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デスサイズ  作者: LALA
Episode10 拒絶
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拒絶7

 


 無言のまま歩き続けた黒斗達3人は、『まじまや』という小型のスーパーに辿り着いた。



 父親に頼まれたカレー粉を買うべく、未だに機嫌が治らない清菜が無言で さっさと店内に入っていく。


 それを追って黒斗も店内に入ろうとするが、自動ドアの前に立った途端に鈴が足を止めた。



「……どうした?」


「…………えっと…………」


 眉を潜めて俯く鈴。


 そんな彼女の様子から、黒斗は鈴が清菜に気まずさを感じていることを察した。



 鈴自身に悪気は無かったとはいえ、清菜を傷つけてしまった引け目が あるのだろう。


 清菜も黒斗に止められはしたものの、今は相当 気が立っているに違いない。



「……お前も少し落ち着いた方が良いな。篠塚は俺が見ているから、買い物している間 そこのベンチにでも座っていたらどうだ?」


 そう言って黒斗は入り口横にあるベンチを指さした。



 まだ機嫌が悪い清菜が また鈴に突っかかる可能性を危惧したのだ。


 これ以上2人の間にトラブルが起きるのも、鈴の心や清菜の精神にも良くないのだから。




「…………ゴメンな、クロちゃん…………」


 コクリと頷く鈴だが、その目には涙がジワリと滲んでいる。


 その涙は申し訳なさから来るものか、もしくは『偽善者』と言われたショックからか黒斗には分からなかったが、彼女の悲しい顔を見て心がチクリと痛むのを感じた。



「……気にするな」


 ポンと頭を叩いて微笑み、黒斗は踵を返してスーパーの中へと入っていった。





 黒斗や清菜の心情とは真逆に、穏やかな曲が流れる店内。


 清菜は顔を しかめたままカレー粉が置いてある棚を目指し、黒斗は清菜から一歩離れて付いて歩いている。



(……ああ、イラつく……ストレスばっかりでスゴく疲れる……全然 楽しいことが無い……)


 未だに怒りが収まらず、鼻息が荒い清菜。


 後方に居る黒斗からは見えていないが、今の彼女の顔は とても醜く歪んでいる。


 明らかな怒りのオーラを放出している清菜を見た他の客や店員は、皆 彼女を横目で見やりながら避けるように遠ざかっていく。




(……カレー粉は……ここか)


 天井に吊るされている看板を見上げ、心の中で呟く清菜。


 上に向けていた視線を戻すと、少し離れた場所に見慣れた藍色のお団子頭の少女の背中が視界に入った。



(あれは…………松美ちゃん!)


 見間違える訳のない友達の姿を認めた清菜に笑顔が戻り、それと同時に ある考えが頭に浮かんだ。



(せっかく会えたんだし、今日は松美ちゃんと一緒に帰ろっと! 月影さんと橘さんには適当に謝っておけばいいや!)


 声をかけようと、雑誌コーナーで立ち読みしている松美に歩み寄る清菜。


 そんな彼女の心情を察したのか、黒斗は何も言わずに立ち止まったまま清菜の行動を見守る。




「まつ」


「松美ちゃーんっ!!」


 やや離れた場所から松美に呼びかけようとした清菜だが、聞き覚えのある男の大声によって遮られてしまう。



(今の声は……)


 強張った表情で松美を見つめていると、松美の右方向から予想通りの人物が現れ、清菜は拳を握りしめた。



「……あれは……佐々木……」


 松美の隣に立ち、彼女に話しかける玲二を見て呟く黒斗。


 一方 玲二と松美は こちらに気づいておらず、互いに会話を始めた。


 他人の会話を盗み聞きするのは黒斗の趣味ではないので、彼は2人の声が聴こえない場所まで歩いて移動する。



 だが清菜は まるで固まってしまったように立ち尽くし、玲二と松美の会話を聴いていた。






「こ、こんにちは松美ちゃん! こんなスーパーで、ぐ、ぐ、偶然だねっ!」


「何で どもるんだ、意味わかんねえ。どうも こんにちはであります」


 最初に心の声が出ていたが、本人は気づいているのかいないのか何事も無かったように挨拶を返し、手にしている週刊誌に再度 視線を落とす。



 会話が途切れてしまい、困ったように眉を下げる玲二だが ここで挫けては男が(すた)ると己を激励(げきれい)し、思いきって話しかける。



「お、オレ、ちょっと小腹が空いたから惣菜(そうざい)のパックを買いに来たんだ! 松美ちゃんは何かを買いに来たの!?」


「私は ただ立ち読みの為に来ただけであります。小腹が空いているのなら、さっさと惣菜でも何でも買いに行けばいいのであります」


「う、うう……冷たい……かき氷のように……」



 誰に対しても こんな態度なのか、はたまた玲二のことを嫌っているから冷たいのか。


 つんけんされることは黒斗で慣れていたつもりだったが、多少デレが あった黒斗とは違い、冷たさしかない松美の刺々しい言葉に、告白すると張り切っていた玲二の決意が揺らぐ。



(……まだ恋人になれなくても良いから、せめて友達には なりたいなあ)


 とりあえず告白やスピード交際を諦め、まずは友達から始めようと思い直す玲二。


 だが仲良くなる切っ掛けが掴めず、それでいて女の子を口説いたり喜ばせる言葉も分からず、もう少し母から恋愛が何たるかを聴いておけば良かったと玲二は今さら後悔する。



(……う~ん……そうだなあ……とりあえず話題として、松美ちゃんが興味を持っていそうなものを探ろうか……)


 松美の背後にまわり、彼女の肩越しに雑誌を覗き見してみる。


 すると『恋愛成就のお守りの作り方!』という記事が見え、思わず玲二は驚きの声を あげてしまった。



「うえええ!? 恋愛成就っ!? そんなあああああ!!」


「なっ……ちょっと! 何 勝手に覗き見してんだ変態……であります!」



 広げていた雑誌を直ぐ様 閉じ、玲二から距離をとる松美。


 鋭い目付きで こちらを睨みつけてくるものの、そんな眼差しより『恋愛成就のお守り』の記事を彼女が熱心に読んでいたことにショックを受け、玲二は力なく その場へ膝をついてしまう。



「うう……まさか松美ちゃんに、もう既に好きな人が居たなんて…………さよなら、オレの青春……さよなら、オレの純情……」


 涙をポロポロと流しながら切なげに呟く玲二と、それを訳が分からないという冷めた眼差しで見下ろす松美。



 そんな2人を遠巻きに見ている客達は「あの男の子、浮気がバレて土下座してるのかしら」「こんな店内でSMプレイか?」など、好き勝手 言っている。


 まるで(さら)し者にされている気分がして、松美は膝を ついたままの玲二を怒鳴りつける。



「ちょっと! 恥ずかしいから やめろであります!」


「だ、だって……松美ちゃんには心に決めた人があ~」


「いねーよ! であります! あの恋愛成就のお守りは私のではなく、お兄様の誕生日プレゼントとして作ろうと考えていたのであります!」


「…………へっ!?」


 その言葉を聴いた玲二はガバッと顔を上げ、四つん這いで松美に近づいた。




「お、お兄さんってことは内河さん用の? つまり、松美ちゃんには好きな人が居ないってこと?」


「そうであります。来週の木曜日は お兄様の誕生日なので、お兄様の実る確率が限りなく低い恋愛を応援するべく、手作りの お守りでも作ってやろうと考えていたのです」


 照れくさいのか、眉を潜めながらプイッと そっぽを向く松美。


 一方 玲二は松美に好きな人が居ないと分かって安堵すると同時に、兄思いという意外な一面を知り 改めて彼女に惚れ直す。




「そっかー、お兄さんの為に あんな熱心に雑誌を読んでたのかあ! 厳しい人だと思ってたけど、本当は とっても優しいんだね松美ちゃん!」


 ゆっくりと立ち上がりながら玲二が言ったストレートな褒め言葉に、ずっと仏頂面(ぶっちょうづら)だった松美が顔を真っ赤に染めて戸惑ったように視線を泳がせる。



「べ……別に優しいとかじゃないであります……私は、無謀なる恋に挑む愚兄を見兼ねただけです……要するに、哀れみであります……」



 いつもの強気な態度とは うって変わり、もごもごと喋りながら落ち着きなく手を揉み続ける松美。


 そのギャップを目の当たりにした玲二は目の前の小柄な彼女を抱き締めたくなる衝動に駆られるが、必死に理性で本能を抑えつけ、ニッコリと微笑む。



「照れちゃって可愛いなあ! フフフ、そっか そっか……お兄さん大好きなんだなー」


「茶化さないで下さい! もう……」


 ふてくされたように頬を ぷうっと膨らませる松美の顔は、年相応の可愛らしい少女そのものだ。



「……でも……このままだと手作りのお守りが兄に渡せない可能性があります……」


「えっ? 何で?」


 首を傾げながら訊ねると、松美は眉を八の字にして玲二から顔を背けた。



「……お恥ずかしい話ですが……実は私、手先が絶望的に不器用でありまして……事前に お守りを作ろうと何度もチャレンジしてみたのですが、出来上がったものは とてもお守りとは言えない禍々(まがまが)しい未知なる物体ばかり……」


「そ、そうなんだ……大変だね……」


 彼女の言う『禍々しい未知なる物体』のイメージは浮かばなかったが、その一言だけで いかに松美が不器用であるかは分かった。



「何度やっても上達しなかったであります……私1人では どうしようもないので誰かに協力を仰ぎたいところですが、母は仕事で忙しいですし、学校で友人が居ない俗に言う“ぼっち”の私には?そのような相手は おらず……」



 ガックリと肩を落とす松美だが、玲二は彼女の『協力を頼める相手が居ない』という言葉に引っ掛かりを覚える。


 何故なら彼女には唯一の友達であろう清菜が居るからだ。


 清菜も松美の頼みならば喜んで引き受けそうな気が するというのに、何故 協力を頼まないのだろうか。



「……清菜さんに助けを求めたら どうかなあ? 清菜さん、そういう細かな作業 得意そうだし」


 思ったことを素直に口に出すも、松美は悲しそうに首を横に振って彼の提案を否定する。



「……清菜さん、そういう面倒なこと嫌がりそうですし、それに……清菜さんに頼みごとは しにくくて……」



「……!」


 遠くから盗み聞きをしていた清菜が松美の言葉を聴いて息を呑むが、彼女の存在に気づいていない玲二と松美は そんなことなど知らずに会話を続ける。



「ハア……このままでは お兄様にお守りを渡せません……市販の お守りは何となく安っぽい感じがしてイヤなのですが……そうするしかないのかもしれません」


 手作りのお守りを諦めようとする松美。


 だが、玲二は そんな松美を元気づけるように彼女の小さな肩に片手を置き、空いている片手で拳を握った。



「諦めちゃダメだよ松美ちゃん! それに……もし良かったら、オレが協力するよ!」


「え……マジでありますか!?」


 思わぬ申し出に笑顔を浮かべる松美。しかし すぐに顔をブルブルと振り、また無愛想な表情を浮かべる。


 だが、それでも頬は赤いままだ。



「さ、佐々木様が協力でありますか? 失礼ながら、私 貴方が手先が器用な方だとは思えないのでありますが」


「うーん……オレも お守りとか作ったことないから分かんないけど、でも……1人よりも2人って言うでしょ? 1人では難しいことも、2人なら協力しあって乗り越えられると思うんだ!」



 そう言って笑う玲二の顔を見て強張っていた松美の表情が緩み、微笑を浮かべた。


 滅多に笑わない彼女が人前で僅かにでも微笑んだということは、ひたすら前向きで明るい玲二に多少 心を開いた表れなのかもしれない。


 一方 玲二も初めて見た彼女の笑顔に胸を ときめかせていた。



「……仕方ないであります。そこまで言うなら、とことん手を貸してもらうであります!」


「うん! 任せてよ!」


 笑いあう玲二と松美。





 そんな2人の会話を ずっと盗み聞きしていた清菜からは表情が消えており、彼女は松美達に気づかれないよう静かに雑誌コーナーから遠ざかった。




 “清菜さん、そういう面倒なこと嫌がりそうですし、それに……清菜さんに頼みごとは しにくくて……”




 先程 松美が言った何気ない一言が頭の中でリフレインする。



 ショックだった。


 一番の親友だと思っていた松美から「頼みごとが しにくい」と思われていたことが。玲二と松美が仲良くなったことが。



(……何よ、勝手に私が嫌がるとか決めつけて! 私、そんなに とっつきにくい訳!? 松美ちゃん、おかしいんじゃないの!?)


 心の中で松美に悪態を つく清菜。


 松美の発した一言も清菜にとって不愉快なものだったが、それよりも玲二と松美が親しくなったことが気にくわなかった。



(松美ちゃんの友達は私だけだったのに…………。ふん、いいわよ別に! 勝手に他の友達を作るような子、知らないっ!)


 松美に対しての怒りが収まらないまま、カレー粉が ある場所へ向かう清菜。



 そんな彼女の様子を、黒斗は遠くから冷めた眼差しで見つめている。



(……自分に原因が あるとは考えず、全部 他人のせいにするか……実に度し難い……)


 溜め息を漏らしつつ、黒斗は清菜の護衛の為に、大股で歩く彼女の側に移動するのだった。




 ******




 一方 スーパーの外にあるベンチに座っていた鈴は、先程 脳裏に浮かんだ映像に出てきた幼い少年について考えていた。



 “おまえさえ いなかったら、ぼくは……パパにもママにも……あいしてもらえたのに!”



 そう怒鳴りながらも涙を流す少年。


 フラッシュバックとして出てきたのだから、鈴は彼と面識があり、実際に暴言を吐かれたということになるが、鈴には全く身に覚えの無い出来事だった。


 幼い頃の友達を忘れているだけなのかもしれない――そんな考えが一瞬 過るも、鈴は小学生になるまで とても身体が弱く病弱だったらしく、外に出ることも友達と遊ぶことも許されなかった。



 鈴は ひとりっこなので兄弟だって居ないし、そんな話を母から聴いたこともない。


 ならば あの少年は、彼が言った言葉は一体 何を意味するのか。



 鈴には知る術が無い。



(……大体、偽善者なんて言われたんは初めてやないのに……何で今日に限って、その言葉で あないな映像が……)


 疲れたように頭を抱える鈴。



 すると自動ドアが開く音がして反射的にそちらを見ると、鬼のような形相の清菜と目が合ってしまった。


 店に入る前よりも機嫌が さらに悪くなっているのは どういうことなのだろうか。



「あ、あの……清菜さん、何か あったんですか?」


 恐る恐る訊ねると、清菜は見下すように鈴を一瞥して鼻を鳴らした。



「フン、アンタの友達って とんだ泥棒猫ね!」


「は?」


 清菜の言った言葉の意味が分からず首を傾げるも、彼女はカレー粉の入ったレジ袋を手に さっさと歩き出す。



 唐突な出来事に鈴が唖然としていると、続けて黒斗が自動ドアから出てきて、立ち尽くしている鈴に視線を向けた。



「……な、なあクロちゃん……清菜さん、何が あったんや? 何で機嫌が もっと悪うなっとるん?」


「…………さあな。勝手に怒って勝手に ふてくされてるんだ」


 黒斗は素っ気なく答えると清菜を早足で追い、鈴も彼に並んで歩き出す。




(……今は あの映像のこと考えへんようにしよ……清菜さんの護衛に集中せんと!)


 頬を叩いて気を取り直す鈴。



 だが、その顔は ずっと曇ったままだった。

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