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始まり

 28歳の誕生日。シャンパンとケーキを前に俺は脳汁全開でPCに向かっていた。

 俺が、和井菜郎が構想5年・執筆15年の超大作「ソードマジックワールド」が完結を迎えそうなのだ。


 小学校時代はずっと妄想に耽り、中高時代は親友と二人の放課後に語り合い社会人となってもずっと書き続け心の支えにしてきた。設定をまとめたノートも何冊にもなった。


「出来た!」


 完成した物語を前に拳を突き上げ喜びを爆発させた。完成したものを小説家になろうに投稿した時なぜだろうか、少し目から涙がこぼれる。

 時計は2時21分。思いの外時間がかかってしまっていた。グラスに満たした安いシャンパンを飲み干し、完成の余韻に浸った。

 その瞬間PCが不思議な光が全身を包んだ。




 光が収まり、辺りを見渡すとそこはよく見慣れた自室ではなく想像でしか見たことのないほど深い森の中だった。

 嗅いだことのない深い緑の匂い、よく分からない動物が鳴く声、足にくっつき粘ついた感触のする泥のような何か。経験のないことの頭がパンクしそうになった。


「むーむー」

「うわっ」


 足元に擦り寄ってきた何かに思わず飛び退いた。


「むーむー」


 最初は毛だまりにしか見れないそれは愛嬌のある声で自分に擦り寄ってきた。

 見たことのない筈なのにどこかで見たことのあるその生き物は無邪気に足元で戯れている。

 想像上の生き物のように邪気がない。……想像上の……想像……。


「おまえ!」


 俺はその生き物を持ちあがた。なんとも言えない柔らかな感触。つぶらな瞳に身近な4本足。体長はちょうど俺の指の先から肘まで。

 間違いない、その生き物は俺が作った物語で出てくる想像上の生き物、『ムームー』だ。その毛は衣服などに使われ、乳も毛も栄養満タン。労働力としても十分に活用できる上以上に人懐っこい。そして……


「ガルルルル」


 そして、野生のムームーのそばには猛獣がいることが多い。

 目の前にいる巨大な熊を前にして一番大事なことを思い出した。


「うわぁ」


 振り下ろされた掌が体に圧力をかける。熊だと思っていたが、熊ではない。レッドベアーだ。確か勇者一行を最初に脅かす存在のモンスターだ。

 それをこんな何の装備もしていない一般人が何かできる筈がない。……ないよな。

 終わらない攻撃が俺にふとした疑問を投げかけた。


『何でこんなに攻撃もらっているのに血の一筋も流れていないのか』


 確かに攻撃の圧力は感じるが痛みは感じない。そう思うと少し頭に思考の隙間ができた。

 ここは俺が作った世界だとしたら、魔法も使えるのではないか。いや、それしか方法はない。


「燃やし尽くせ原初の(ほのお)(アータル)


 詠唱をすると目の前に小さな火が現れた。その火はゆっくりとレッドベアーに飛んで行った。

 その火がレッドベアーの体に当たった瞬間、天まで届く火柱が立ち昇った。

 その火はレッドベアーの悲鳴も飲み込み跡形もなく燃やし尽くした。


「…今のはメラゾーマではない…メラだ…」


 その威力に思わずそのセリフを口ずさむと俺は気を失った。


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