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4話・嫉妬の暴走

 

「おはようございます、アリトさん」


「おはよう、ミスティ」


 朝、ミスティと挨拶を交わす。

 彼女は自らの祖父である村長から、俺が村に滞在してる間の世話係的なものを任されてるそうだ。


 俺は別にそんな事しなくても構わないと言ったのだが、彼女自身がやりたいと言って譲らなかったので俺もそれ以上何も言わなかった。


「えっと、今日の予定とかって何かある?」


「はい、お爺ちゃんが枯れてしまった川を何とか出来ないかと言っておりました」


 川か。

 よく分からないけど、洪水が起こらない程度の雨を降らしてみるか。


「あと今朝、自警団の方達から、アリトさんと話し合いをしたいとの申し込みが」


「自警団?」


 ミスティから話を聞く。

 王都や町には犯罪者を取り締まる《騎士団》という組織が駐在し悪人から市民を守ってるそうだが、辺境の村々にはまず騎士など派遣されてこない。


 だから村の人間は自ら盗賊やモンスター、時には村で起こる犯罪から自分達を守る、その為の組織らしい。


「だいたい分かった、で、その自警団の人はどうして俺と話し合いなんかしたいんだ?」


「すみません、そこまでは私にも分かりません……」


 落ち込んでしまうミスティ。


「ああ違う違う、ミスティを責めるつもりは無い、何となく気になったから聞いただけだ……それに、俺なんかの為に一生懸命働いてる子を責めるなんてマネ、俺には出来ないよ」


「アリトさん……!」


 ミスティは頬を赤く染め、潤んだ瞳で俺を見つめる。

 う、うーん、そういう反応をされるとこっちも困る。

 とっとにかく着替えて準備をしよう!


「ミスティ、俺着替えるから」


「あ、そ、そうですかっ……えっと、着替えはこちらに置いておきます。朝食は準備してますので、アリトさんのペースで来てくて結構です」


 バタバタとした足取りで部屋を出て行くミスティ。

 その姿が愛らしく、思わず笑みを浮かべてしまう。


「おっと、朝からデレデレしてる場合じゃないな」


 自警団との話し合い、恐らくこれはただの話し合いじゃなくなるだろう。

 俺の勘が、そう警告していた。




「『レイン』」


 川の頭上にだけ雨雲を出現させ、川に水が流れるように位置を調節する。

 後は放置するだけで勝手に水が流れる始める、とりあえず雨の強さは今のままで、夕方また見に来て問題があったらその都度調整しよう。


「す、凄い……本当に雨雲を……!」


 村長の代わりに着いてきた青年が驚きを隠せないでいる、尚村長は腰が悪く今日は家で休養中だ。

 そろそろ迎えが来る頃かもしれないのお……などと笑えない冗談を言っていたのを思い出す。


「マイクさん、何か問題が起こったら直ぐに俺に知らせてください」


「あ、ああ……頼むよ」


 彼の名はマイク、村の幹部の一人なんだそうだ。

 幹部の中では一番若いらしく、村の若者達のリーダー的存在らしい。


「じゃ、俺はこれで」


 僅か数十分で終わってしまった。

 が、これでいい。

 自警団との話し合いに向けて、俺も色々と準備をしなくてはならない。


「ミスティ」


「はい」


 俺はミスティに、とある頼みごとをする。

 それを聞いた彼女は最初こそ困惑するが、俺の言うことに間違いは無いと思ったのか素直に従ってくれた。


「さてと、鬼が出るか蛇が出るかーー」


 俺は、自警団との集合場所に向かった。




 ♦︎♦︎♦︎




「やあ、よく来てくれたねアリトくん」


 自警団の集会場所とされる建物に入ると、茶髪の青年が出迎えてくれた。

 既に向こうのメンバーは集まっており、中央のテーブルとそれを囲む椅子に座っていた。


「あの、今日はどのようなご用件で?」


「まあとりあえず座ろうじゃないか」


 促されるように腰掛けると、自警団メンバー全員の視線が突き刺さるように向けられる。


「じゃあ自己紹介といこうか、僕の名はジンク、一応このメンバーの中で隊長をやらしてもらっている」


 このメンバーという事は、ここにいる自警団が全てというワケでは無いのか。

 ま、六人しかいないし当たり前といえば当たり前か。


「で、早速本題に入りたいんだけどーー」


 瞬間、ジンクの瞳がギラリと光る。

 そして座っていた自警団メンバーが全員立ち上がり、隠していた武器を取り出し俺へ向ける。


「……これは、随分なもてなしですね」


「君には十分だと思うよ、とにかく何も言わず僕たちと一緒にきてもらおうか……断る、何て言わないだろう?」


 自警団の一人が俺の喉元にナイフを突きつける。

 断ったら殺すーー子供でも分かる状況だ。


「分かりました、言う通りにしましょう」


「話が早くて助かるよ」


 ジンクを除いた自警団メンバーが、俺を囲むように陣形を組んで歩かせる。

 外を出る際、仕切りに周りに人がいないのを確認していた。

 連れていかれる所はーーまあ、大体想像がつく。


「おら、早く歩け」


「はいはい」


 金髪の少年ラックスが俺を急かす。

 ーーそれが、自分達の終わりを早める行為だけと知らずに。






「さて、もういいだろう」


 ジンクが足を止める。

 そこは誰も寄り付かない危険な森、闇夜の森の入り口近くだった。


「単刀直入に言おう、アリトくんーー僕達は、君を殺す」


 ジンクは事も何気に言い放つ。

 それを合図に自警団メンバーが全員、武器を構える。

 生まれて初めて向けられる、本物の殺気。

 こいつらは、本気で俺を殺そうとしている。


「理由は聞いても?」


「なに、大した事じゃない。村に突然現れた、怪しい危険人物を野放しにしておけないってだけさ」


 それだけの理由で、人を殺すのか。

 少し、いやかなり短絡的な思考と思わざるを得ない。

 それとも、この世界ではそれが普通なんだろうか。


「俺は一応、村の人達から英雄って言われてるんですけど」


「君が英雄? 一体何の冗談だい?」


 ジンクが嫌味な笑みを浮かべたかと思うと、彼はそれを直ぐに怒りの形相へと変貌させた。


「ふざけるな、お前みたいな怪しい奴を直ぐに受け入れる他の馬鹿共と僕達を一緒にするな!」


 静まり返った空間に、ジンクの怒号はよく響く。

 それに同調するかのように、ラックスが口を開く。


「村の老害共は何でも直ぐに信用しすぎる、天を操る? んな馬鹿な話あってたまるかーーそれに、お前どうやってミスティを洗脳した?」


「はぁ?」


 ラックスは意味不明な事を口走る。


「とぼけるなっ! 昨日の今日でお前みたいな奴に惚れるなんざあるワケねえ! あいつと俺は幼馴染だ、俺の方が長くあいつと一緒にいるんだ!」


 ……呆れてものも言えないとはこの事だろう。

 要するに、ただの嫉妬の逆恨みか。

 自分に振り向いてくれない幼馴染を、俺という分かりやすい敵を作って自己を満足させる。

 幼馴染が手に入らないのは、あいつのせいだと。


「……はぁ、まるで子供だな」


「なに?」


 俺は呆れながらも続ける。


「そうやって自己弁護するのに何の意味がある? 現実を直視出来ないお前には、何も言う資格は無い。大人しく隅に引っ込んでろ三下が!」


「て、てめええええええええっ!」


 ラックスは我慢の限界とばかりに俺へ襲いかかる。

 が、その時ーー


「やめてラックス!」


「え?」


「なに?」


 ラックスとジンク、他の自警団メンバーもその声の方向へ首を傾ける。


「人殺しなんて……お願いだからやめてよ……」


「み、ミスティ……」


 木の影から、桃色の髪をした少女が現れる。

 その顔は悲痛に歪み、同時に彼らを哀れんでいた。


「ど、どうしてここに!」


「……アリトさんに指示されたの、ここで誰かが来るまで待機してろって……そうしたら、皆んなが……」


 ラックスはバッと俺の方を向く。

 俺はポーカーフェイスを貫き、いつも通りの歩き方でミスティへ近づく。


「悪いな、こんな茶番に付き合わせて」


「いえ……親しい人が誰かを殺めるのは、見たくないですから」


 ミスティは目に涙を浮かべ下を向く。

 一方ジンクやラックスは顔を青ざめてさせていた。

 今ここに、ミスティという第三者が現れた……それは即ち、自分達の凶行がバレたということ。


「さ、全員で村長の所へ行こうか、お前たちの処分もそこで決めてもらおう」


「……お、お前ぇ!」


 これは立派な殺人未遂だ。

 異世界の法律は分からないけど、何らかの罪に問われるのは間違いないだろう。

 が、これで安心……とはいかなかった。


「……せ」


 ジンクが虚ろな瞳で顔を上げる。

 そして、自警団メンバー全員に命令した。


「殺せ……こいつら二人とも殺せっ! 今ここで消しちまえば誰にもバレねえ!」


「うおああああっ!」


 待ってましたと言わんばかりにラックスが襲いかかる、他の自警団メンバーも同様だ。


「ちっ、逃げろミスティ!」


「あ、ああ……」


 ミスティは幼馴染の信じられない行動に目を疑っていた。

 ラックスの目は血走り、最早誰を殺してもおかしくない程狂気に飲まれていた。

 ……仕方ない。


「死ねっ死ねっ! お前もミスティも死ねっ! 俺のものにならないテメーに存在価値はねえええっ!」


 ラックスはナイフを構え突進してくる。

 俺はそれに対し、ゆっくりと右腕を天に掲げるだけ。


「ふっ、この状況で雨を降らしてどうするんだい!」


 ジンクが俺の行動を嘲笑う。

 だが次の瞬間、彼の時間はその笑みのまま止まった。


「『ウェザースキル・サンダー』」


 煌めく六つの光。

 ソレは超高速で自警団メンバーの頭上に現れ、光の速度で全身を撃ち抜いた。


「あっ…………が……」


「悪いな、多分死にはしない、痺れるだけさ」


 バタリと地面に倒れる六人。

 立っているのは俺とミスティの二人だけ。


『ウェザースキル・サンダー』

 雷を自由自在に操る、攻撃のスキル。

 これも天候操作スキルの一つに含まれる。

 ……初めて使ったけど、上手く調整出来たみたいだ。


「ミスティ、こいつらの事を早く報告しよう。今頃今の雷で村は大騒ぎになってるとーーミスティ?」


「あっ……すみません、アリトさん」


 彼女は倒れているラックスを見ていた。

 彼のドス黒い本性を知ってしまったショックから、未だ立ち直れていないのだろう。


「ミスティ……これが人間だよ」


「え……」


 俺は彼女に語りかけた。

 それは俺が唯一、元の世界で得た有用な真実。


「人間はどいつもこいつも心に闇を抱えてる、そしてこいつらみたいなクズも沢山いる……いや、そういう奴の方が圧倒的に多いのが現実だ」


 話しながら、クラスメイトの事を思い出す。

 クラス単位で俺をいじめていた奴ら、それはこの世界に来ても変わらなかった。


「でも、俺はそれでも正しい人間を信じたい」


「アリトさん……」


「だって善人が損をするなんておかしいじゃないか……だから俺はこいつらを倒した、正しい君が傷つけられない為に」


 彼女は死の間際ですら、他人の心配をしていた。

 だから俺はこの村に協力しようと思った。

 その綺麗な魂に、心惹かれるように。


「アリトさんっ!」


「うわっ!」


 ミスティが突然抱きついてくる。

 身長差で彼女の頭が俺の顎下辺りにくる、桃色の髪から何だか気持ちのいい女の子の香りが漂ってきて、思わずぼーっと意識が消えかかりそうになってしまう。


「きゅ、急にどうしたんだ?」


「……ありがとうございます、危ないところを助けていただいて。それにアリトさん、とっても優しくて、私、貴方ともっと早く出会いたかったです」


 彼女は耳で赤く染めながら、俺を抱きしめる力を強める。

 そして顔を胸に埋めたまま、はっきりと口にした。


「アリトさん、私を貴方の女にしてください」


「それは、まだ早いかな」


「っ、どうして⁉︎」


 バッと顔を上げるミスティ。

 その瞳は涙で潤んでおり、訴えかけるような視線を俺に送り続ける。


「君と俺はまだ出会ったばかり、お互いの事をまだ何も知らないのに、付き合う事なんて出来ない。何より、中途半端な気持ちで君を傷つけなくない」


「そう、ですか」


 スッと離れるミスティ。

 俺はそんな彼女を見て、つい口走ってしまう。


「ま、まあ……これから先を過ごしていって、それでも俺を選んでくれるのなら俺は大歓迎だよ」


「ほ、本当ですか!」


 目の色を変え、ずいっと身体を寄せてくるミスティ。


「約束ですよアリトさん、私、忘れませんから」


「あ、ああ」


 ミスティは満面の笑みを浮かべ、俺の腕を取って村の方へ走り出す。


 異世界にきて、早速恋人候補が出来てしまった。

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