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デスサイズ  作者: LALA
Episode10 拒絶
78/118

拒絶13

 


(……えっと……ここが先輩の家……だよね)


 夜の町を歩き続けていた清菜は数分を かけて小笠原の家に辿り着いた。



 住宅地や商店街から離れた人気の無い土地に建てられた1階建ての古臭いボロボロの一軒家。


 一見 廃家(はいか)ではないかと思ったが、小笠原が送ってきた写真と外観が完全に一致しているので ここで間違いないようである。



(……もうちょい綺麗な家が良かったな。臭そうだし汚いし、最悪だわ……)


 地震どころか台風が来ただけても崩れてしまいそうな小笠原の家にケチをつける清菜。


 とはいえ贅沢を言っている場合ではないので、仕方なく清菜は玄関の前に立ち、インターホンが無かった為 控えめにノックをする。



「先輩、清菜です。家に着きました」


 声を出しながらノックを繰り返すも、返事は無い。


 それに小笠原が出てくる気配も無い。



(……聞こえてないのかな?)


 そう思い立った清菜はラインで小笠原にメッセージを送信して、返事を待つ。



 だが、今 送ったメッセージには既読のマークが ついているのに小笠原から返事はない。




(……何? 私、放置されてるの?)


 自分から呼びつけておいて返事も出てくる気配も無い小笠原に苛立ち始める清菜。


 今さら家に戻る訳にいかないが、こんな夜中に学生が人の家の前で立ち尽くしている所を誰かに見られる訳にもいかない。



 行き詰まった彼女は咄嗟にドアノブを握り、怒りをぶつけるかのように乱暴に それを回す。


 すると扉はガチャリと音を立てながら ゆっくりと開いてしまった。




(……え? 鍵かかってないの?)


 まさか開くとは思わなかった彼女は驚きつつ、小笠原の不用心さに呆れ果てる。


 扉を開けたのが自分だったから良かったものの、これが強盗だったら どうするつもりなのか――小一時間は そう問いつめてやりたい。



(……とにかく、中に入ろっと)


 文句と説教は本人に直接 言うことにして、清菜は玄関を くぐって中へと入る。



 だが家の中は電気が点いていない為 真っ暗であり、ロクに見えない状態だった。




(うわ、暗……電気どこよ!?)


 手探りで照明のスイッチを探すも それらしい物は見当たらず、苛立ちがピークに達した清菜は大声を出して小笠原を呼ぶ。



「先輩いるんですか!? ラインも既読してるくせに返事も無いし、家の中は真っ暗で何も見えないし、呼びつけておいて何ですか!」


 清菜の怒鳴り声は狭い家中に響き渡ったが、やはり返事は返ってこない。


 だが その代わり 暗闇の中を一筋の光が射し込んだ。



 光が見える前方を見やると、ガラス戸で閉められた部屋の電気が点けられたことが分かり、そこに小笠原が居ると思った清菜は靴を脱いで そちらに向かう。


 その途中、廊下が ぬるぬるとした液体で濡れているのを靴下越しに感じたが、特に気にすることなく歩みを進めた。




「先輩、居るなら返事して下さいよ!!」


 文句を言いながらガラス戸を開け放った瞬間、むせ返るような鉄の匂いが鼻を つき、あまりの悪臭に彼女は咳き込みながら鼻をつまんだ。




「臭い……何の匂いよ、これ……」


 眉間にシワを寄せながら、眼球だけを動かして部屋の中を見渡していく。



 その時 何か妙な物が視界の隅に映り、清菜は顔を そちらに向ける。




 すると、赤い水溜まりの上で全身から血を流して倒れている小笠原の変わり果てた姿が清菜の目に映った。



「…………せん、ぱい?」


 思わず口を突いて出てきたのは、彼の名を呼ぶ言葉だけ。



 充満する鉄の匂い、赤い水溜まり、微動だにせず倒れている小笠原。


 完全に脱力して指が開かれている手のひらには、携帯が置かれたままだ。



 客観的に見れば、彼は死んでいると直ぐに分かりそうなものだが、パニック状態になっている清菜には その事実を認識することが出来ない。



 フラフラと小笠原の元へと歩いていく清菜。


 その途中 何か小さくて柔らかい物を踏んでしまい、プチッと生々しい音が耳に届くも、それでも清菜は歩みを止めない。




 小笠原の傍らへと辿り着いた彼女は、呆然と立ち尽くしたまま彼を見下ろす。




 目を覆うほど長い前髪は中央から掻き分けられており、素顔が露となっている。


 だが、前髪が掻き分けられて露となっている彼の両目部分には赤黒い穴が ぽっかりと開いており、その穴からはドロドロとした どす黒い液体が顔を伝い床に落ちていっている。


 穴から流れる その液体は、さながら血の涙のようだ。



 では、彼の両目は どこに行ったのか――清菜は上手く働かず重たい頭でボンヤリと そんなことを考えながら視線を走らせる。


 すると僅かに血が流れ出ている小笠原の口に、白目部分が赤く染まっている眼球の1つが加えられていることが分かった。


 さらに口の下にある首、それも喉仏にはナイフが突き立てられており、彼の首や肩を大量の出血が赤く濡らしている。



 そして引き裂かれた衣服の隙間から見える小笠原の素肌には『オマエガワルイ』と書かれた、刃物による切り傷が刻まれており、血で滲んでいる その文字と彼の病的に白い肌の組み合わせは とても不気味で気持ち悪いものだった。




「………………」


 全身が震えて悲鳴も あげられない清菜。


 人間とは恐怖や驚きが頂点に達すると、声も出なくなってしまうのだと彼女は、今 初めて知った。




(ど、どうしよう……どうすればいいの!?)


 混乱する頭で必死に考える。


 喉仏のナイフと抉り取られた眼球、そして胸部から腹部にかけて刻まれた『オマエガワルイ』という切り傷。


 殺人であることは明確であり、本来なら警察に連絡するべきなのだろう。



 だが清菜には警察に連絡するなど考えられなかった。


 何故なら――




(私が……先輩を殺した犯人って思われるかもしれない……!)


 そんな不安が過ったからだ。



 しかも清菜は こんな夜中に家族に黙って家を抜け出すという傍目から見れば怪しい行動をしている。


 清菜と小笠原のラインの記録は残っているものの、それでも不審な第一発見者で、学校での悪評も高い自分に疑いの目は少なからず向けられる。


 それに、全ての警察が そんな無責任で悪徳な訳ではないと分かっていても、適当で身の覚えのない証拠を突きつけられて無実の罪を着せられるかもしれないという漠然とした不安も あるのだ。



 ならば何も見なかったことにして ここから逃げ出すしかない。




 そんな考えが浮かんだ刹那、清菜のスマホが振動した。



「ひゃっ……なによ、もう!」


 口から飛び出そうな程 やかましく鳴り響き動いている心臓のある場所を押さえながら、清菜はスマホを確認する。


 すると恐らくストーカーからであろう差出人不明のメールが届いているのが分かり、空気の読めないストーカーに舌打ちをしながらもメールを開く。



 だが開いたメールには文章など一切なく、代わりに写真の添付ファイルが ついていた。


 今までに無かったタイプのメールを不思議に思いつつも、清菜は添付された写真を開く。




「っ」




 表示された写真を見た清菜は絶句し、手に持っていたスマホを落としてしまう。



 軽い衝撃音を響かせながら床に転がったスマホ。その画面には小笠原の遺体を見下ろす清菜の後ろ姿が映っていたからだ。




「清菜たん」



 不意に男の声が聴こえ、清菜の肩がビクリと跳ねる。



「ごめんよ、こうするしか清菜たんを救う方法が無かったんだ」



 聞き覚えのある――それでいて清菜が嫌っている男の声。



「清菜たん…………いや、もう変態のフリは必要ないか」



 振り向いて姿を確認せずとも、清菜にはストーカーである男の正体が分かった。




「……徳井先生が……ストーカーだったんですね」




 そう呟きながら ゆっくりと振り返ると、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている徳井の姿が視界に入った。



「ストーカーねえ……まあ、ストーカーと言うべきなのかな。僕としては非常に不本意だけど」


 頭を掻きながら不服そうに目を細めて言う徳井。


 溜め息をつきながら部屋の入り口に視線を移すと、彼は手袋をはめた手で口を押さえて横目で清菜を見やった。



「うわあ……君を驚かせようと わざわざ入り口に置いたのに、まさか踏み潰して そのままスルーとはね……大した奴だよ」


「はあ?」


 徳井の言葉の意味が分からず、彼が見ている方角に首を向けると、ガラス戸の近くで眼球が落ちているのが見えた。


 床の上の眼球は潰れて ひしゃげており、破けている黒目の部分からは卵の白身のような透明なゼリー状の液体が漏れている。



(……さっき何か踏んだと思ったけど……まさか目玉だったなんてね……)


 小さくて柔らかい物の正体が分かり、清菜は合点がいったように小さく頷いた。



 一方 そんな彼女の様子を見ていた徳井は、(あご)に片手を添えながら まじまじと清菜の顔を覗きこむ。



「あれ? こういうグロいの割りと平気?」


「……平気では ありません。でも悲鳴をあげるまでもないので」


「へえ……意外とタフなんだねえ」


「……どうでもいい話は やめましょう。先輩を殺したのは貴方ですか? それに私のストーカーを していたということは……そういう……不潔な目で私を見ていたと……?」


 穢らわしい物を見るように冷たい眼差しで徳井を睨む。


 その氷のような目からは、ストーカーであり殺人の疑いもある徳井に対する恐怖感は一切 感じられない。




「……自惚れとか恥ずかしくないのかねえ……別に僕は君を そういう目で見ていた訳でも、愛していた訳でもないよ。


  君のような(しつけ)のなってないガキ、誰が惚れるって言うんだ……ああ、さっき殺してやった小笠原のように見た目に騙されて惚れ込むバカも居るか」


「……じゃあ何ですか? 私が好きじゃないのなら、何で私に わざわざ変態じみたメールを送ったんですか? 何で小笠原先輩を殺したんですか?」



 飄々(ひょうひょう)とした態度を続け、質問に答えない徳井に苛立つ清菜。


 意味の分からないストーカー行為といい、残虐な殺し方といい、この男は頭がイカれているのではないか――清菜は本気で そう考える。



「何か失礼なこと考えてないか? ……まあ、いい。とにかく こんな所に長居は無用だ」


 そう呟くと徳井は おもむろにスーツの内ポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、刃の部分を清菜に向けた。



「な……何を……!」


 血を求めるかのように煌めくナイフに さすがの清菜も怯えだし、青ざめた顔で徳井を見上げる。



「篠塚。小笠原の首に刺さっているナイフを引き抜け」


「……は? 何で、私が そんなことを……」


「いいから やりなさい……死にたくなければ、な」


 ナイフを さらに清菜の身体に近づける徳井。



 ここで彼に逆らうのは得策ではないと清菜は考え、嫌々ながら小笠原の喉仏に刺さっているナイフを掴み、引き抜き始める。



 かなり奥まで刺さっているようで、なかなかナイフは抜けないが、それでも清菜は必死に引っ張り続ける。


 すると、ナイフはズジュリと音を立てながら小笠原の首から引き抜かれ、その傷口から鮮血が噴水のように吹き出て清菜の顔や身体を濡らした。



「う、うう……血がヌルヌルしてて気持ち悪い…………ほら! 抜きましたよ!」


 ずいっ、とナイフを徳井に突きつけると彼は無言で それを受け取り、懐から取り出した小さなビニール袋の中に入れる。




「これでいい……さあ、行こうか篠塚」


 満足そうにナイフの入ったビニール袋を一瞥した後、徳井は清菜の右手首を鷲掴みにして身体を引き寄せ、その白くて細い首筋にナイフを当てた。



「ひっ……! いや……離してよっ!!」


 首筋に感じる硬質で冷たい感触に、全身が冷え込むほどの恐怖を覚える清菜。


 悲鳴に近い大声をあげるも、徳井が手首を掴む力は弱まらない。




「……いいから君は僕と共に来るんだ……まさか逆らおうだなんて考えるほど、君はバカじゃないだろう?」


「………………」


「それでいい、さあ行くよ」



 清菜の手を引いて玄関に向かう徳井。




(……私、どうなっちゃうの……?)


 これから どうなるか、そして何をされるか分からず目に涙を溜めて怯える清菜。


 だが逆らうことも出来ず、清菜は彼に手を引かれるがまま歩いていくしかなかった。




 ******





 翌日 午後13時すぎ 内河家




「…………ハア…………松美……入るぞ」


 溜め息を吐きながら内河は松美の自室のドアをノックして中に入り、ピンク色の布団を頭まで被ってベッドに横たわる妹を見やった。




「……なあ松美……元気だせよ…………清菜さん、きっと無事だって。だから、ちゃんと飯 食わないと身体に悪いぞ~?」


 軽い口調で話しかけるも、妹からの返事は返ってはこらず、内河は どうしたものかと頭をガリガリと掻きむしる。




 松美が落ち込んでいる原因、それは清菜だ。


 今朝 早くから かかってきた邦之の電話によって清菜が居なくなったことを知った松美は 相当落ち込んでいた。


 清菜が行方不明になっただけでも松美にとってショックな出来事だというのに、そこへ さらに追い討ちをかけるかのようにテレビで小笠原殺人事件のニュースが流れ、清菜が容疑者として報道されたのだ。



 小笠原の自宅の玄関やガラス戸にベッタリと付着した清菜の指紋。


 そして家族に黙って家を抜け出し、未だに連絡もつかず行方も生死も不明の清菜。



 警察や世間が疑いの目を向けるのも無理は無いだろう。




 清菜が殺人など犯す訳がないと、松美は そう信じたかったが、心の何処かでは清菜を疑っている自分が()り、そんな自分に嫌気が さしていた。


 そして、こんなことになる前に彼女を助けられなかった自分が許せなかった。




「……なあ松美、そんなに自分を責めるなよ。清菜さんが居なくなったのは、お前のせいじゃないんだから」


「……いいえ、私も原因の一端を担っているのであります。清菜さんが ここまで追い詰められていたというのに、私は彼女の力になれなかった。


  昨日も……清菜さんから帰りが遅くなったことを、家族に上手く言い訳してほしいと頼まれたのに……何も言葉が浮かばず、結局そのまま放置してしまいました。


  私が言い訳をしなかったせいで、清菜さんは知代さんや邦之さんに ひどく叱られたのでしょう。そして それが引き金となって、彼女は家を飛び出した……。私のせい以外の何者でもありません……」



 唇をキュッと噛み締める松美。


 その苦悩に満ちた顔は布団を被っている為 内河には見えなかったが、身体が小刻みに震えているのは布団ごしでも分かった。



 何を言えば良いのか分からず、目を伏せる内河。


 すると暗い雰囲気を破るかのように軽快なインターホンが鳴り、内河は そそくさと玄関に向かう。



「へいへーい……空気を読まずに訪問してきたのは どなたですかー?」


 心の声を出しつつ覗き穴から客人の確認をすると、真剣な表情をした玲二の姿が見え、あまり快く思っていない人物の訪問に内河は舌打ちをする。




「内河さん、佐々木です。松美ちゃんと お話したいんですけど……宜しいですか?」


「松美と話をしたいだとお!? さては貴様、松美が落ち込んで元気が無いのを良いことに、襲うつもりじゃないだろうなあ!?


  確かに松美は超が つくほど可愛いが、そんな可愛い妹を お前のようなノロマに くれてやる訳には……」


「ちがーーう!! 今日は そっち系じゃなくて、真面目な お話に来たんです!」


「真面目な話!? さては お兄さん、妹さんを僕に くださいというアレか!?」



 玄関を間に挟みながら不毛な会話を続ける内河と玲二。


 すると あまりの喧しさに耐え兼ねたのか、自室に引きこもっていた松美が玄関に やってきた。




「……近所迷惑であります……一体 何の騒ぎでありますか」


「あっ、その声は松美ちゃん! オレだよ玲二だよ!」



 玲二の声に気づいた松美は眉をピクリと動かし、訝しげな表情で玄関を見やる。



「…………何の用でありますか」


 暗く沈んだ声で問いかける松美。そんな彼女とは対照的に、玲二は明るい声で問いに答える。



「あのね松美ちゃん……オレ達、鈴ちゃんの提案で これから清菜さんの捜索をするんだ。だから、松美ちゃんも一緒に来ないかなって思って……」


「おおう! 橘の提案だと!? さすがは橘、天使のように優しい奴だ! 実に いとおしい!」


 頬に両手を当てながら だらしなく笑う内河だが、松美は暗い表情のままだ。



「……清菜さんの捜索って……そういうのは警察の お仕事でしょう。そもそも警察でさえ未だ手がかりを得られていないのに、私達のような子供に何ができるというのですか。


  探偵ごっこなんか無駄なだけ……自己満足でしか ないのであります」


 冷めた口調で言い切る松美。


 だが玲二は怯むことなく、芯の通った声で己の考えを言葉にする。



「確かにオレ達に出来ることなんか(ほとん)ど無いかもしれない。でも……何もしないで待ってるくらいなら少しでも誰かの為に動きたい、役に立ちたいってオレは思ってるんだ。


  まあ、これは あくまでも個人的な考えだし……自己満足であることには変わりないけどね」


「………………」


 松美は何も言わず、黙ったまま玲二の言葉に耳を傾け、彼女の隣に立つ内河も その言葉を噛みしめるように腕を組んで小さく頷いている。



「……あの時ああしていれば、もっと行動を起こしていれば……そういう後悔は もうしたくないから……だから、自分に出来ることを精一杯やるんだ。それにオレだって清菜さんを守り隊の一員だから……出来るだけ清菜さんの助けになりたいんだ」


 そう言って玲二が少し照れくさそうに笑うと、松美は眉を下げたまま顔を俯かせた。


 まるで痛みに耐えているかのように歯を食い縛る松美。


 その沈痛な表情からは明らかに迷いの色が見られる。




「…………でも……私なんかが、清菜さんの力になれる訳ありません……それに、きっと清菜さんだって……何の役にも立たなかった私のことを怨んでる……。私は……友達失格なのであります」


 目に涙を溜めながら ぽつりぽつりと呟く松美。


 すると、小刻みに震えている松美の肩を内河が強く叩いた。




「なーにが友達失格だ! そもそも、お前と清菜さんは まだ友達ですらないだろうが!」


「……え?」


 内河の言葉に目を丸くし、呆けたような声を出す松美。


 そんな松美の顔を内河は真っ直ぐに見つめ、かつてないほど真剣な表情で言葉を続けた。



「……お前と清菜さんの付き合いは確かに長いし、互いに友達だと呼びあう関係だとは知ってるさ。でもな……友達とは名ばかりで、お前ら2人は本当の友達ではなかったんだよ!


  清菜さんは お前を都合の良い存在として好き勝手 扱ったりしていて、お前は お前で清菜さんを怒らせないようにと常に気を使って よそよそしかった!


  お互いに壁を作って、お互いに心を許していない……そんなの友達じゃないだろ!? 友達ってのはな……もっと心を許しあってるもんだろ! 橘や月影達のように!」


 顔を真っ赤にしながら捲し立てる内河。


 一方 松美は今まで見たことのない兄の様子に驚き、言葉を失っている。



「……お前は清菜さんの頼みを何でも きいていた……だけど それだけじゃダメなんだよ。相手が間違ったことをしていたら注意する、それでいて……相手が本当に困っている時は親身になって助ける。友達って、そういうもんなんじゃないのか?」


「……………………」


 内河が言い終えると松美は目を閉じて俯き、しばし思考する。




「…………友達らしくないというのは……私も分かっておりました。だけど……清菜さんを怒らせて絶交されたくなくて……自分が傷つきたくなくて……彼女の機嫌をとるように行動していました」


「…………」


 内河も玲二も黙って松美の口に出している心の声を聴く。



「清菜さんは確かに性格悪いです、悪すぎです、近年稀に見る自己中です。でも……私は、そんな清菜さんと本当の友達になりたい」


 閉じていた目を開き、松美は おもむろに玄関のドアノブを回した。



 ガチャッと音を立てながら扉が開かれると同時に、冷たい風が松美と内河の身体を撫でる。


 外の寒さに一瞬 身体が震えるも、松美は凛々しい表情のまま靴を履いて外に足を踏み出し、玲二の前に立った。




「……私も、清菜さんの為に少しでも何かしたいであります。自己満足ではありますが、ジッとしてはいられないので」



 微笑を浮かべながら松美が言うと、玲二は満面の笑みで彼女の手を握った。



「一緒に、出来ることをやろう! 清菜さんを守り隊として!」


「はい」


 会話を終え、玲二と松美は互いに手を握ったまま駆け出した。



 清菜が無実にしろ犯人にしろ、行方が分からないままで良い訳がない。


 もちろん清菜が殺人犯だなんて思いたくはなかったが、彼女と会って話さないことには何とも言えないのだ。


 だから松美は どちらの可能性も考慮して行動することにした。



 彼女が無罪ならば無実の証明をする。


 彼女が犯人ならば罪を償うように説得する。



 これが友達として、彼女の為に出来ることだから――






「…………って、待て待てーい! 何を手なんか握ってんだイヤらしい! お前なんかと松美を2人っきりに させてたまるかーっ!」


 遅れて内河も、2人を追って走り出した。

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