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2話・村人へお披露目

 

 数分後、俺は一旦雨を止ませた。

 ミスティが俺に会わせたい人物がいるとの事で、降り続けたままだと村人が興奮して話にならないからだ。

 それにいつでも雨は降らせられる、心配する事は無い。


「でも本当に、アリトさんが来てくれよかったです」


 俺とミスティは、二人揃ってびしょ濡れになった状態で歩いていた。

 チラリと彼女を見ると、服が透けてるというかボロボロな為今にもずり落ちてしまいそうで不安になってくる、あと俺の理性も。


 この村は水不足関係無く貧しいのかもしれない。

 いやでも、これがこの世界の標準という可能性もある。

 何にせよ、俺はこの世界の事を何も知らないのだから慎重に行動しなければならない。


「あ、そろそろ着きますよ」


 彼女が指差したのは、他の民家よりもひと回り大きい家。

 外では髭を生やした老人が天に祈りを捧げていた。


「ちょっと待っててくださいね……お爺ちゃん!」


「おお、ミスティか!」


 お爺ちゃん……あの老人はミスティの祖父なのか。

 二人は数分間話し込み、それが終わると老人が俺の方をジッと見つめてくる。

 ……行ってみるか。

 既に話は終わってるみたいだし。


「どうも、こんにちわ」


「あ、アリトさん」


「ごめん、そちらの方の視線が気になって」


 俺は老人の方へ向き直る。

 すると以外にも、彼の方から口を開いた。


「ワシはブラウン、この村の村長を務めておる」


 ブラウン氏はまたもジッと俺を視る、まるで何かを見定めるかのように。


「お爺ちゃん、さっきも言ったけど、アリトさんがさっきの雨を降らしてくれたの、ほんとよ!」


「ふーむ、しかしなぁ」


 ブラウン氏は信用してなさそうだ。

 それもそうか、いきなりやってきた奴が雨を降らしましたと言っても信じる方がおかしい。


 だから俺は、手っ取り早い方法を選んだ。


「『ウェザースキル・レイン』」


 右腕を天に掲げ、スキルを放つ。

 すると雨雲が何処からともなく出現し、さっきよりも激しい雨を流し始めた。


「ぬ、ぬおおおおおっ!」


「ね、本当でしょう?」


 ブラウン氏はガクガクと腰を揺らしている。

 そして限界まで目を開いたかと思うと、次の瞬間には俺の両肩をぐっと掴み叫んだ。


「是非、是非我が家で着てもらいたい! いやまずは濡れた体を拭こう、話はそれからでもよろしいかな!」


「は、はい」


 凄い剣幕に押されあっさり了承してしまう。

 ま、その方が俺も色々と話を聞けるか。

 俺は雨を止め、ミスティとブラウン氏の後を追った。



 ♦︎♦︎♦︎



 玄関前で村長の奥さんと思われる人から体を拭く布を貰って、びしょ濡れの服を脱いで村長さんの服を借りた。


 ミスティは先に家へ入り着替えてるようだ、ついでに俺の濡れた制服も持って行ってもらう。

 見た事のない服に奥さんもミスティも驚き、後で話を聞かせてくれと頼まれてしまうくらいに興味津々だ。


「あ、貴方様は神の使徒ですか⁉︎ それともこの国を救う救世主様であられますか⁉︎」


 村長宅へ入り客間と思われる部屋の椅子へ腰かけた瞬間、先ほどよりも数倍迫力のある問いかけにたじろいでしまう。

 それ程凄い事をしたつもりはないんだけどなぁ。


「お爺ちゃん落ち着いて、アリトさんが困ってるわ……祖父がすみません、あ、粗茶ですがどうぞ」


「ありがとう」


 ミスティから茶の入ったカップを受け取る。

 丁度良い温度で飲みやすかった。


「それで、話とは何ですか?」


「おお、そうであったですな、話というのは……」


 それから村長の話を聞いた。

 曰くこの村は元々気候的に雨が降りにくいらしく、過去にも似たような事が頻繁に起こっていたらしい。


 しかし今回はそれが異様に長く続き、今までの貯蔵していた水では全く足りなかったそうだ。


「そんな時、貴方様がやってきてくれたのです」


「はい、アリトさまはこの村の英雄です」


 二人がキラキラと尊敬と羨望の眼差しを向けてくる。

 まいったな、こういう人から尊敬されるみたいな事、元の世界では一度も体験した事が無かったから反応に困ってしまう。

 でも悪い気はしない、寧ろ心地良い。


「まあ、俺自身も分からない事だらけでしたし。それに、俺に出来る範囲の事で誰かを助けられるなら、何度でも力を貸しますよ」


「おお、なんと勿体無いお言葉……!」


「アリトさま……なんて心の広いお方……!」


 その日はそのまま、村長の家に泊まらせてもらった。

 寝る前、ミスティから次の日に村長が俺の事を村人全員に紹介するから準備をして欲しいと頼まれた。


「お願いします、アリトさま」


「ああ、任せてよ」


 勿論了承した、誰かから頼み事をされるのは何年ぶりだろう。

 手伝うくらいなら目の前から消えてくれ、キモくて作業に集中出来ない……去年の文化祭の時に言われた事だ。

 これ以降、俺は学校の行事から姿を消した。

 修学旅行も行っていない、金も積み立てしてないし。


 思い返せばクズみたいな連中ばかりだ。

 あんな奴らの事忘れて、この村で楽しく過ごそう。

 そう思いながら、俺は深い眠りについた。

 久しぶりに安眠出来たのは、言うまでも無い。




 翌日、俺は村の広場で大勢の村人に囲まれていた。

 村全体で大きな決め事をする時は村長の家、それでも入りきらない時はこうして村で一番面積のある広場で行われる。

 因みにこの広場は普段、子供達の遊び場らしい。


「今日集まってもらったのは他でもない、この村を救ってくださった英雄を紹介する為じゃ」


 村長のその一言で、全体が大きく騒めく。


「英雄……一体何の事だ?」


「もしかして、昨日の雨が関係してるのか?」


「あの雨は神様の恵みじゃないのか?」


「静まれい!」


 村長が大きな声を張り上げる。

 そして誰もが口を閉じ、村全域が静謐に包まれる。

 俺は緊張で吐きそうだったが、後ろに立っているミスティに背中をさすられ落ち着きを取り戻す。

 そうだ、俺は英雄なんだ、堂々としてればいい。


「では紹介しよう……この方こそ村を救ってくれた英雄、天を操る稀代の天才っ! アリト・カグネ殿じゃああああああああああああああああああっ!」


 村長の大袈裟すぎる紹介の後、俺は彼の後ろからゆっくりと広場の中央へ足を進める。


「どうも、ご紹介させてもらったアリト・カグネです……皆さんは今混乱の極みでしょうが、ここは一つ、自分の力を見てもらい信用を得たいと考えています」


 辺りはまたザワザワと喧騒に包まれる。

 当然だろう、出てきたのは何処にでもいそうな、パッとしない黒髪の少年なのだから。


「おいおい村長、こんな奴が英雄って何の冗談だよ」


 俺と同じ年頃の金髪少年が苛立ちげに声を上げる。

 ま、こういう反応が普通なのだろう。


 だからこそ俺は早めに力を誇示した、それが一番手っ取り早く真実を伝えられる。


 俺は右腕を天に掲げる、そしてーー


「『レイン』」


 ただ一言、そう発した。

一時間後にまた投稿します。

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