罪と罰1
「その様子だと、ちゃんと見えたようだな」
不意に声を かけられ、茫然としていた黒斗が我に返ると、イタズラっ子のようにニタニタと笑っているウンデカと目が合った。
目眩が するほどショッキングな映像に続いて、憎い相手の底意地の悪い笑みを見せられ、吐き気と胸焼けすら覚えてしまう。
「やれやれ、こんなに揺れるほど暴れおって……実に厄介な兄妹だ」
「……兄妹……!?」
溜め息まじりに呟かれたウンデカの言葉に反応し、目を大きく見開く黒斗。
するとウンデカは わざとらしく「ああ、そういえば お前は知らなかったな」と前置きをして、鈴と大神の関係について話し始めた。
「あの橘 鈴という娘と、義之は死神と人間の間に産まれたハーフであり、双子の兄妹だ。義之が兄で、橘が妹。まあ、色々と事情が あって生き別れていたがな」
ゴホン、と咳払いをして一旦 言葉を中断するウンデカ。
その間に黒斗は、彼の話から大神が死神と人間の気、両方を あわせ持っていたのは二つの血を引くハーフだからかと合点が いき、違和感が一つ解消されたことに頷く。
だが、それと同時に新たな違和感が芽生えてしまい、黒斗は再び思考する。
(……大神がハーフだから あの気を持っていたのなら……橘は何なんだ? アイツからは一度たりとも死神の気を感じたことなんてない……それに……瞳だって赤くなかったじゃないか……)
考えれば考えるほど深みを増していく謎に もどかしい気持ちを抱いてしまう。
脳内に浮かんでくるのは「何故?」「どういうことだ?」という疑問の言葉ばかりであり、鈴の謎を明かせるような冴え渡った推理など全く出来ない。
肝心な時に役に立たない己の頭が不甲斐なさすぎて、黒斗は無意識のうちに下唇を噛みしめる。
「考えても無駄だ。疲れるだけだから やめておけ」
まるで黒斗の心情を読んだように、半ば呆れた様子で言い放つウンデカ。
そんな彼の遠慮ない言葉に、黒斗が気分を害したように舌打ちをすると、ウンデカは眉を吊り上げながら両手を大袈裟に広げた。
「面倒な奴だな。そんなに気になるならば、謎の答えを教えてやろう……ありがたく思うがいい」
偉そうに咳払いをするウンデカ。
その どこか得意気な表情が とても憎たらしいものだったが、口を挟むと話が脱線してしまいそうなので、黒斗は怒りを抑えて彼の話を黙って聞く。
「まず、あの2人の父親である死神は、タイプΛ(ラムダ)、ナンバー7……ヘプタ。お前が冥界を壊滅状態に追い込めた百年後くらいに作成された、新型の死神だ。
タイプラムダは、他の死神と比べて戦闘能力が著しく低く、お世辞にも感情エネルギー収集に向いているとは言えない型番だ。
しかし その代わり、彼らだけの特殊な能力を与えられている。それは、記憶を代償に強力な封印を施す能力。
呪いだろうが死神の魔力だろうが、記憶さえあれば彼らは あらゆるものを封じることが出来る」
「…………記憶を代償に封印…………まさか、橘が今まで人間として生活できたのは、そのヘプタとやらが能力を使って橘の魔力を封印したからか?」
さっきまでは謎の答えに辿り着けなかったものの、手がかりさえ あれば話は別だ。
話の中に散りばめられたキーワードを元に、黒斗が組み立てた推測を口にすると、どうやら その推測は正しかったらしく、ウンデカは しめしめと笑いながら首を縦に振った。
「……なるほどな。魔力が封印されていたのなら、俺が気づかなかったのも納得が いく。……しかし、封印の力なんて、冥界で どう役に立つというんだ?」
鈴の魔力の謎が解け、小さく頷いた後に黒斗が素朴な疑問をぶつけると、ウンデカは表情を変えないまま彼の質問に答えた。
「……お前の言う通り、冥界では使い道のない能力であった。だが それは当然だ。その力は、神々に匹敵するほどの強力な力を持つ脱走者……タイプゼータ、ナンバー4対策にタナトスが与えたものなのだから」
「なに……?」
思わぬタイミングで自分のことを言われ、驚き息を呑む黒斗。
人間界で長い間 暮らしている間、冥界からの追っ手が一向に やってこなかったものの、タナトスは別に黒斗を見逃していたという訳ではないようだ。
「タナトスは あれからも お前を危険視していたらしい。深刻な死神と感情エネルギー不足に悩まされ、お前の追跡を するどころではないようだがな。
それでも、万が一お前を見つけた時に備えてタイプラムダを作成したのだろう。暴走状態に なった際、お前の強力な魔力を封じ込めて抹殺する為に……な。
まあ、残念ながら未だにタナトスは お前を見つけられていないがな。折角のタイプラムダも使い道もなく、まさに粗大ゴミと化していることだろう」
爆笑を堪えるように口元に手を当てて、クックッと しゃくりあげるような笑い声を漏らすウンデカ。
まるで面白いものでも見ているように愉快そうな彼とは対照的に、黒斗は緊張した面持ちで歯をギリギリと鳴らしている。
冥界から逃げ出して以来、タナトスや彼の配下である死神の脅威を感じることはなかった。
最初は抱いていた冥界に対する警戒心は日に日に薄れていき、完全に逃げ切れたと安心しきっていた。
だが、実際は違っていた。
そもそも、あのタナトスが神々の脅威である死神を見逃す訳がないのだ。
実際にタナトスはタイプラムダという、黒斗の対策の為だけの死神を作っている。
その事実は、黒斗に長い間 忘れていた冥界――いや、タナトスを始めとする無情な神々への脅威を思い出させた。
「…………タイプラムダが どういうものかは分かった。だが、何故お前が それを知っている? お前も俺と同じく冥界を逃げ出し、ずっと人間界に身を潜めていたんだろう。冥界やタナトスの事情など知るよしもない筈だ」
「どうでもいいことには頭が よく回るな。確かに私は、冥界が どのような状態になっているのか知らない。今 話したことは、義之達の父親であるヘプタから聞いた話だからな」
「お前とヘプタは、面識が あったのか?」
「ああ……人間の言葉でいうならば、知人といったところか。それに、彼に人間と結婚するよう薦めたのは他でもない私だからな」
過去を思い返すように遠い目を しながら、ウンデカは さらに言葉を続ける。
「奴は私と同じく、起動した時から自分が心を持つ欠陥品であることに気づいており、それが周囲にバレないよう ひた隠しにしていた。
だが彼は冥界での暮らしに嫌気がさしていて、度々 人間界に抜け出しては そちらで心身をリフレッシュさせていたらしい。
私と彼が出会ったのも、そうやってヘプタが人間界にコッソリと訪れている時だった。彼は自分と同じく心を持つ死神と出会えて、とても喜んでいたよ。
一方的に私に声をかけ、聞いてもいないのにベラベラと自分の素性や経歴について話していた。その後も人間界に来る度 私の元に やって来ては、相談事を持ちかけていた」
「……相談事、ね……アンタに持ちかける自体が間違いだと思うがな」
皮肉を挟む黒斗。
だがウンデカは聞こえていなかったかのように、何食わぬ顔で話を再開する。
「ヘプタは死神でありながら人間の女に心を惹かれていた。出来るものならば、彼女と共に生きていきたい……だけど自分は死神、人間に受け入れられる訳がない。
だから遠くから見ているだけでいい。けれど、彼女を思う気持ちは日々 増していくばかり。苦しくて仕方ない、どうすればいいのだろう……と、彼は そういった悩みを私に してきた。
だから私は言ったのだ。そんなに好きなら、人間のフリをして その女と生きればいいだろう、と。お前のような使い道のない死神が1人くらい居なくなっても、タナトスは気にかけないだろう、と。
そうしたら案の定、奴は私の言葉を鵜呑みにして冥界を出ていき、人間の女にアプローチを繰り返し、子供を孕ませた末に結婚をした。いやあ、あの時は実に めでたかったなあ」
感動的な良い話を終えたように、清々しい表情を しながら胸に手を当てるウンデカ。
確かに何も知らない者が聞いたら、ウンデカのことは友達の恋を応援し、背中を押したキューピッドのように感じられるだろう。
だが黒斗はウンデカが冷血で、己の野望の為ならば、いかなる犠牲も厭わない無慈悲な男であることを知っている。
彼が、良心からヘプタに恋を叶えるアドバイスを するなど ありえないのだ。
きっと裏が――何かウンデカに とって都合が良い、もしくは興味深いことが あったに違いない。
黒斗が そういった疑惑の目をもってウンデカを黙って見つめると、彼は黒斗が何を考えているのか読みようで、ニヤリと口の端を吊り上げた。
「……ヘプタは純粋というより、ただの単純なバカだったな。私が ちょっと彼の気持ちを肯定して助言を与えたら、今まで悩んでいたのが嘘のように女にアプローチを始め、挙げ句の果てには性欲を持て余して何度も身体を交わらせた。
まあ、私としては都合が良かったがな。人間と死神の間に産まれたハーフが、どういった力を持っているのか興味深かったからなあ……」
顎に手を当てて、しめしめと笑うウンデカ。
やはり彼はヘプタのことなど、友達だなんて思っていなかった。
人間と死神の血を引く特殊な子供に対する好奇心だけの理由。
相変わらずの自己中心的な思考に苛立ちを覚えるものの、鈴と大神が産まれたのは半分 彼の お陰でもある。
そのことを思うと怒りを面に出すことが出来ず、複雑な感情を胸中に抱いたまま唇を噛むことしか出来ない。
「ヘプタと人間の子である義之と鈴という娘……身体が成長する、食事が必要、菌にやられたら風邪をひく、分泌物も排出する等、体質は人間寄りではあるが、ちゃんと死神の魔力も持っている。
しかも豊かな感情を持つ人間の性質のお陰か、本来の死神とは違って心が あっても力が弱まったりもしない……実に素晴らしい逸材の子供達だよ。
まあ、義之の妹は死神の力が強すぎて制御しきれておらず、血と肉に飢えて それを求める死神の本能が もう一つの人格として好き勝手 暴れているようだがな」
やれやれ、とウンデカが首を振りながら話し終えると、そのタイミングを見計らっていたかのように ひときわ大きい揺れが部屋を襲った。
先程の ただ部屋を揺らすだけの振動とは違い、建物を潰さんばかりの勢いで左右に大きく揺るがす衝撃。
それによって天井が軋む音と共にヒビが入り、さすがのウンデカも顔から笑みを消して、真剣な表情で顔を上げた。
「……長話を しすぎたようだな。仕方ない、ちょっと悪ガキ2人の躾に行ってくるとするか」
溜め息まじりに独り言を呟きながら、手を かざしてゲートを開くウンデカ。
どうやら大神と鈴が暴れている場所に向かうようだ。
しかし、彼を2人の元に行かせては何をするか分からないし、最悪 殺してしまうかもしれない。
今の鈴の様子は異常だが、正気に戻す方法が あるかもしれないのに死なせる訳には いかない。
「待て! 拘束を解けっ!」
手首を縛っているロープを引きちぎろうと力を込めながら叫ぶ黒斗。
だがウンデカは振り向くことなく、ゲートに足を一歩 踏み入れた。
「暴走状態なら まだしも、通常の状態で義之と鈴に会えば簡単に殺られることは目に見えている。私は お前を守ってやっているのだ……感謝してほしいものだな」
抑揚のない声で言い捨てると、ウンデカはゲートに入って この場を後にした――
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アナスタシオス教団 本部内
礼拝堂
「ぃあぁぁぁあああぁ!!」
扉の奥から耳を つんざくような悲鳴が聞こえると同時に、建物全体が揺れ動いた。
「あぅぅぅぅあぎぃいいいいあ!!」
「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃ」
人間が絶命する間際に発する断末魔。
それは絶え間なく響き渡り、声に比例するように揺れも大きく、激しくなっていく。
常人ならば、地震が起きている場所で断末魔を聞き続ければ、恐怖のあまり固まるか気が触れてしまうかの どちらかだろう。
現に、礼拝堂の隅で鈴を見守っている佐々木は耳を塞いで その場に踞っている。
だが見られている鈴自身は、愉快だと言わんばかりに満面の笑みを浮かべていた。
「な~、ヨッシー。まだ終わんねえのかよお? アタシ、いい加減に待ってるの飽きたんだけど~!」
口元に片手を当て、オモチャを お預けされている子供のような甘えた声を出す鈴。
兄のことを あだ名で呼び、粗暴な口調で話す彼女の瞳の色は赤い。
死神の人格が表に出ている証拠である。
「お~い、ヨッシーってばあ!」
『そんなに騒がなくても聞こえてるさ! 命知らずのザコが次から次へと出てくるもんだから、遊んでやってるんだよ』
扉の奥に居る大神の声が悲鳴に紛れて聞こえてくると、鈴は不機嫌そうに頬をプゥッと膨らませた。
「お前ばっか楽しんでてズールーイー! アタシ、9年ぶりに出てこれたんだぞ!? ちょっとは遊ばせろよな!」
『アハハ、君には殺しがいのある奴を用意してやるからさ。良い子だから、もう少し待ってなよ』
「……ムウ……わーったよ」
チェッ、と残念そうに舌打ちをすると、鈴は大神に殺された信者の死体に近づいていった。
「ひゅ~、中身 見えてんじゃん。容赦ないねえヨッシーも。ま、こういう殺しかたアタシは嫌いじゃないけどね」
そう言ってクスクス笑いながら、鈴は死体の側で しゃがみこみ、目の前で見るも無惨な姿となって転がっている死体を覗きこんだ。
顔は俯せとなって倒れている為、よく見えない。
だが、筋肉質な体格から察するに男性であることはハッキリと分かる。
しかし、その自慢の鍛えられた肉体は身に纏っていたコートごと背中を縦に切り裂かれており、大きく切開された傷口からは、真っ二つになった筋と脊椎が血に紛れて見え隠れしている。
「……フフッ……久々に味わうとするか」
嬉しそうに呟くと鈴は死体に手を伸ばし、切り裂かれてブラブラと揺れている皮膚を摘まんで引っぱり始めた。
すると彼女が摘まんでいる部分から、皮膚がシールのようにベリベリと剥がれてしまい、ピンク色から くすんだ青紫色に変色していっている肉が露となる。
「……う、ぅ……」
その様子を見ていた佐々木は目を固く閉じ、身を縮めながら身体をガタガタと震わせる。
「いただきます」
引き剥がした皮膚を紙屑のように両手でグシャリと丸めて口の中に放り込み、咀嚼する鈴。
ガムのように弾力性のある血生臭い皮膚を味わう彼女の頬は赤く上気しており、細められた目には狂気の光が強く宿っていた。
「おや、僕が居ないのをいいことに つまみ食いかい?」
不意に背後から聞こえてきた声。
どうやら大神が戻ってきたようだ。
「仕方ないだろ? アンタが戻ってくんのが遅いから、ちょっと菓子を つまんでたんだよ」
噛んでいた皮膚を血と唾と一緒に吐き出し、汚れた口元を腕で乱暴に拭いながら振り返る。
すると、顔が血で ほとんど赤く染まっている大神と目が合った。
「んだよ、きったねえなあ。血ぐらい消してこいよ」
「ハハ、お前が待ちくたびれてると思ってさ。急いで飛んできたんだよ」
微笑を浮かべながら顔に手を当て、魔力で返り血を消し去る大神。
彼の顔が綺麗になったのを見届けると、鈴は満足そうに頷いた。
「で、ザコ共は全員 片付いたのか? あれだけ時間かけといて まだです、とか通じると思うなよ?」
底意地の悪そうなニヤニヤとした笑みを浮かべながら鈴が訊ねると、大神は彼女を小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「まだ本部に戻ってきていない信者は ともかく、ここに居た奴らは全員 始末は出来た。これでザコによる邪魔をされずに、探索をすることが可能だ」
「ほほー、そうかい。そりゃあ ご苦労だったなヨッシー」
大神の言葉に笑いながら返事をする鈴。
2人は気づいていないものの、大神の言葉に反応したのは鈴だけでなく、部屋の隅で踞っていた佐々木もだった。
佐々木は死神兄妹の様子を窺いながら ゆっくりと立ち上がると、複数 存在するドアのうち、自分に一番近い場所にあるドアに忍び足で移動しはじめた。
彼女は音を立てないよう慎重に進んでいき、やがて目的地に辿り着くとドアを開き、その中に入って礼拝堂を後にしていった。
音を立てずに息を潜めていた甲斐も あって、佐々木が居なくなったことは鈴も大神も全く気づいていない。
「ザコが消えたのは良いけどよ、お前の言う『殺しがいのある奴』ってのは何処に居るんだよ? アタシ、早く暴れたくて暴れたくてウズウズしてんだけど」
「何処に居るかまでは僕も知らない。でも、本部内に居ることは確かだ。まあ良いじゃないか……獲物を追い詰めていく狩人になったつもりで楽しもうよ」
「狩人ね……うん、悪くはないな。そういう相手をジワジワと追い詰めるの、アタシ結構 好きだぜ」
「そいつは重畳。君も僕と同じ趣味を お持ちのようだね」
ヘラヘラと笑いながら、軽口で会話を する兄妹。
これが普通の世間話なら まだしも、2人が話しているのは殺生に関するものという、穏やかではない話題である。
そんな物騒な内容を楽しそうに、まるで子供同士がイタズラの作戦を立てているように無邪気な様子で話しているのだから恐ろしいものだ。
「じゃあ、行こうか。進んでいけば、そのうち相手から出てくるだろうし」
「あいよ~」
気だるそうに返事をして、先程 大神が信者達を殺戮していた部屋に通じる扉を潜って行く。
彼女に続いて大神も扉を潜ろうとするが、その直前で立ち止まり、礼拝堂を見渡した。
「……あれ、居なくなってるな」
「はあ? 何 言ってんだ」
鈴が怪訝な表情を しながら振り向くと、大神は さっきまで佐々木が居た場所を指さした。
すると鈴は、彼が言わんとしていることを理解したようで、肩を竦めながら首を ゆるゆると振った。
「ああ……いつの間にかアンタのオモチャが居なくなってるな……どーする? 探す?」
いかにも面倒くさそうな顔を しながら問いかける鈴。
一方 大神は何やら考え込んでいるように腕を組み、険しい顔をしている。
そのまま彼が何も答えないまま数秒が経過し、しびれを切らした鈴が乱暴に大神の肩を鷲掴みにした。
「おい、さっさと決めろよ! 探さねえのか、探すのか どっちなんだよ?」
「……別に放っておいても いいや。もう彼女は用済みだしね」
「だったら もっと早く言えよ。アタシが待たされるのが嫌いだってことくらい知ってんだろうが、このクズ!」
すっかり機嫌が悪くなった鈴は口汚く大神を罵ると、さっさと扉の奥に消えてしまった。
(……相変わらず下品な奴だ。まあ、それも しばらくの我慢……。佐々木も、泳がせておけば月影というエサを解放してくれるだろうしね)
1人残された大神は不適な笑みを浮かべて拳を握り締めると、先に行ってしまった鈴を早足で追いかけるのだった。