表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

21話・ベヒモスの核

 

 肌を刺すような冷たい空気が漂う、村の独房。

 陰鬱とした雰囲気が狭い空間の中に広がり、石造りの壁が余計にそれを際立たせる。


 そして、その独房内の最奥、網目状の檻の中。

 黒装束の男は体を縄で幾重にも縛られ、更にはミスティの『封魔魔法』でスキルを封じられていた。


「さて、知っている事を話してもらおうか」


 男の前に立つ。

 立場はこちらの方が圧倒的に有利だが油断はしない。

 俺たちの知らない、封魔魔法を掻い潜る能力を隠し持っている可能性があるからだ。

 いつでも攻撃出来る体制を取りつつ、質問する。


「あの森で、一体何をしていた?」


「…………ふん、答えると思うか?」


「だろうな」


 そんな事は百も承知。

 だから、例の黒い球を見せてやる。


「これは何だ?」


「っ、貴様!」


 途端に男の態度が急変した。

 冷や汗を流し、呼吸も乱れている。

 余程大切な物なのか、それとも。


「森にいたのと、関係があるのか?」


「……」


 沈黙する男。

 静謐な空気が周囲を支配し始める。

 ……これ以上は、無意味だな。


「最後に一つだけ質問する」


 拷問するという案もあるが、俺にそんな技術は無い。

 それに、俺とミスティが探しているのは村長だ。

 こいつは後でギルドに報告して、騎士団にでも連れていってもらおう。


「森で老人を見かけなかったか?」


 最初からアテにしてない質問。

 だがしかし、男は驚きの答えを返してきた。


「老人…………? ああ、あのジジイか」


「っ、知っているのか⁉︎」


「まあな……くく」


 男はニヤリと笑みを浮かべる。

 何か企んでそうな顔だ。


「……教えろ、何処で見た?」


「さあな、忘れちまったよ」


「答えろ!」


 ガンッと壁を叩いた音が響く。

 壁が脆いのか、俺の力が強すぎるのか、ポロポロと壁が少し凹み崩れてしまう。


「なら、その球を渡してもらおうか」


「……なに?」


 男は余程この球が大切なのか、村長の情報の対価にこの球を要求してきた。


「……」


 球を渡すだけだ、解放するワケじゃない。

 それに奴は拘束されている、何か出来るとも思えない……いや、出来るからこそ球を要求してるのか?


「あの、アリトさん」


 今まで後ろで見守っていたミスティが口を出す。


「……こんな事言うのもあれですけど、私、早くおじいちゃんを見つけてあげたいんです、だから」


「……ああ、そうだな」


 今は村長の捜索が第一だ。

 もし奴が何かしようとしたら、俺が責任を持って直ぐに始末すればいい。


「ほらよ」


 俺は黒い球を投げ渡す。

 球はコツンと床を跳ね、コロコロと転がり男の元へ。


「へへ……」


「さあ、話してもらおうか」


「く、くくっ、そう焦るなよ」


 男はニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべ続けた。

 その視線は俺と、後ろのミスティにも注がれている。


「あんた、あのジジイの家族か?」


「……だったら、何ですか?」


「いやあ、別に」


「さっさと答えろ、なにが可笑しい!」


 勿体振るように焦らす男。

 まるでサプライズパーティーを開く、数秒前の子供。


「そりゃあ、楽しいに決まってるぜ」


 そしてーー男は遂に言った。



「だって、あんたらが必死こいて探してるジジイ……一月前に俺が殺しちまったんだからよぉっ!」



 世界が反転した。

 黒が白に、光が闇に。

 チカチカと視界が点滅し、やたら頭が重い。


「え……」


 それはミスティも同じだった。


「く、くく……あのジジイ、俺を巻き込んで自爆しようとしたんだぜ? だから先に爆発物を奪って離れたんだ、んでジジイに向かって投げたーーボンッてな。ははははっ! 俺を殺して村を救おうとしてたみたいだが……無駄死にってああいうものなんだなぁ、ひゃはははははははははははははははははっ!」


「ああああああああああああああああああああっ!」


 ミスティは叫んだ。

 その叫びは独房全体に響き渡り、壁を揺らした。


「ははははははははっ! もう遅え! 術式は起動した! 後はおまえらが死ぬのをまつだ」


「消えろ」


 バチィッと、男の下品な笑いを遮る轟音が響く。

 独房の天井は砕け、太陽の日差しを迎え入れる。

 その光の下には、黒焦げだ肉片が転がっていた。


「あ、ああ……あああ……!」


「ミスティ……」


 いったいなんと声をかければいいのだろう。

 日本でもこの異世界でも、こんな経験は始めてだ。

 加えて、肉親を失った時の正しい悲しみ方も知らない……思えば俺は、人間として必要な感情の殆どが、苛烈な環境により失われていると気づかされる。


 が、時は俺たちを待ってくれなかった。


「こ、今度は何だ!」


 独房内が……いや、大地そのものが揺れている。

 そういえば先程、男が妙な事を口走っていた。

 術式が起動したとかどうとか……


 とにかくここにいては危険なので、ミスティを連れて独房から脱出する。


「英雄様!」


「どうした!」


「あ、あれを見てください!」


 外へ出ると、多くの村人が顔を出していた。

 そして全員同じ方向を向き、顔を驚愕に染めている。


「黒い球……?」


 黒い球が空中に浮かび、黒い霧が球に吸い込まれていく。

 あの球は、男が持っていたもの。

 やはり何かに関係していたのか⁉︎


「村の皆んなに避難の指示をお願いします」


「わ、わかりました」


 村の男に伝える。

 黒い球は今尚霧を吸収し続け、黒いオーラを放出しながらその面積を増やしていく。


 増殖、という言葉が頭に浮かぶ。

 そうだ、あれは増えているんだ。

 失ったものを構築する為、周囲から何らかのエネルギーを吸い取り再生していく。


「ミスティ……」


「はい」


 ここは危険だと悟る。

 彼女にも避難を促そうとするが……


「私、もう大丈夫です」


 俺にでもわかる虚構。

 取り繕ったその笑顔が痛々しい。

 だけど、今はそんな事を言ってる場合じゃない。


「村の人達の避難を手伝ってきます……アリトさんは、アレを何とかするんですよね?」


「ああ、そのつもりだ」


 そしてミスティは行ってしまった。

 くそ、心のケアすらまともに出来ない自分が恥ずかしい。


「だったら、やるべき事をやるしかない」


 声に出して自らを鼓舞する。

 それと同時にーー黒い球が弾けた。


「っ!」


 闇色の極光が爆発し、黒霧を周囲に撒き散らしながらソレは姿を現した。


「……んだよ、またお前かよ」


「…………!」


 大地を軋ませる程の巨躯。

 どす黒い体毛が覆う背中。

 爪は鋭く、牙は鋭利。

 瞳は獰猛で、大口を開けながら獲物を探してるその様は、一月前見た時と変わっていない。


 唯一変わっているとすれば、瞳の色だろうか?

 黄金に輝く眼は余計にギラギラと闘争心を現し、並の生物なら見ただけで卒倒する。


 ーー三魔怪、制圧のベヒモス。


「■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!」


「ち、相変わらずうるせえな!」


 思わず後ずさってしまう咆哮。

 死を具現化させたような雄叫びは、それだけで村の小屋や家を破壊してしまう。


「……どうなってんだ、これが黒装束の言っていた術式……奴を復活させる為のものだったのか?」


「■■■ッ!」


 ベヒモスは再び大きな咆哮を上げる。

 やるかーーその時、異変は起きた。


「なっ!」


 ベヒモスは大きく跳躍したかと思うと、黒い気を放ちながら元の黒い球に戻ってしまった。


 そのまま球はくるくると回りながら空中を浮遊する。

 まるで、何かを探しているかのような。


「……サンダー!」


 先手必勝。

 再びベヒモスになる前に、俺は神々しい雷を球に向けて撃ち放つ。


「な、に!」


 バチバチと閃光が迸るーーが、球は何ともなかったかのように浮遊を続けていた。


「本当に、何なんだよ」


 不気味ーー俺はそう思ってしまった。


 ただただ浮遊し回転し続ける黒い球。

 しかし永遠に続くかと思われたそのダンスも、急にピタリと止まり、球は天高く飛翔し消えていってしまった。


「……」


 その様子を、呆然と見つめる。

 もしかしたらこの世界は今、とんでもない危機が訪れているんじゃないだろうか。


 ふと、そんな事を考えてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ