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背反証明 ~死による生の証明~  作者: オブロンスキー
ケン 連合軍従軍記者
3/5

第3話 従軍

「今から出撃する。一緒に来てみないか」


 と、チャン大尉はチャーシュー麺をすすっていた私に問いかけた。私は迷う。食堂の喧騒のなかで一瞬、私は私自身の内部で静寂を味わった。




従軍記者は見た物全てを報道できるわけではない。連合軍情報部の検閲を通過した記事や写真だけが本国に送られ、記事になる。以前は報道の自由を守るために、検閲は緩かった。しかし、そのことで戦場の悲惨さが露わになると、反戦運動が勃発してしまった。そのため軍部は検閲を強め、従軍記者は事実上お抱え記者になっていた。危険を冒したところでメリットは少ない。




 だが、出撃に同行するなど、なかなか願ってもこないチャンスだ。それに、今は報道できなくとも、極秘に手記などを残しておけば後世の人々の糧となるかもしれない。




 そう言ったわけで、私はチャン大尉の申し出を承諾し、彼等の出撃に同行することになった。




「同行させてもらいます」


「そうか、ならこの鉄兜を被れ」




 大尉は私が同行を選ぶことを最初から見越していたのか、手に鉄兜を用意していた。




 うっそうとしたジャングルの中は、革命戦線の設置したブービートラップに溢れている。また、繁茂している木々にも油断はならない。魔法でなんらかの細工がしてある可能性は十二分にある。




 私は非戦闘員ということで、隊列中央から少し後ろの比較的安全な位置を、チャン大尉と共に歩いていた。この200名ほどの隊列を指揮するのはリーという少佐だ。




 駐屯地の近くこそ街道を歩いたが、5キロも離れると私たちはジャングルの中に入った。街道は発見されやすく待ち伏せされやすいため、駐屯地から離れるとかえってジャングルの中の方が安全になるらしい。街道で待ち伏せを食らうと部隊が全滅するリスクがあるが、ジャングルの中でブービートラップに引っかかっても2、3人、多くても10人程度がやられるだけだから、そっちの方がまだましらしい。それに、たった200名の部隊を相手に殲滅魔法が発動されることも、コストパフォーマンスの点からみて考えられない。




 魔術師で構成される革命戦線がジャングルを作り上げたのなら、彼等は魔力を用いた何等かの監視ネットワークを構築していてもいいはずだ。というか、100年前はそのネットワークは構築されていて、連合軍はおおいに苦しめられたらしい。しかし、100年もの間続いた紛争のなかで連合軍はそのネットワークをズタズタに切り裂き、このジャングルは連合軍だけでなく革命戦線をも盲目にしてしまう樹海に変貌していた。ブービートラップも、100年の間に誰がどこに設置したのか、革命戦線側でもなかなか管理できなくなっていた。




 今回の出撃の目的は、この近辺に展開しているという革命戦線の小部隊の殲滅だった。彼らは5人1組で最小の戦闘単位を作る。5人の小部隊に対して200名の部隊で殲滅作戦を展開するのは理由がある。魔術師は一人で人類10人以上に匹敵する戦闘力をもつと言われているからだ。科学産業が発展する前はそれこそ魔術師一人で一般人類100名が互角だったらしいが、科学産業の発達に伴う銃器の進化によって、その差は次第に縮んでいた。




それに、人類は驚異的な速度の人口増加も達成していた。150年前は魔術師と人類の人口比は1対100だったが、いまは1対500とも言われている。そのため人類一人一人の命の値段は安い。魔術師との戦いにいくら人命を浪費しようと、大した問題ではない。




 以上のような理由から、5人の革命戦線兵士に対して200名の連合軍兵士が投入されているのだった。




 この舞台の指揮官であるリー少佐が静かに左手を挙げた。隊全体が足を止める。敵を発見したのだろうか。兵士たちは無言で目配せをする。火球が襲ってきた。3名ほどの連合軍兵士が一気に火に包まれる。




 戦闘は唐突に開始され、あっけなく終わりを告げた。連合軍兵士は混乱に陥ることなく発砲と移動を繰り返し、次第に敵兵を追い詰めているようだった。始めこそ革命戦線兵士は魔法を使って火球や衝撃波を盛んに放ってきたが、次第に沈黙していった。




「革命軍の糞野郎一人か二人を殺せたようだ。いま、二等兵が死体の確認に行っている。他の奴らは逃げたんだろう。こっちも20名ほどがやられたから、引き分けってところだな」




 チャン大尉の言葉は淡々としていた。私は「そうですか」としか言えなかった。




 不意に、タイプライターを打鍵するような音が響き渡った。サブマシンガンの銃声だ。リー隊にはサブマシンガンを装備した兵士が5名ほど組み入れられている。しかし、彼等は誰一人として発砲しているわけではない。




 打鍵音がまた響く。同時にリー少佐の頭がはじけた。他にも6名ほどが巻き添えになる。私はただあっけにとられていた。脳が現状を認識するのに数秒かかる。そして、地面に伏せることしかできなかった。




「クイーンだ」


兵士の一人が、おびえた表情で叫ぶと同時に赤く弾けた。

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