小説なら好きなことが書ける
相変わらずの見切り発車での投稿ですが、頑張って書いていきます。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
食後の休憩時間。
校舎の屋上で金網に寄りかかった状態で、スマホを両手で包み込むように持つと両手の親指で文字をフリックしていく。
「昼休みの時間が俺の冒険できる瞬間だぜ!」
小説を書きながら打っている文字とは関係なく独り言が漏れる。
俺は大地カケル、中二だ。趣味は小説で世界の創造をすること。そう、俺が創造主。俺の脳内からジョバジョバ出るアイディアが形になった世界。
小説の世界なら俺の思い通り、好きなことが好きなようにできるんだ。
こうして俺の頭から生み出された世界が指を通ってスマホの中に構築されていく。
ネット小説として投稿を続ける。ペンネームはグランドランナー、本名の大地カケルから採った名前だ。全然人気は出ないけど自己満で十分。小学生の頃から書き始めてもう三年になるし話数も一〇〇話は超えた。
異世界エセルラントで戦う剣士カケルの物語。
今日は剣士のカケルが盗賊団を倒すところから始めよう。
そうだな、例えばクーデターで追われてる王女が盗賊団に襲われているとか……。
俺は旅の剣士カケル。
剣と簡単な防具の他には最低限の荷物だけ。また新たな冒険が俺を待っている。
まだ日も高い街道沿いだというのに往来が少ない。
朝から歩き詰めでも人とすれ違うことがなかった程だ。
だからだろう、いきなりの人だかりに俺は警戒をして近づいていく。
「関わり合いにならない方がいいな」
近くに行かなくてもその集団がガラの悪い連中であることは判った。
あからさまに街道を外れて歩くようだとかえって目立ってしまうと思った俺は、気にしないそぶりでその集団の脇を通ろうとした。
「おい、誰の許しがあってここを通るんだよ」
俺はいきなり濁声の男に肩を突き飛ばされた。
こんなところで面倒ごとは困る。
少し苛ついたがぐっとこらえて通り過ぎようとする。
「だんまりとはいい度胸だな、ああ?」
どうやらそうとう俺に構ってほしいらしい。
濁声の男がいきなり俺に殴りかかってきた。
大きく振りかぶった男の拳が俺に向かってくる。あえて俺はそれを避けずに顔で受けると頬に当たって一瞬頭がぐらついた。後ろへ下がりそうになるところを踏みとどまると、口の中が血の味で溢れてくる。
俺は悪いことをしているわけではない。こんな相手に屈するわけにはいかないのだ。
不意に視界の端で鮮やかな水色が見えた。
「なんだ兄ちゃん痛い目にあいたいのか」
また別のゴロツキが睨みをきかせて凄んでくる。
声につられてつい振り向いてしまった俺はゴロツキの先にいる水色の髪の少女を見てしまう。
その先には倒れた馬車と、御者らしい身なりの死体。
さっきの水色はこの少女のものか。土埃で汚れた街道にあるとその鮮やかさが際立つ。
「ヒャハハ、その綺麗な身体がこんにちはしそうだぜ」
「おうおうたまらねえなあ!」
ゴロツキが少女の服を乱暴に扱うと、襟元が破れて首筋から胸の谷間の線があらわになる。
少女はなんとか破れた服と腕で隠そうと抵抗するが、今度はゴロツキどもが少女の腕を掴んで持ち上げてしまう。
「ほれ、もうちょっとでぽろりだぞ」
「デビヒヒ、もうやっちまおうぜぇ!」
まったく下品な奴らだ。
「おい見世物じゃねえぞ!」
「見たところ一人の少女に荒くれどもが絡んでいるようにみえるのだが」
俺はつい思ったことを口にしてしまう。これで日頃から損をしているのだが。癖なのかこればかりは仕方がない。
「んだとコラぁ!」
ゴロツキが俺の襟首を掴む。
「気に障ったのなら謝ろう。どうだ、ここに一万ゴルドがある。これでその少女を解放してやってはくれないか」
俺は懐から財布を取り出し、中から金貨を取り出そうとする。
ゴロツキの目の色が変わった。
「一万じゃあ足りねえなあ。それになんだかその財布は重たそうだからな、重い荷物を少しでも軽くして旅を楽にしてやろうか、なあ」
ゴロツキは仲間たちにい下卑た笑いを投げる。
「そうだそうだ」
「身ぐるみ置いていきな」
他の荒くれ者たちも勢いづく。
「これで済むなら安いものだ」
俺は財布ごと盗賊たちに渡そうと金貨の詰まった袋を放り投げる。
重たい音を立てて袋が落ちると、他の連中もこちらに視線を向けた。
「おい、他にもあるんだろう?」
「その鎧や剣も置いていきな。すっぽんぽんでも構わねえが、腰巻だけは許してやるからよ」
盗賊たちは笑いながら抵抗しない俺の装備を剥がしにかかる。
ゴロツキは俺から奪った剣を鞘から抜くと冷たく光る刀身を眺めた。
あまりにも鋭く妖しい光を放つその刃を見てゴロツキが身震いする。
「お、おい。いい物持っているじゃねえか」
「わかった渡そう。だから少女は見逃してやってくれ」
「うるせえ黙りやがれ!」
ゴロツキは剣の柄で俺を小突く。
額が割れて血が垂れてくる。
「持っている剣がすげえからどれだけの剣士かと思ったが、どうせただの没落貴族のお坊ちゃんだろ。いいだろう解放してやるよ」
「そうか、無駄な血が流れずに済んでよかった」
「そうだなオレらの血は流さずに済ませるからな。ようし、お前たちを解放してやる。この剣でお前たちの命をなぁ!」
剣の切っ先を俺の喉に向ける。
「どうだあ、嬉しすぎて悶え死んじまうってか!?」
「それでは約束が違うではないか」
「はぁ? 聞こえんなあ」
ゴロツキが剣を横に払う。
俺の首筋からうっすらと血がにじむ。
「ヒャハハ! 次はざっくりいくぜぇ」
下品なニヤニヤ笑いをして剣先に付いた血を舐める。
「残念だ」
俺は一歩踏み出すと剣の柄を手のひらで押し込む。
「ほろっ?」
ゴロツキの口の中に剣が押し込まれてそのまま首の後ろから剣先が飛び出てきた。
「は、はが、ほがが」
「聞こえんな」
俺はそのまま剣の柄を握り横に払う。
顔の半分を切り裂かれたゴロツキは、自分がどうなったのかも理解できないまま倒れていった。
「てめぇ!」
「やっちまえ!」
他の男どもが手に手に得物を持って襲いかかってくる。
「ふむ、残念だ」
右から来た男は両腕ごと切り落とす。
正面の男は脳天から叩き割る。
後ろに回った奴には肩口から袈裟斬りに切り捨てた。
他にも何人かは襲ってきたが順に切り払っていく。
「ま、待てっ、この娘を殺すぞ!」
少女を人質に取った男が短剣を少女の胸元に突き付けた。
他の奴らは斬られるか逃げるかしたらしい。
勢いよく剣を振り下ろして血を弾き飛ばす。
地面へ血が三日月の形を作る。
「どうせ俺が通らなければ死よりも辛い目に合っただろう。ならば今ここで死んだ方が救いやも知れん」
「はぁ?」
「殺すのだろう、どうだやってみせろ。俺には関係のない少女だ心置きなくやれ」
「なっ、さっき助けようとしていただろう!」
男が激高して喚き散らす。
短剣の先が少女の胸元に触れる。
血が一筋流れた。
「んっ……」
少女が唇を噛みながら痛みと恐怖に耐える。
「ほ、ほら、大人しく降参しろ! もっと刺すぞ、もっと血が出るぞ!」
「一人の少女をお前たちのような薄汚い連中が囲んでいたら目立つものだ。俺は関わり合いにはなりたくはなかったのだがな、絡んできたのはお前らだ。今更言っても詮無き事ではあるが」
男は足を震わせて短剣を握りなおす。
「じゃ、じゃあ殺す、殺すぞ! いいな、俺が殺すんじゃあない、お前が殺したんだからな!」
「知らん。さっさとやれ」
「うわぁぁ!」
男が短剣を振り上げた瞬間俺は剣を一閃させる。
握っていた男の指が四本、短剣と共に宙へ舞った。
「ぎゃああぁぁ! 手が、手が、手があぁ!」
返す刀でその男の首を刎ねる。
宙を飛ぶ首。恨みがましい顔と目が合ったが俺は気にせず少女へ向き直った。
「どうだ痛いところは無いか」
刎ねられた首が地面に落ちる音がした。水分を多く含んだ丸い葉野菜が転がるような音だ。
俺がへたり込む少女に手を差し出すと、少女は勢いよく俺の手を振り払った。
乾いた音が辺りに響く。
「礼だけはしましょう。私を見捨てようとしたことには目をつぶります」
「気にするな。怪我をしていないか」
少女はどうにか立ち上がり首を縦に振って返事をする。
「フィアナ・カナーシャ・シウバ。私の名です。助けてくれてありがとうございます」
睨みつけながらも言葉だけは丁寧だ。
「成り行きだ。礼を言われることはしていない」
「そうですよね。それでも礼は言いました。これであなたに対して負い目はありません。失礼します」
フィアナと名乗った少女は破れて汚れたドレスを形だけ整えると街道脇に倒れている馬車の横に座り込んだ。
逃げようとするでもなくただそこに座っていた。
その視線の先には動かない御者の姿。
「そこの御者の男は」
「父上の忠臣です。私を逃がそうとしてくれたのですがこの街道で盗賊に襲われ……」
「そうか」
御者は身体のいたるところを斬られていたようで血だまりの中に倒れていた。
「大切な人だったのか」
フィアナはうなだれたまま俺の問いに答えるでもなく語り始めた。
「ヒューイットは下級貴族ながら父上にその才を見込まれ、宮廷務めをしていました。
真面目で朴訥で。見目がそれほどではないことは本人も理解していましたし、宮廷の誰しもがその姿ではなく人柄と才に好感を持ったものでした」
おいおい独り語りが始まったぞ。とりあえず聴いておいてやるが。
「一通りの作法は身につけていたようですが、晩餐会には常に壁を背に立っていましたのよ。一度だけ一緒に踊ることができたのですけれどヒューイットはとても舞踏が苦手でしてね、その時は何度も私の脚を踏みつけては謝っていましたの。私は周りの目もあってとても恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまって、ヒューイットの脛を思いっきり蹴飛ばしてしまったものですわ」
「いい奴、だったんだな」
「……。そうね。いい人だったかしら。父上なんてゆくゆくは私の婿として王国の重責を担ってもらおうとしていたくらい。
私は愛だの恋だのは解りませんがヒューイットは誠実に私のことを案じてくれていました。
今回の騒動の中でも私を守ると身体を張って矢面に立ってくれました。王宮から落ち延びようやく謀反者の手から逃れたものと思いましたのに……」
言葉に詰まる。
「さればさ。このままとしておくわけにもいくまい」
フィアナは涙に濡れた顔を俺に向ける。
長い沈黙。
「魂の浄化のためにも埋葬をしてやりたいのだが、いいかな」
無言を通すフィアナ。
俺はそれを承諾と受け取った。
盗賊の持っていた手斧を使って街道から離れた所に穴を掘る。
そこへなるべく丁寧に御者の身体を寝かせた。
せめてものつもりで顔に付いた血の痕をぬぐう。
確かに美男というわけではないがそれなりに整った若者の顔は、苦痛というよりは不安そうな心残りがありそうな、そんな表情に見えた。
ゆっくりと土をかけて御者の姿を覆い隠していく。
「……うっ、ううっ、うわあぁぁ!」
フィアナは緊張の糸が切れたのだろうか。
ヒューイットの姿が見えなくなるにつれてその泣き声が大きくなってくる。
泣き叫ぶ少女にかける言葉が見つからない俺は黙って土をかけていく。
「墓の代わりにもならないだろうが我慢してくれ」
俺は酒の入った水筒を取り出すと、御者の眠る土の山へ中身をかけた。
「王宮、それにシウバ……どこかで聞いた名だが」
どうにか泣き止んだフィアナは俺の言葉を聞いて顔に暗い影を落とす。
「先日内乱のあった国の名が、確かシウバ王国……。王弟が軍を掌握してシウバ皇帝グレゴリオ一世を名乗った……」
「あなたには関係のないことです」
「そうかもしれん。だが、だとするとこのままここにいるのも危なかろう」
「構いません。王弟である叔父の手の者がやってくるでしょう。そうなっては関係のないあなたにもどんな厄介ごとが降りかかるかもしれません」
なるほど、王弟が叔父となると内乱で追われた王女がこの少女というわけか。巻き込まれたとはいえ俺が盗賊団から助けたことになったわけだが。
「あの……なにか」
着の身着のまま逃げてきた王女だ。見れば服は破けて宝石や装飾品は身につけていない。綺麗だったかもしれない水色の髪は煤で汚れてぼさぼさだ。
「やはりそれ相応の礼をしてもらおうか」
あからさまに嫌そうな目つきで俺を見る。
「見ての通りお渡しできる物はございません。先程の礼では足りないと言うのですか。そうは言っても差し出せる物は汚れたこの身しか……」
確かに薄汚れているとはいえ、くびれた腰に程よく盛り上がった胸。その均整のとれた身体。王女ともなると容姿についても一流の扱いをされていたものだろうか。
胸元がはだけて胸が見えるか見えないかなどというところだが、あまり舐め回すように見ては失礼だろう。
フィアナの視線も痛いしな。
「いや、あなたから受け取る物はない。それに身体目当てだなんて盗賊団と同じような恥ずかしい真似はしない」
俺は紳士で孤高の剣客だ。
「俺の荷物は戻ったし、報酬は盗賊団の奴らの懐からいただいたもので十分足りる」
ゴロツキどもから巻き上げた戦利品は小さい家なら買えるくらいの金貨や宝石だ。
盗み、奪い、よくもこれだけ貯め込んだものだ。まあ金に貴賎はない。死んだ盗賊団に代わって俺が使ってやるからありがたく思うのだな。
「では礼というのは」
このまま馬車の横に座ったままでは、追っ手に捕まるかまた別の盗賊に狙われるか。それこそ碌なことにはならないだろう。
となると、どうしたものか。
「そうだな、身の落ち着くまでで構わん。旅を共にし話し相手になってくれないか」
放っておいて何かあったら寝覚めが悪い。そうだ、あくまでこれは俺の気分の問題だ。情けや哀れに思ったからではないぞ。
「どうかな」
「いいでしょう。所詮この身は朽ち果てるだけのもの。それがこの場かそうでないかの違いなだけ」
「そうか。なら構わないな。それより頼れる親類縁者はどこかにいないのか。地方領主とかがいるのであれば、道すがらそこまで送るが」
だがフィアナは首を横に振る。
「このフィアナ・カナーシャ・シウバ」
フルネームを二回聞いた。
「国を追われたとはいえ王家の誇りがあります。血は繋がっていながら父王陛下に刃を向けた者と、それに類する者共の元へ向かうつもりはございません」
国王の弟である公爵が今回の内乱の首謀者だ。
国王派貴族は粛清されたと聞く。近隣の領主ともなれば、王弟の息のかかった者か日和見主義で旗幟を鮮明にしなかった奴らばかり。確かに送り届けるには適切ではないだろう。
「なるほど浅慮な提案だった。許されよ」
俺は剣を抜くと胸の前で剣先をまっすぐ上へ向けて謝罪を表す騎士の礼をする。
「それは……。古風ながらも正式なシウバ王国騎士の礼」
フィアナは驚きの顔で立ち上がる。
「あなたはいったい」
「俺は通りがかりのただの旅の剣士。国を持たぬ放浪の剣客だ」
「王族に対しての作法に則った見事な礼でした。しかしその礼は今の私にとって過分なもの。もはや私は己の国を持たぬ身、なんの力もなくあなたの礼に応えることもできません」
王弟であったグレゴリオ一世は帝国化にあたって王国の旧態依然とした儀礼を廃止しようとしていたらしく、帝国に与する者であれば行うことはない。
フィアナは剣を持った俺の手を握りじっと俺の目を見る。
そこには大粒の涙がまたもこぼれそうになっていた。
「それではこれも何かの縁。フィアナ、そなたが安堵できるところまで俺が同行しよう。それまでは話し相手として付き合ってもらうぞ」
フィアナは鈴のように笑った。
いい笑顔だ。曇り空が晴れるような柔らかい笑顔。辛いことが続いた日々であったろうにこのように笑顔を作れる。その心の強さに俺は感心した。
「俺はカケル、未来の王だ。といってもまだ国土もなく国民は一人もいない裸の王だがな」
涙の痕もそのままに、フィアナははにかむような顔で俺を見ていた。
「よろしくカケル。私はフィアナ、親を失い故郷を追われた娘です」
裾の破れたスカートの端をつまんで、淑女の挨拶をする。
みすぼらしい恰好であるはずが流石に王女たるもの、高貴に思えるそんな立ち居振る舞いだった。
遠くから教会の鐘だろうか。時を知らせる音が聞こえる。
「やべっ、午後の授業が始まっちまう」
俺は書きかけのテキストをセーブしてスマホをポケットに入れながら、コンビニの袋を持って屋上の階段を降りていった。
本当の昼休みに執筆していましたが、これはこれでなかなか難しいですね。
お昼ご飯はきちんと食べなくては。
2017/7/14 フィアナの挿し絵を追加しました。