドベアが徘徊しているんですよ。今回はまだよかったですけど、今後気をつけてくださいね」




 小説と同じ言葉が目の前で繰り返される。


 少し気持ち悪くなり言葉を変えてみる。




「そのレッドベアなんだけど、赤毛で大きな熊みたいなやつ?」


「レッドベアを知らないんですか?」


「いや、知らないというか確認したくて。」


「そうですね、特に今回のは特異態らしくて大きさも戦闘力も異常らしいんですよ」


「やっぱり、多分昨日倒したよ」


「何言ってるんですか?頭おかしいんですか?」


「頭おかしい?」


「いえ、レッドベアを倒したなんていうのでつい口が」




 穏やかに微笑む雰囲気に押されて怒りの感情がどこかに行ってしまった。




「でも、レッドベアを倒したのは本当だけど」


「……じゃあ、どうやって倒したんですか?」


「えーと、火アータルなんだけど」


「え、初級魔法の?」


「まぁ、そうだけど」


「あの、5歳児でも使えれるというあの魔法?」


「たぶん、それであってると思うけど」


「さすがにそれは盛りすぎじゃないですか……」


「いや、本当なんだけど」


「うーん。何発も連発したとか?」


「いや、一発で仕留めたけど」


「一発で?」


「火アータルを撃ったら跡形もなくレッドベアが消し飛んで、それから気を失って……」


「一発で消し飛ばして、魔力欠乏で失神するほどの魔法なんて聞いた事もないし、ましてや火アータルなんてありえないと思いますけど。」


「いや、ありえないなんて言われても……実際そうだったしな」


「そうだ!一度目の前でやってみないですか?」


「ここで」


「ここなら魔力欠乏で倒れても大丈夫ですし」




 そう言っている目が少し俺の事をバカにしている様に見えて闘争心が湧いてきた。




「別にいいけど」


「念の為外でやりましょうか」




 家の外に出るとそこは俺が思い描いていた風景。いわゆるナーロッパの農村が広がっていた。


 村民がちょうどジャガイモを収穫している姿に突っ込みたい気持ちが出てきたが堪えた。


 都合がよく家の目の前に謎スペースがありそこで魔法を試す事になった。


 普段何に使うかわからないがこの為に存在しているのだろう。




「ここでいいでしょ。存分に試してみてください。」

「燃やし尽くせ原初の焰ほのお……」


「え!」




 詠唱の途中で急に聞こえてきた声で思わず詠唱を止めた。




「何かあった?」


「いや、初級レベルのものだから詠唱しないものかと思ってたので」




 自分で作った設定なのにすっかり抜けていた。


 詠唱など戦闘時の隙以外の何物でもないと嫌われていた。


 終盤戦では異常なほど詠唱の時間が掛かるものか肉弾戦以外描かなかったからだろう。


 作者として強い魔法を出したい事と簡単に勝負をつかせれないという矛盾をなんとかする為には仕方ない事だったがまさかこんな形で弊害が現れるとは思わなかった。




「もし詠唱しないとできないならそれでも構わないですよ」




 そこまで言われて流石にこのまま普通に詠唱をするわけにはいかない、急遽予定を変えて自分が知る限り最強の無詠唱魔法をする事にした。手を空にかざし術名を呟く。




「終焉エターナル」




 その瞬間手のひらから龍神をかたどったドス黒い炎が獲物を求めて天に昇っていった。


 大きく広げた口で太陽を噛み砕くとその炎は消えた。


 太陽は12個、月は21個あるので問題ないだろう。


 それにたしかあの太陽には生命体はいなかったはずだ。




「え!え!何が起きてるの?」




 取り乱しているその声を聞いて俺は優越に浸りながら失神した。

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