14.もうひとりの俺 side光
よろしくお願いします
ツアーから戻ってきた夜、俺達グリタリングレトラスのメンバーはどうしてか連の家で飲みに行くことになっていた。
「ってかさ、どうしてあの映画の主人公がアイツなんだよ!」
「あれ~~?勇太くんもしかして嫉妬?」
「だってあいつと最終オーディションまで競い合って最終的にオーラが役に似てるって言うだけで選ばれたんだぜ、悔しいだろう!」
「はあ勇太、お前は飲みすぎだ。それに瀬名も勇太のこと刺激するな。」
「は~~い!」
「勇太は?」
「五十嵐さん......分かりました。」
いつからだろう、俺はこの可愛い外見を武器にし大勢のファンの心を収穫した。
まあ、俺はあの時から嘘つくことに慣れてるから、だから今更罪悪感なんて全然ない。
一方兄ちゃんはあの時より男らしくなり、どんな風の吹き回しなのか俺がなるみちゃんと別れてすぐそのカラから出てきて、今ではグリタリングレトラスの最年長兼リーダーを勤めてる。
ほんと、兄ちゃんは無垢だな、俺と正反対だ。
本当は付き合ってすぐに言うべきだった。
だが俺が『もしなるみちゃんが俺の正体を知ったらどうしよう』と思想の迷路にハマっている間に時は捕まえようとしても掴めない砂の如く流れ、俺は彼女に本当のことを知られるのが益々怖くなってきた。
「なあ、最近俺に妙な噂が流れてるんだがどういうことだ?」
でも俺がどんだけ事実を隠そうとしても最終的に兄ちゃんにはバレてしまった。
兄ちゃんは分かってくれるよな。
俺はそう淡い期待を胸に兄ちゃんに全てを話した。
「なんだそれ、どこかの昼ドラか?」
第一声がこれか。
と言う前にやめてよ、あんな復讐劇をメインとするドラマに例えるの、それにもし例えるとしても月九でしょうが。
「はあ、わかったよ、じゃあお望み通りお前と入れ違ってやるよ。」
「な!」
「はあ、勘違いするな、俺はただお前の代わりにあの後輩を振ってやるだけだ。」
「余計な事しないでよ、それなら俺がしたほうがマシだ!」
「じゃあ来週まできちんとしろ。」
はっきり言って、衝撃だった。
まあ、今考えてみればあの時残されていた道はるなるみちゃんに真実を話すか兄ちゃんになりきってる俺が彼女と別れ、瀬名光として彼女に接触するかだ。
だがどうせ二つとも同じだろうと考えた俺は週末なるみちゃんをデートに誘って“五十嵐健人”との最高で最後の一日を作ろうとした。
でも、
「健人先輩、再来週の日曜日空いてますか?」
嫌な予感がする。
「実は昨日予報を見たらあと1週間で桜咲くようで、その、一緒にお花見しませんか?」
「う~ん、その時は......」
やめろ、もう“五十嵐健人”と約束するな。
「あの、実はその時、その、健人先輩に伝えたいことがありまして、」
直感で分かった、彼女も何か隠してることを。
でもどうせなら瀬名光に、本当の俺にいって欲しい、だから、
「悪い、やっぱ別れよう。」
今でもよく冷静に言えたなと感心する。
本当は心がマグマに焼かれたように痛いのに。
「。。。。。。。。。。」
「。。。。。。。。。。」
痛い、やっぱこのままで、
いや、でもなるみちゃんに、彼女の前では本当の姿でいたい。
どうしよう、なるみちゃんの顔を見れない、いや、見る勇気がない。
ああ、もしなるみちゃんが泣いちゃったら俺どうしよう......
「どうしてですか?」
でも帰ってきた答えは想像を超えるほど冷静で、とても別れ話を持ちかけられたようには聞こえなかった。
「いや、その、だってお前は俺のタイプじゃないし、地味だし、ってか本当は同じ世界にいないんじゃねとか思うし、」
やめろ、そこらへんにしろ、なるみちゃんをもうこれ以上傷つけるな!
「そ、それになるみちゃんて「わかりました。」」
俺は突如なるみちゃんの方を向くと彼女は苦しい表情でこっちを見てくるが目の底には何故か納得をしたように見えた。
あの時俺の中から何かが壊れた音がした。
だがそれが一体何か今でも言い切れない、でもあの時何故か俺は中のもうひとりの俺が俺を慰めてくれたように思えた。
“チュンチュン”
外の小鳥が俺達に時間を知らせ、俺が目を覚ます同時に二日酔いの痛みが一気に襲いかかる。
はあ、またあの時の夢か。
結局俺はなるみちゃんといちからやり直せなかった。
どうしてかな、休み時間になると彼女はいなくなるし、それにどうしてかあのグループにも関わらなくなっていた。
月日が流れ、何故か逆ギレした俺はようやく自分の殻から出てきた兄ちゃんを引きずってアイドルオーディションに参加した。
あ、ここで言っておくけど俺は別にアイドルは恋愛禁止で歌って踊るお坊さんみたいな職業だなと思ったからじゃないよ!本当だよ!!
ってかなんか騒がしいな。
よし、今日も可愛く演じましょうか。
「ふ、ふうああああ、
ん?何?何があったの?」
「ったくお前らいい加減にしろよ、つーかこの女誰?」
ああ、兄ちゃんも起きてたんだ。
「あ、ううう、」
あれ?この子どっかで......
「連の親戚だって。」
連の親戚?
「ふうん、じゃあ裏切って浮気したんじゃないんだな。」
そうだね、今はグリタリングレトラスにとって大事な時期だからスキャンダルはちょっとな。
「それよりお腹すいた、連朝飯」
ま、恋人じゃないんだったらどうでもいいや。
「はいはい、瀬名はオムレツでいいんだな。」
“ガバッ”
「やった!流石僕たちのお嫁さん、愛してるよ!」
「あ......」
ん?どうして顔を青ざめている?どうして?
「そう言えばなるみはどうしてここに来たんだ?
つーかどうして部屋に入れたんだ?」
「。。。。。。。。。」
なるみ?
いや、多分偶然でしょう、うん、そうだね。
「おいなるみ?おーい」
でもちょっと待って、連の本名って確かに黒川連次だよね、そしてなるみちゃんの苗字は......
いやいや、
いやいやいや、
まさかね、うん、そうだよね、偶然にも程があるよね。
「おーい、いるのか?」
ん?どうなっている?
さっきまでお掃除を命令されたばっかだよな。
それにあのご老人は誰なのだ?
「あれ、おじいちゃん??よかったおじいちゃんだ!!」
ああ、それじゃあ連と親戚さんのおじいさんか。
「なるみ?どうしてお前が......」
“カチっ”
「お、おい、ドアに鍵かかってるぞ。」
「そうなんです、先程おじいちゃんに会いたくてこの部屋で待ってましたらまさかこのドアが壊れてまして。
ですが今はもうじき昼だといえ人様に助けてもらえずずっと皆様と一緒に待機しておりました。」
「は?」
「喋り方が......」
「ああ、いつ頃からこうなったんだ。」
「ゴタゴタ言わず合わせなさい!」(コソコソ)
似てる、どうしてだろう、なるみちゃんに、ものすごく。
いや、もし俺が正しければ、多分。
そして連の親戚さんは二人のおじいさんが帰った直後に連の顔を思いっきり叩き、連はそのことで勝利の喜びを噛み締めている。
そこでわかった、連はあの親戚さんと数年ぶりに会ったこと、それと連の前ではアイスドールみたいに無表情な事。
まあ、元彼である俺でもなるみちゃんのああいう顔は初めて見るけどね。
でも、連はあの親戚さんと一からやり直そうとしてるんだ。
俺ができなかったことを今やり遂げようと。
本当のこと今でも時々思う、もし、もし俺が本当のことを話していたら、最初っから瀬名光として接していたらと。
だけど今は全てが過去になり、そしてなるみちゃんは、あの時顔を常に赤くしてたあの子は、さっき明らかに俺を認識していなかった。
いや、当然といえば当然だし、俺もなるみちゃんだと認識するのに時間かかったからな。
だが俺は連がなるみちゃんと仲直りする事を想像したら心の中のどっかで黒い気持ちが湧いてきて、それが小さな悪魔みたいに耳元で『アイツらの仲を壊せ』『今度こそなるみちゃんをそばに縛り付けよう』と囁いでくる。
ああ、お前か、当時俺を慰めてくれたのは。
でもまあ、確かに俺はアイドルでも20歳超えてるから事務所的には恋愛OKされてんだよな。
それに、ああやって出会えるのも運命じゃん。
それじゃあ俺は運命に甘えて、好きな子は目一杯可愛がらないと!!
誤字、脱字及び気になる点などありましたらお気軽に感想欄や活動報告のコメント欄に書いてくれたら嬉しいです。(待っています~~)