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背反証明 ~死による生の証明~  作者: オブロンスキー
ケン 連合軍従軍記者
2/5

第2話 100年の泥沼

 魔力という物は恐ろしい。科学産業基盤の貧弱な革命戦線が、高度に産業化された連合軍に屈していないのは、ジャングルという地の利もあるが、やはり魔力に負うところが大きい。


 連合軍が苦心の末に電子頭脳を発達させようと、革命戦線は演算魔法を用いてそれに対抗してくる。鉄の嵐を降らせても、防衛魔法で防ぐ。爆撃機を飛ばしても、飛行魔法で撃墜してくる。ただ、革命戦線にとって不幸なことと言えば、魔力はマナを湧き出す地脈がある土地でしか使用できないということだろう。


 魔力を用いる魔術師は、150年前まではこの世の支配者だった。魔法適性のない我々人類は彼らの支配に甘んじていた。しかし、科学産業革命がその状況を大きく変えた。


 科学産業は土地に縛られない。確かに原材料の生産地などは縛られる。しかし、原材料の加工はどこでもできる。一方で魔法産業はマナが湧き出る地点でしか加工ができない。150年以上前は、魔術師たちはマナの湧出地で加工した道具を使って我々人類を支配していた。しかし、我々が科学産業革命を達成し、どこでも銃を大量生産できるようになると、力関係は我々の側に傾いてきた。


 そしてついに地表の大部分から魔術師は一掃された。いや、正確には彼らの政府が一掃されたというべきだろう。現在でも魔術師は世界中に散らばっているものの、マナの湧出地から隔離されたり、我々の政府による監視下に置かれていたりして、さほど脅威ではない。ここダラット地方以外では。


 ダラット地方一帯で湧出するマナの量はけた違いだ。科学産業の銃口に追われた魔術師たちはこの地に次々と逃げ込んだ。我々は彼らをこの地から一掃するために100年前から作戦行動を続けているのだが、一向に終わりが見えない泥沼の様相を呈していた。


 魔術師たちは、形勢逆転を願って『革命戦線』という武装勢力を組織し、ダラット一帯に湧き出るマナを用いて本来一大魔力工業地帯だったこの地をジャングルに変えてしまった。彼らはジャングルの中に籠り、我々の攻撃を防ぐどころか反撃をしてきた。


 魔術師の存在が脅威であることは、人類陣営が認識を共有するところである。しかし、その脅威は決して過大評価されているわけではない。魔術師が如何に強力であろうと、彼等が基盤とする魔力産業はマナの湧出地でしか稼働できない。そのため、マナの湧出地では彼らの軍事力は脅威的なものとなるが、マナが湧き出ない『非湧出地』では彼らの軍事力は産業化された人類陣営にとって大した脅威ではない。


 つまり、われわれ人類陣営としては、魔術師たちをこのダラットの地に封じ込められればそれでいいのであった。始めは魔術師をこの地から一掃するための作戦行動だったが、ジャングルに籠る彼らの抵抗は頑強で、かといってこの地を野放しにすることもできずに、次第にどうしようもない平衡状態におちいった。その一連の戦闘がここ100年ほど続くダラット紛争そのものであった。


 100年の間に双方の陣営は兵器も戦術も進化させてきた。100年前は連合軍は戦列歩兵、革命戦線は杖を使う原始的な戦術を採用していた。しかし、今や連合軍は機関銃を使い、革命戦線は辺り一帯を焼き払える殲滅魔法すら使えるようになっている。それらの進化が戦場を一層悲惨なものにしていた。

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