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8話・旅立ち

 

「■■■■■■■■■■■■■ッ⁉︎」


「す、凄い…………!」


「流石、アリトさんです……!」


 背後から二人の感嘆の声が聞こえる。

 まあ、無理も無い。

 今目の前には、世界の終焉と言っても差し支えの無い天災が連続して起こっているのだから。


『ウェザースキル・テンペスト』

 三つのスキルを使用して発動する、神の災害。

 今回は風、雷、雪だが、そこは好きに選択出来る。

 とにかく選んだ三つの大災害を、対象の生物が死滅するまで永遠と繰り返す魔のループスキル。


 もし町などのど真ん中で使えば、間違いなくその町は滅んでしまうだろう。

 そしてそれは、伝説の魔物とやらも例外ではない。


「■■■■■■■■■■■■■ッ⁉︎」


 今のは……断末魔だろうか?

 ベヒモスはその巨躯な体を支えきれず、大地に平伏す。

 同時に止む三つの大災害、つまり奴は完全に死んだ。


「どうだ、これで信用してくれるか?」


「……」


「ルナリア?」


 ルナリアは俯いていた。

 微動だにせず、ただただジッと立っていた。

 だが、突然その静寂は破られる。


「冒険者になりませんか⁉︎」


「うわあっ!」


 がっと勢いよく両肩を掴まれる。

 そのまま顔を近づけさせ、連射される弾丸のように次々と言葉の弾を撃ち込んでくる。


「私はサブギルドマスターです、面倒な試験も私の権限で全て免除してもらいましょう! いえ、この実力を見せればギルドマスターといえどは途端に黙るでしょうからそれも必要ありませんね!」


「あ、あの」


 ルナリアは止まらない。

 ミスティに助けを求めても、首を振られて断られる。


「ああ、冒険者という職業はですね、国から認められた何でも屋のようなもので、市民や貴族、果ては王族までもが依頼を発注するスーパー組織ーー」


「ストップ! 一旦落ち着こう!」


「ーーは、申し訳ありません、自分を見失いました」


 物凄い性格の変わりようだ……


「とにかく今やるべき事は、ノマルの町へ向かって助力する事だろう?」


「そ、そうでした……しかしどうしましょうか、私が乗ってきた馬はベヒモスにやられてしまって……」


「それなら村の馬を貸してもらいましょう」


 ミスティの提案で、とりあえず村へ戻る事にした。

 色々準備もあるしルナリアの傷の手当もある、中途半端な形で助けに向かっても足手まといになるだけだ。




 数時間後、村へ戻ると村長が出迎えてくれた。


「丁度よかった。村長、実は話がーー」


「ベヒモスに関する事ですな、英雄殿」


 村長は言った。

 全くいつも通りの口調で、一切の乱れ無く。


「そ、村長?」


「お爺ちゃん、どうしてそれを?」


「話があります、どうか何も言わず家まで来てください、怪我人は他の者に手当させます」


 そして俺たちは村長の家に着いた。

 四人とも座り、テーブルを囲う。

 緊迫感が部屋を支配していた。


「まずは英雄殿、ベヒモスを退治していただき、誠にありがとうございました」


「その口ぶり、やはり何か知っているんだな、村長」


「はい」


 村長は口を開き、俺たちに説明した。


「この村には、秘密があるのです」


 村長の家系は代々、とある魔物の封印を管理する役目をおっているのだそうだ。

 これは村人にも知られていない事実だそうで、ミスティも今初めて聞いたと言っている。


 そしてその魔物というのが、先程俺が倒したベヒモス。


「ベヒモスの封印は年々弱まっていくのです、しかし我々には封印を再び施す力も無ければ、封印を強くする方法も無いーーが、封印が破れた後の対処法なら存在しました……これです」


 村長はテーブルに小瓶を置いた。

 赤色のそれは、飲むと体が竜へと変わる薬らしい。


「そんな……竜化の秘薬なんて、秘宝中の秘宝です、そもそもそんな物が本当に存在しているとは……」


 ルナリアは小瓶を興味津々といった風に眺める。


「封印が解けていたのは分かっていた、しかしーーこの小瓶の中身を誰かに飲ませるのは、ワシには出来ませんでした」


 村長は頭を下げた。

 それはつまり、ノマルの町の魔物襲撃は、自分も一枚噛んでいると自白してるようなものだ。


 他の魔物とは比べ物にならない程強い魔物、ベヒモスーー森に出現すれば、他の魔物は勿論普通の動物も、住処を奪われ森を出るしかなくなる。

 小さな昆虫などは、ベヒモスの吐く息に含まれる魔力で消滅してしまうというから恐ろしい。


「恐らくノマルの町に被害が出ていよう……すまぬ、だがワシは大切な村人を死地へ送れなかった」


「……」


 ルナリアはそれを黙って聞いていた。

 怒るわけでも、哀しむわけでも無い。


「いえ、貴方の所為だと責めるつもりはありません、大体その薬で本当に勝てるのか分かりませんしね。それに大切な村人を守りたい……その気持ちを踏みにじってしまえば、私に町を守る資格はありません」


 スクッとルナリアが立ち上がる。

 もう用は済んだと言わんばかりだ。


「行きましょう、アリト、ミスティ……こうしてる間にも、外壁が破られる可能性は否定出来ません」


「ああ」


「はい」


 それから村長に頼んで道具一式を準備してもらった。

 村長は自分に出来る事なら何でもすると言って、町へ向かう馬まで用意してくれた。

 そしてーー


「孫娘よ、秘密を隠し町を見捨てた祖父を軽蔑するか?」


「いいえ、だってお爺ちゃんは、私達を守るためにしてくれたんでしょう? だったら恨むなんてありえません」


「そうか……ならば、これを託そう」


 そう言って村長は、ミスティに竜化の秘薬を渡した。


「もし万が一の事があったらこれを使え、何が起こるか分からないが……持ってて損は無いじゃろう」


「お爺ちゃん……うん、分かった……ありがとう」


 そうして準備が整い、出発の時。

 見送りは村長とその他数名だが、下手に知られてしまって大騒ぎになるよりかはマシだ。


「英雄殿……ミスティを頼みます」


「はい、任せてください」


「二人共、出発しますよ!」


 そして、俺たち三人は旅立った。

 不安もあるけど、それ以上に町の人を早く助けなければならないという使命感の方が勝っていた。




 ♦︎♦︎♦︎




「すまぬ、ミスティ……秘密は、まだあるのじゃ」


 誰もいない森の中を、一人の老人が歩いていた。

 その足取りは言葉の弱々しさとは裏腹に、しっかりと大地を踏みしめる力強さが感じられた。


「……ベヒモスの核、よもや本当に倒されるとは」


 天変地異でも起こったのか、地盤が崩れかけている大地にソレは横たわっていた。

 伝説の魔物として恐れられる、三魔怪のベヒモス。

 しかしそれは最早過去の話、老人の目の前ですら、ただの死骸でしか無い。


「どれ、確かこの辺りに」


 そして彼は死骸を漁り始めた。


 数分後、その手には黒い球が握られていた。

 手のひらに納まる程小さく、それでいて存在感を放ち続ける不気味な球体。


「ーーそれを渡せ」


 老人の背後に、突如音も無く黒装束の人影が現れる。

 が、老人は別段焦る事もなく、寧ろそう来るであろうと予感していたかのように冷静だった。


「分かっとるわい、年寄りをせかすでない」


 老人は人影の方へ振り返るーー瞬間、彼は懐に忍ばせていた赤い結晶を天へと掲げた。

 同時に結晶が眩い光を放つ。


「(まさか、妻と孫を残して先に逝くとはのう)」


「な、貴様それは起爆魔石ーー!」


 強烈な爆発音が森を駆け巡り、太陽と錯覚する程の光がその場を照らし支配する。


 後には、何も残っていなかった。

 黒装束の人間も、老人の姿も。

 何も何も、残されていなかった。



 黒い球の、破片を除いて。



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