5話・盗賊団の襲撃
「これは……」
「お兄さん、中々良い目を持ってるね?」
俺はチラリと行商人の男性を見た。
そして周りに誰も人がいない事を確認すると、こそこそと隠れるように話しかけた。
「あの……これ、何処で手に入れたんですか?」
「それが私にも分からなくてね、偶々友人から譲り受けた物なんだが……全く、珍しい形の剣だね」
俺が今手に取っている剣。
それは細く長い、鞘に収まった鉄の刃。
日本刀……この世界に無い筈の代物だった。
♦︎♦︎♦︎
「許す……と申されたのですか?」
「ああ、別に何か処分を与えるつもりもない」
あの後、俺はすぐに六人の自警団メンバーを村長に引き渡して拘束させてもらった。
全員気絶しているが、そのうち目を覚ますだろう。
「し、しかしそんな! 英雄殿にそのようなご無礼を働いた若い衆を許すなど……」
「彼らも気が立っていたんだ、なに、若気の至りってやつですよ」
俺も鬼じゃない。
誰も傷つけられていないなら、それでいい。
ただ、今回の事で彼らが反省せず、また同じような凶行を起こそうというのなら。
その時は、容赦無く地獄へ葬り去る。
「な、なんと寛大な御心……!」
村長は感極まったのか、涙を流している。
彼も村の長、村人が死んでしまうのはどんな理由があってもなるべく避けたいのだろう。
それがこんな簡単に阻止出来たのだから、無理もない。
「アリトさん……優しいんですね……かっこいい」
そしてミスティは何故かまた顔を赤くしている。
女心を理解するのには骨が折れそうだ。
「まあいい、それよりーー」
その後、俺は色々と話し合った。
このまま村に居ていいのか、いたとして村人達はどんな反応を示すのか。
その結果、暫く試験的に滞在する事になった。
何より俺自身が村の人達ともっと親交を深めたいと願ったので、改めて村長に部屋を貸してくれと頼んだ。
「勿論構いません、こんな家でよければ」
「それじゃあ、アリトさんの為に色々と用意しなくちゃいけないわね」
ミスティはそう言うとバタバタと準備を始めた。
♦︎♦︎♦︎
時は戻る。
で、今回はその準備の一つで、俺の服を調達するのに村の市場にミスティと共にやってきた。
そこで俺は偶々来ていて行商人の店と出会い、そしてこれを発見した。
「……なんか、手に馴染むな」
妖しく弧を描く銀の刀身。
軽く、だがしっかりと命を刈り取る重みを感じる。
欲しいーー本能的にそう思ってしまう。
「ま、今の俺には必要ないな」
渇望もまた、いっときの波のようなものだ。
武器なんて買ったって、使い道が無い。
この前みたいな事が起こってもスキルで事足りる。
「アリトさーん」
と、ミスティが呼んでいる。
「じゃ、またいつか」
「あいよ」
俺は行商人の店を後にする。
……その時だった。
「きゃあああああああああっ!」
突如、女性の悲鳴が辺りに響き渡る声。
そして直後に、別の声が続々と聞こえてくる。
「ガハハハッ! 奪え奪えー!」
「こんな所に村があるなんてラッキーだぜえ!」
「男は殺せ! 女は生かして連れてこいや!」
破壊音と悲鳴がシンクロする。
穏やかな日常は音も立てずに崩壊し、混乱の極みへと村人達を容赦無く誘う。
「と、盗賊団だあああっ!」
一人の村人が叫びながらも周りに伝えた。
たちまち辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図に塗り変わる。
……なんで、他の人里から離れたこの村を狙う⁉︎
わざわざここを襲うメリットでもあるのか!
「アリトさん!」
「ミスティ、君は早く逃げるんだ!」
俺は最も悲鳴が大きい場所へ向かう。
くそ、こんなところで終わってたまるか!
「死ね!」
「ぎゃあああああっ!」
片手剣で村人が斬られた。
血と臓物をぶちまけ、その肉体は生涯を終える。
……やめろ!
「皆んな、早く逃げるんだ!」
自警団がようかく駆けつける。
各々の武器を手に取り盗賊へ戦いを挑む青年達……が、やはり戦い慣れしてないのか、若干押され気味だ。
「ぐうっ!」
「おらおらっ、軽いんだよオメーの剣は!」
「ぐああっ!」
また一人、命を散らした。
ーー俺はもう、その場で力を解放した。
「次はお前だ!」
「ひっ、ひいいいいい!」
「させるか、『サンダー』!」
雷鳴が一線、盗賊へ襲いかかる。
盗賊の男は断末魔すらあげることなく息絶えた。
「あ、貴方は!」
「自警団の人達は、村人の避難誘導をお願いします。こいつらは俺一人で十分です」
「わ、分かった」
俺の能力を考えると、周りに人はいない方がいい。
俺の全力はそれこそ、天変地異を起こしてしまうかもしれないのだから。
「テメエ、よくも仲間を!」
「黙れ」
二人目の盗賊に雷撃を落とす。
こいつらは村の人間でも何でもない、その上既に村に甚大な被害をもたらしている……生かす理由が無い。
「『サンダー・レイン』!」
「「「ぎいあああああああああああああ!」」」
複数の盗賊を同時に感電死させる。
連続して起こる眩い光に目を逸らしてると、他の盗賊とは明らかに違うオーラを纏った男が現れた。
「ガキ、調子に乗ってんじゃねえぞ」
「お前が頭か」
盗賊の頭と思われる人物は、巨大なハンマーを両手で持った筋骨隆々の男だった。
「くそ、森の魔物から逃げられたと思ったらこれか、今日はツイてないな全く」
「森の魔物……?」
「これから死ぬお前には関係無い話さ!」
そう言って盗賊の頭は襲いかかってくる。
「くらえ、『パワースマッシュ』!」
ハンマーが俺めがけて振り下ろされる。
スキルじゃ間に合わない……なら。
俺は体を逸らし、ハンマーの軌道から一歩だけズレて相手の攻撃を見切った。
「なに⁉︎」
「『サンダー』!」
「ぐっはあああああああああっ!」
奴の隙を突き、すかさずスキルを撃ち込む。
盗賊の頭は倒れ、ピクピクと痙攣している。
「ど、うして、俺の、攻撃を」
「日頃の訓練のおかげさ」
実は最近、俺は自警団の人から体術を教わっていた。
その時に習った相手の攻撃を避ける技……実戦で使うのは初めてだったけど、上手く機能したみたいだ。
「さて、この村を襲った理由を答えてもらおうか」
「はっ、言うとおもうか?」
「だろうな、死ね」
俺は落ちていた盗賊の剣を拾い、盗賊の頭の喉へ思い切り突き刺した。
「やれやれ、後片付けが大変そうだな」
盗賊団は、俺の活躍により壊滅したのだった。
「いやあ〜お見事お見事」
「誰だ?」
「英雄さん、私ですよ、私」
先程の行商人が、背後から拍手をしながら現れた。
その顔はニヤニヤと笑みを浮かべ、俺を値踏みするかのような視線を浴びせてくる。
「いやはや、貴方とてもお強いですねえ」
「……何の用ですか?」
「いえ、ちょっとしたビジネスの話を」
ビジネス?
俺は警戒しながら行商人と相対する。
「私、名をカイエルと申します」
「俺はアリト、アリト・カグネだ」
お互いに自己紹介を済ませる。
一体何が目的なんだろうか。
「それで、早速ビジネスの話といきたいのですが、まあズバリ言いますと、この盗賊達の所持品を私に売ってもらいたいのですよ」
カイエルは盗賊団の遺体を見ながらニンマリ笑う。
成る程、そういう事か。
「この国では盗賊を捕縛、もしくは殺害した場合、その実行者が盗賊の所持品を得る法律があるのです」
「へぇ……」
となると、この武器や金は全て俺のもの。
その内の装備品などを、俺に売って欲しいのだろう。
「構わない、全部買い取ってくれ」
「おや、そんな即決でよろしいのでしょうか?」
カイエルは少し驚いた表情になる。
「ああ、売って得た金銭は、今回の盗賊襲撃で被害を被った人達の補償にあてる」
「成る程、その精神性も英雄とは、恐れ入ります」
その後、俺はカイエルと協力して武器を剥ぎ取った。
死体は後からやってきた村長に事情を説明し、村の方で処分してくれると約束してくれた。
「この度は本当にありがとうございます……まさか二度も貴方様に救われるとは……」
「気にしないでください、村長」
そしてカイエルに武器を売り払い、纏まった金が手に入ったので村長に手渡す。
後日、各村人に分配するそうだ。
「アリトさん!」
「ミスティ、無事だったか」
全ての処理が終わったのは、日が傾いてからだった。
俺はそれからようやくミスティと合流出来た。
彼女は負傷した人達の手当てをしていたらしい。
「またしても大活躍でしたね、アリトさん。私もう、凄すぎて何も言葉が浮かびません」
「そこまで言われると、流石に照れるなぁ……」
俺は少しだけ顔を背けてしまう。
「いいえ、アリトさんはそれだけの事をしたんですから、もっと誇りに思っていてください……村の人達も今回の事で、アリトさんをより一層信用したと思います」
盗賊の撃退に加え、被害者への補償。
確かに十分過ぎる程村に献上していると言える。
「本当、アリトさんは心お優しい方です、そんな貴方だからこそ、特別な力が宿っているんですね」
ミスティはにっこりと笑う。
「いやあ、ははっ」
こんなに人から賞賛されたの、いつ以来だろう?
少なくとも日本で生きてきた十七年間に、誰かから褒められた事は一度も無い。
「あ、そうそう……カイエルさんから、村と自分を守ってくれたお礼ですってこれを貰ったんだ」
「これは?」
「日本刀……カタナって言うんだよ」
鞘に収まったそれは、やはり俺の手によく馴染む。
今度、剣術の訓練もお願いしようかな。