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デスサイズ  作者: LALA
Episode10 拒絶
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拒絶5

 

 2年D組 教室内




 雑談で盛り上がる教室内へ、顔を やや俯かせて入る清菜。


 何も言わず無言で入ってきたので、彼女の存在に気づいた者は ほんの数人である。



「昨日の歌番組 見た? AZの新曲やってたわよ!」


「えー、嘘ー!? 予約しておけば良かったあ」



「なー、今からゲーセン行こうぜー」


「あー、授業とか かったりいからなあ」



 そんな何気ない会話が飛び交う教室を清菜は無表情のまま進み、入り口側の一番後ろにある自分の席へ座る。




(……おはようとか声かけてくれれば良いのに)


 そんなことを思いながら、清菜は鞄から小説を取り出して読書を始めた。



 清菜には友達が居ない。


 だが決して彼女はイジメを受けている訳でも、無視されている訳でもない。


 内気で無口、それでいて表情が固い為に同級生から とっつきにくいと思われ、クラスに溶け込めないでいるのだ。



 たまに気の良い同級生から話しかけられることもあるが、流行の歌や芸能人、ファッションに興味の無い清菜は話を合わせることが出来ず、結局 気まずい雰囲気のまま会話を終えてしまう。



(……あーあ、今日も また退屈な1日が始まるのね……)


 無意識のうちに溜め息を漏らす清菜。


 松美だけが友達で良いと強がっていても、1日の半分を過ごす学校で楽しみが無いというのは やはり寂しさを感じるものである。


 内河とは家が近所同士で、幼馴染みでは あるものの友達という程 親しい訳ではない。



 だが自分から積極的に話しかける度量を持ち合わせていない清菜は、友達が出来ないのは他の人が話を合わせてくれないのが悪いと開き直り、心の中で同級生に悪態を つくのだった。




 ******




 昼休み 2年A組内




「いよっしゃあああああああああ!! 待ち望んでいた時がキタアアアアア!!」


 4時限目の授業を終え、担任教師の矢吹が教室から出ていくと同時に歓喜の声を あげながら立ち上がる内河。



 いきなり騒ぎだした内河にクラスメート達が何事かと視線を向けるも、まあ内河が喧しいのは いつものことか、と直ぐに興味を無くして昼食の準備を進めていく。


 そんな中、内河も弁当箱の入ったビニール袋を手にして、スキップをしながら鈴の元に向かう。



「たっちばなー! さあ行こう、いざ行こう、清菜さんの元へ!」


 その場でクルリと一回転した後、無駄に優雅な仕草で鈴に手を差し出す内河。



 昨日の作戦会議の結果、昼休みの間は内河と鈴が清菜の護衛を担当することとなっているのだ。


 そのことが決まった際の内河の喜びようは尋常ではなく、あまりにもハイテンションで騒ぐ為に通行人から通報されかけた程である。



「グフフ……こんな形で橘と弁当を食べられるなんて……ああ、夢のようだ! 生きてて良かった! さあ、さあ、さあ!! 早く行こう橘!!」


「分かった、分かったって! そないに急かさんといてや!」


 内河のテンションに圧されながらも、鞄からピンク色の弁当箱を取り出して立ち上がる鈴。


 そんな彼女の肩に内河は さりげなく腕を回し、勝ち誇ったように頬杖をついている黒斗を見下ろす。



「ガハハ、橘は貰ったぞ! ざまあみろ、ガハハハ!! 悔しいだろ!?」


「……何で いちいち悔しがる必要があるんだ。というか、さっさと行け」


「ハッ、強がっちゃってよお! これだからムッツリは! ささっ、行こう橘!」


「うん。じゃあなクロちゃん、また後でなー!」


 肩に回されている内河の腕を嫌がることなく、鈴は黒斗に手を振りながら教室から出ていった。




(……はあ、やっと静かになった)


 騒がしい内河が立ち去り、一息つく黒斗。


 いつも昼食は鈴に誘われて共に食べているが、たまには1人で静かに弁当を食べるのも悪くないと、黒斗はコンビニのバイトで持ち帰った廃棄のパンの入った袋を取り出す。



(さて、と…………教室は騒がしいから、静かな屋上にでも行くか)


 久々に落ち着いて昼休みを送れそうだと無意識のうちに微笑を浮かべる黒斗。



 だが彼は忘れていた。



 もう1人の賑やかな友人の存在を――




「ヘーイ! ミスター ツキカゲ!」


 黒斗が立ち上がると、留学生のアルバートが声を かけてきたので そちらに視線を向ける。



「どうした?」


「オ呼びダーしダー! アチラノ プリティボーイが、アナタをヨンデイルー!」


「……プリティボーイ?」


 爽やかな笑みを浮かべるアルバートが指さす方向を見やる。


 すると、やたらとデカい弁当箱を持って手を振る玲二の姿が目に入り、黒斗は思わず片手を額に当てた。



「あーにきー! お弁当 一緒に食べよーっ!」


「…………」




 ──俺は甘かった



 ──静かに昼休みを過ごせるなんて……あり得なかったんだ




 脱力した肩がガックリと下がり、深い深い溜め息を吐く黒斗であった。




 ******




 その頃――


 鈴・内河・清菜の3人は、雨上がりの中庭で穏やかな時間を過ごしていた。




「おおお、内河くんの弁当めっちゃ美味しそうやなー!」


 内河の弁当を見て感嘆の声を あげる鈴。


 彼女が食い入るように見つめている弁当箱の中には、五目おにぎり、梅じゃこおにぎり、しそわかめおにぎりと、小さいながらも多種多様の おにぎりがあり、さらに おかずとして美味そうな香りを醸し出す卵焼き、真っ赤なミニトマトが添えられている。



 決して おかずが豊富ではないシンプルな弁当だが見た目、香りともに食欲を そそる出来映えとなっており、彼の弁当を見ている鈴の腹の音が鳴ってしまう。



「た、橘が そう言ってくれるなんて光栄にも程がある! よ、よ、良かったら、何か1つ食べてみるか?」


「ホンマに!? でも、悪いんじゃ……」


「橘なら この弁当を全て あげても良いぐらいだから全然 悪くはないんだぞ!! さあ、遠慮せずに! さあっ!!」


 ずいっ、と弁当箱を突きだす内河。


 すると鈴も自身の弁当箱を内河に差し出し、ニッコリと微笑んだ。



「じゃあ、おかずの食べあいっこ しようや! ウチだけが内河くんの お弁当貰ったら不公平やしな」


「た、た、た、たちばなあ……」


 鈴の優しさに涙する内河。



「うう……将来 俺の母親になる人の お弁当を食べると同時に、おかずの食べあいっこだなんて恋人みたいなことが出来るだなんて……もう……もう、俺は いつ死んでもいいっ!! ああ でも やっぱり死にたくないなあ! 死んだら橘に会えなくなっちゃうからー!」


「お、大袈裟やな…………。まあ、とりあえずウチは卵焼き貰っとくわ」


「ふぁい! じゃあ俺は肉団子を頂きマッスル!」


 互いに おかずを取り、口に含む鈴と内河。



 数回 咀嚼(そしゃく)して おかずを飲み込むと、2人の顔に笑顔が浮かんだ。




「美味しいー! 何や この卵焼き! めっちゃ美味いで!」


 フワフワとした卵焼きの あまりの美味しさに満面の笑みを浮かべる鈴。


 そんな鈴の様子を見ていた内河は鼻血が出そうになるが必死に堪え、得意気に卵焼きに関する解説をする。



「その卵焼きは自信作なんだよなー! 実は それ、ニンニク醤油(しょうゆ)が隠し味でな、さらに とろけるチーズも一緒に混ぜてるんだよ!」


「ニンニク醤油とチーズか……そんな組み合わせも あったんやな……確かに ほのかにチーズの味が しとったわ…………って、ん? 自信作って…………え?」


 内河の言葉に引っ掛かりを覚え、未だに鼻を押さえている内河をジト目で見つめる。


 すると内河の鼻を押さえる指の隙間から小量の血が流れるも、それを見なかったことにして鈴は疑問を口にする。



「あの……今の内河くんの言い方やと、まるで自分で作ったみたいな感じなんやけど……もしかして……」


「おおう、バレそうだ! いや、俺が作ったと言ってもいいんだけど、何か それだと自慢してるみたいでイヤだなー! よし、誤魔化そう! 違うぞ橘! これは お袋が作ったものなんだあーっ!!」


「ええええ!? 内河くんが作ったんか!?」


「アレー、バレてるうぅ!? 何でバレたんだ!? ハッ……これが、愛のテレパシーというものか!?」



(……心の声を出した後にウソ言っても通じる訳ないでしょう)



 何ともバカげた やり取りに、黙々と弁当を食べている清菜が心中でツッコミを入れる。




「内河くん、こないに料理が得意やったんか……知らへんかったなあ…………あっ、じゃあ もしかして松美ちゃんの お弁当も……」


「お、おう! 俺が作ってるぞ!」


「やっぱり……ホンマにスゴすぎやで内河くん……!」


 意外すぎる内河の料理の才能に尊敬の眼差しを向ける鈴。


 彼女が食べたのは卵焼きだけだが、自分と妹の弁当を作っているということと、綺麗に握られた おにぎりから察するに、彼の料理の腕前は かなりのものなのだろう。


 料理が趣味である鈴の彼に対する認識は、クラスメートから憧れの存在へとランクアップしたようだ。




「た、橘に褒められるだなんて……これは夢か? ああ、夢ならば どうか……覚めないでくれえええ!!」


 鼻血をダラダラと流しながら両手を あげて青空を仰ぐ内河。


 相変わらず騒がしい男を横目で見た清菜は、「バカバカしい」と小声で呟いて溜め息を吐く。


 すると、清菜の溜め息に気づいた鈴が慌てて彼女に視線を向けて頭を下げてきた。



「ご、ごめんなさい! 何かウチらだけで盛り上がってもうて……」


「い、いえ……別に気にしていないので……」


 口では こう言う清菜だが、内心ではカップルが いちゃついている場面を見せられているようで かなり苛立っている。



「……橘さんって明るいし、喋り上手ですよね。私とは大違い。あーあ、私も貴女みたいに友達と楽しく会話してみたいわ」


 さりげなく愚痴をこぼす清菜。


 その やや冷たくキツい口調からは、彼女の不機嫌さが滲み出ている。


 だが鈴は そんなネチネチとした清菜に苛立つことなく、握り拳を作って言葉を かける。



「清菜さんだって、友達と楽しく話せるようになれますよ!」


「……私が? 友達と楽しく? どうやってですか? 大体、現時点で この学校に友達 居ないんですけど」


「うがーっ! 橘が こんなにも優しい言葉を かけてるのにグチグチ言うなあ!」


 拳を振り上げる内河だが、鈴が片手で制止すると(うな)り声を あげながら唇を噛み締めた。



「えーと……せやな、まず友達作るには積極的に声を かけるのが一番やな」


「声をかけるって言われても困ります。私、話題作りとか苦手ですし、それに いきなり話しかけてウザがられたら どうするんですか?」


「あ、うん……でも、声をかけられるのを待ってても、声を かけられる可能性は低いんちゃうかな……積極的に喋らへんと、他の人達も話しかけにくいっちゅうのも あるし……」


「……言いたいことは分かりました。ですが話題は? 他の皆が よく話している歌とかファッションとか芸能人とか、私 興味ないんで話が合わないんですけど」



「グギギ……」


 鈴が何かを言う度、素直に頷かずに何か愚痴を言ってくる清菜に怒りを覚える内河。


 鈴が好きな人だという点を除いても、自分で考えない、努力をしようともしない態度がイライラする。




「……えと……じゃあ清菜さんが興味ある、話を合わせられそうなのって何ですか?」


「興味あるもの、ですか……そうですね、敢えて言うなら小説ですかね」


「じゃあ、同じように小説を読むのが好きな人に声を かけてみたらエエんちゃう? 話が弾むかもしれへんで!」


「うーん……自分から声をかけて、変に思われたくないんですよね……声をかけるのではなく、声をかけられる方法は ありませんか?」



 自分から行動を起こす気が全く無い清菜に、さすがの鈴も眉間にシワを寄せた。



「……あのな清菜さん。あれも無理、これも駄目って言ってばかりじゃ何も変わらへんで? ちょっとは自分でも努力を せえへんと……」


「だって仕方ないじゃないですか。私は小さい頃 身体が弱くて入退院を繰り返してばかりで、ロクに同級生と話したことがありません。


  だから、何を話せばいいのか……コミュニケーションの やり方が分からないのです」


 そう言って唇を尖らせる清菜。


 彼女の言い分も分からないことは無いが、だからと言って何も努力しないで友達が欲しいと言うのは虫が良すぎるのではないだろうか。



 しかし何か提案する度に却下されるので、鈴は何を言えば良いのか分からず、心なしか頭痛を覚える。



「……じゃあ、表情……清菜さん、もう少し表情を柔らかくしたら、他の人も話しかけやすくなるかも……」


「……表情が固いのは生まれつきですから。もういいです、全然 参考にならないです」


 突き放すように言い切ると、清菜は弁当箱を布で包み、ベンチから立ち上がって鈴達に背を向けた。



「あっ、ちょっと……昼休みの間はウチらが護衛を……」


「貴女達が食べ終わるの待ってたら昼休みが減りますし、私は もう食べたので。別に大丈夫だと思いますし何かあったらメールします」


 振り返ることなく言葉を紡ぐと、清菜は そのまま立ち去っていった。




「……ふんがああああああ!! 何なんだアイツはーっ!! 教えてもらってるクセに あの態度! 松美の友達じゃなかったらキレてる所だぞっ!」


 清菜の失礼な態度に憤怒(ふんど)する内河だが、鈴は怒ることなく、無表情のまま清菜が去った方角を見つめている。



(……清菜さん……自分から変わらへんと……何も変わらへんで……)



 切なげに呟かれた心の声は、誰にも聴こえない。




(……皆、私に何かしろって そればっかり……何で私だけ努力しなくちゃいけないの)


 イライラしたまま廊下を歩く清菜。


 鈴からのアドバイスが自分から行動を起こすものばかりだった為、さらに苛立ちが募る。



「篠塚」


 ただでさえ不愉快な気分なのに、さらに不愉快な声が聴こえ、清菜は舌打ちをしながら後ろに振り返る。

 すると、アッシュグレーの髪と瞳が特徴的な副担任である徳井(とくい) (しのぶ)の姿が視界に入り、清菜は無意識のうちに彼を睨みつける。



「篠塚……今日は珍しくクラスに友達が呼びに来ていたようだけど……その子達は どうしたんだい?」


「……友達じゃありませんし、徳井先生には関係ないじゃないですか」


 顔を背ける清菜。



 徳井は三十代後半に見えないほど顔立ちが若く美形で、さらに生徒思いの良き教師である。


 その為クラスで孤立している清菜を気にかけて心配しているのだが、清菜にとっては正直うっとうしい存在でしかない。


 彼のアドバイスもまた、自分から声をかけたり、なるべく笑顔でいた方が良いという清菜が最も嫌うものばかりだからだ。




「……昼休みを無駄にしたくないので、失礼します」


「あっ、おい待てよ篠塚!」


 会話を一方的に打ちきり、立ち去っていく清菜を呼び止めるも彼女が素直に止まる訳もなく、そのまま清菜は廊下の角を曲がって姿を消した。




「……参ったなあ……どうすれば あの子、変われるんだろう……」


 真ん中分けされている前髪をなぞり、ポツリと呟く徳井。



 そんな彼を、遠くから見つめている人影があった。




「ハァハァ……清菜たん、可愛そうだなあ……皆からイジメられて……ボクが……ボクが助けてあげなくちゃ……」


 廊下で立ち尽くす徳井をギロリと睨みつけると、人影は ゆっくりと その場から離れていった。

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