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第2章

 自宅に戻ってくると、お昼の時間だった。

 台所では三人の子供たちは自分専用の一人用USBジャーで、ご飯を炊いていた。

 一番上の長女が白米、二番目の長男が炊き込みご飯、末の二男はおかゆを作っていた。

 一人用USBジャーは5ボルト直流電圧で稼働するから、エネルギー面で効率的だ。

 自宅の屋根に備え付けたソーラーパネルから太陽光発電で得られたエネルギーは、効率は悪いもののUSB家電を稼働させるのには向いていた。


 かつて太陽光発電で得られた直流のエネルギーは交流に変換され、家電製品内部の電源回路でもう一度直流に変換されてから使用していた。

 直流を交流に変換するとエネルギーは60パーセントになる。それをまた直流に戻すとさらにエネルギーはその60パーセントに減少する。つまり全部で当初の36パーセントのエネルギーしか使えないことになる。

 ところがあなたの自宅内では、最初から電気エネルギーはすべて直流で、変換しないで利用している。だからソーラーパネルから得られたエネルギーは、ほぼ100パーセント利用できるのだ。


 あなたはUSB製麺機にそば粉を入れ、スイッチを押す。

 冷蔵庫から自家製漬物を出してテーブルに置く。

 麺が出来上がると、出汁としょうゆでつゆを作り、テーブルに置く。

 子供たちもめいめい食事の準備を手伝う。

「いただきます」

 全員がテーブルにつくと長女が言う。

 みんな一緒に食べ始める。ただしメニューは全員ちがう。

 ご飯の米、そば、漬物の野菜はすべて庭の畑で採れたものだ。

 

 兼業農家が全人口の60パーセントを越えた。だが兼業農家の場合、農作物の多くは販売するのではなく、自分や家族が食べるために生産する。

 ほとんどの農作物は有機栽培や自然農法で栽培されるようになったのはこのためだ。

 余った農作物は総合公民館の農協室に行けば、食料限定の地域振興券に替えてくれる。

 これを使って地元で作られた農作物をスーパーマーケットやネット通販で購入するのだ。

 食料限定の地域振興券は、通常の通貨にくらべて流通性は悪い。

 だが流通性のよい通貨、つまりマネーゲームができる通貨を過剰に普及させると大手金融業界、つまり財界に富が一極集中してしまう。

 富が一極集中するのはよくない、資本は分散すべきだ、というのが最近の経済学者の一致した見解である。

 一昔前なら、経済評論家と称する輩の多くは、高給と名誉という二つの餌で犬のように財界に飼われ、彼らを富ますために庶民をだまし、株や先物取引というギャンブルに誘っていたにも関わらず......。

 世界的な株の暴落により、地球規模で政治、経済、社会のあり方が見直された。


 子供たちは再び子供部屋に戻っていく。

 あなたは食器をかたづけた後、ゴミ箱からゴミ袋を取り出し、庭の焼却炉へ持っていく。

 燃えるゴミはすべて自宅の焼却炉で処分していた。

 焼却炉にタービンがついていて、蒸気で回転させると発電する。

 燃えないゴミは総合公民館の敷地内に二十四時間年中無休でゴミ集積場があり、二週間に一度、自家用EV三輪車で捨てに行くのがあなたの役割だった。

 燃えないゴミは市営の再生工場に持っていき、そこで再生された金属類は、市内の業者にオークション販売された。

 ゴミがすべて燃えるとあなたは自宅に戻り、コーヒーを飲む。

 コーヒー豆は庭のビニールハウス内で栽培し、台所の卓上焙煎機で焙煎した。


 午後三時になると、あなたは庭の露天風呂へ行き、入浴する。

 風呂は屋内の浴室の他に、庭にもあった。

 大宮の施工業者に依頼して庭に温泉を掘ってもらった。

 屋内も温泉が出るが、露天風呂の方がリラックスする。

 温泉は入浴以外の用途にも使っていた。

 冷却して洗濯用の中水として使ったり、さらに浄化装置を通過させて上水にも使った。

 このため水道代が浮いた。

 さらに冬は暖房用に自宅の壁に温水を流した。

 また温泉の蒸気でタービンを回し、発電もした。

 屋根のソーラーパネルや焼却炉の発電の分も合わせると、電気代はほとんど基本料金で済んだ。

 だがお隣の鈴木さんは、常温核融合装置をスマードグリッドにつなげて自家発電するようになってから、電気代で月々5千円程度儲けているという。

 常温核融合装置は重水素を原料にする発電で、重水素はペットボトル1本1万円ぐらいでネット通販しているらしい。通常、1本で1年ぐらいもつようだが、この他、装置のメンテナンス費もかかるようだ。


 原子力発電はとうに日本では全廃され、石油による火力発電ももうすぐ絶滅する。

 火山帯の上にある日本列島は、ほとんどの地域で地熱発電を利用できた。

 市町村のほとんどに1箇所以上の地熱発電所があり、主に公道の信号機など社会インフラに利用される。

 自家発電装置の設置が義務付けられている病院や、航空機の燃料は石油からエタノールに変わった。

 全国の農地でエタノールの原料となるサトウキビが栽培された。

 既存の水力発電はそのまま利用されたが、新たに建設されることはなかった。

 発電所の水が地下のマグマに達すると核融合反応が起こり、地震を引き起こしやすいからである。

 一方、小規模な水力発電、つまり水車の発電は山間部で利用された。

 水車発電は近隣の数世帯程度の電力しか供給できなかったが、風力や太陽光にくらべてエネルギー効率の高い発電である。

 一般家庭では太陽光、太陽熱、温泉発電、ゴミ焼却発電を組み合わせて、節電対策が図られた。エアロバイクに発電機を内蔵させる健康器具もヒット商品となった。

 また都市部のビルやマンションでは常温核融合装置が盛んに設置された。

 エネルギー効率で絶大なこの発電は次世代のエネルギーのメインストリームとして注目された。


 露天風呂から上がり、自宅に戻って服を着ると妻が帰宅していた。


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