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『七行詩集』

七行詩 321.~340.

作者: s.h.n


『七行詩』


321.


成せずいたことの 未練や無念が


作り上げたこの風貌を


貴方は美しいと言った


私の 醜さを受け入れ そう言った


貴方が私に 伸ばした手に


いつか 裏切られる日が来るのなら


その手を離さず 行きましょう 海の深くまで



322.


私はいつから この木の傍で 待ち続けたか


或いはもう あの人は通り過ぎたのでしょうか


傷つくための決意をし


屋根の外へと 飛び出したのは


耐える事に 耐えられなくなった日のことで


湯冷めをし 風邪をこじらせた日のように


寒いなと 感じてからは もう遅いのです



323.


灯りを消し 手を繋いでも 良いですか


ともに眠りにつくことなど


それこそがまるで 夢のようで


すぐ傍で続く 安息の音が


突然細くなったとき


このまま貴方を失うのではないかと


怖くなることが あるものですから



324.


行きつけの店 鏡の前に立ったとき


あなたは喜んだことでしょう


約束の日には この服を着て 行くのだと


この靴を履いて 出かけるのだと


足に慣らして 踵を鳴らして


軽やかな歩と 佇まい


なんと美しい その輪郭であることか



325.


指の先 空の端に見える山の


頂上から 枝をかき分け


秋が町まで 降りてきたら


木々たちと 貴方は衣替えをする


その着合わせは 見事であり


まるで 自分だけがただ枯れていく中で


あたたかな紅を ベンチで眺めた



326.


約束の日に 心の庭に 咲き乱れ


輝く花を 摘んで輪にした


二人の童話を 伝えましょう


この指輪が 誰かの手によって外され


たとえ踏みにじられようと


決して砕けることはなく


私たちの 絆の堅さを 証明するでしょう



327.


永遠とは 忘れず胸に残り続ける


過去のことでしかないのでしょうか


真に受けたって 忘れたって


そこに証人はいないのだから


再び会うこともないのだから


もう約束はできぬでしょう


全ては変わってゆくものだから



328.


衣服や輝く装飾も


偶然に見せかける演出も


人を喜ばせる才能は


人を騙すことで得られるのか


不利なのはいつも こちらの方で


貴方は 爪や言葉を 突き立てながら


私の反応を 推し量っている



329.


あの日 寒空の下 待っていたものは


僕を迎えに来る列車か


来ないはずの 君からの見送りであったのか


君がこの町に 残るなら


僅かの間さえ 離れることは厭わしい


君がこの町に居ないのなら


僕は残り 君の帰りを待ちたいのに



330.


あの日 互いに気づけたのは


二人がここに来るまでに


感性が惹かれ合うように


育っていたからに他ならない


しかし偶然は 神の祝福のようで


私は手を伸ばし 縋りつくように


醜い姿も さらしてしまうでしょう



331.


二人の平和には あとどれだけの


時間が残されているだろう


もしも隕石が落ちてきたら


氷河が地上を覆ったら


私たちの魂は どこへ向かうのか


長い旅に出る その駅で


再び出会うことができるだろうか



332.


孤独の闇に向かう道に


君が追いついてしまったときは


"こちらに来てはならないよ"と


私は向き合い 止めるでしょう


私の行き先を変えるのは


貴方にしかできないことなのに


貴方は私を 受け止めてなど くれないのだから



333.


朝焼けを望むベランダに


答えは降りてこないまま


どこまでが役割で どこまでが自由なのか


心の向かう先 私が罪を犯すなら


その罪さえも 自由なのか


私は多くを望まない


明日の在り方を 選ぶ自由さえあればいい



334.


どうして私を生んだのですか


どうして私は 醜く生きねばならないのですか


愛という 罪に罪を重ねてゆく


愛する人に 刃を自分に向けさせて


自らの尊厳を傷つけ


その傷にさえ 泥を塗るような 愚かな子を


母は捨てられなかったのだ



335.


孤独でも 時は我らの傍にあり


草木を育て 春には春の彩りが


夏には夏の香りが


心の庭にも 訪れます


そして 秋には赤く燃え上がり


冬には枯れてしまうでしょう


季節は孤独の色を変え 私を一人 残すのです



336.


男にはわからなかった


何が貴方を泣かせたのか


ただそれが生き様なのだと


自らも震えだす心を抑え


今日も扉を開ければ


その罪さえも 小さなもので


貴方の胸に 生きることはできないのだろうか



337.


これからは 一人で過ごしてきた時間を


再び重ねるのではなく


同じ分だけの時間を 取り戻しに参りませんか


今ならまだ間に合うから


平坦で長い幸せは 最果てまで二人を導き


地平線に日が沈むまで


僕らは歩みを 止めないでしょう



338.


いつの日か 背に栄光を携えて


赤い絨毯を歩くとき


その場の誰もが 歓喜とともに


貴方を迎えることでしょう


暗闇の中 歩き続け 迷い込んでも信念が


貴方をそこまで 導いた


今や貴方が 皆を導く灯りのようだ



339.


貴方が町へと降りてきたら


そよ風に 道案内をさせましょう


広がる庭に ゆらめく蝶々


自由気ままに 或いは 覚束ない様は


貴方と同じであるようだ


そうして色を見つければいい


最も綺麗で 丈夫な花に 止まればいい



340.


もしも列車が 急に行き先を変えたなら


貴方が降りるのは どんな駅ですか


最初に差し掛かる交差点で


貴方はどちらを選びますか


魂が迷うことがある その足が迷うことがある


約束のない未来とは


見渡す限りの平原に 宝石を探すようなものだ




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