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デスサイズ  作者: LALA
Episode8 復讐
50/118

復讐9

 

(急がなきゃ……!)


 広く静かな廃工場の中、玲二の足音と荒い呼吸だけが響く。



 手当たり次第に扉を開いては中を確かめ、怪しい物が無いかチェックを続けているが、ブレーカーや黒斗の言っていた小細工のような物は見つからない。


 急がなければ黒斗や鈴が死ぬというのに、一向に進展しない状況を歯痒く思う玲二。




(……ここにも何も無いや……急がないといけないってのに……)


 小さな部屋の中を見渡し、特に変わった物が無いことを確認すると玲二は扉を開けて細長い通路に戻る。



 こんな調子で見つかるのだろうか――そんな不安が過るが、玲二は首を振ってネガティブな思考を消す。



(全く……ネガティブなのはオレの悪いクセだよ)


 自嘲気味に笑い、玲二は再び走りだす。




 だが、そんな彼の行動は横から伸びてきた手に首を掴まれ、壁に勢いよく叩きつけられて阻害された。




「がはっ……」


 壁に叩きつけられた玲二が咳き込むと、首を掴む誰かの手が更に力を増して絞めつけられる。



「ぐ、うぅ……」


 苦しみながらも玲二は前を向き、自分の首を絞める人物の姿を見る。


 目の前に居たのは案の定、黒いコートに身を包む大神だった。




「ようこそ、佐々木 玲二くん。君は本来お呼びでは無かったが……月影が あまりにも弱すぎて退屈していたからねえ、特別に招待してあげたんだよ」


「特別に招待……じゃあ、あの不自然に割れた窓は やっぱり貴方が……」


「そう、僕が君を入れてあげたんだよ。ありがたく思うんだね」



 口角を吊り上げて笑う大神を見据え、玲二は護身用に そのまま持ってきた拳銃を大神の腹に向けようとする。


 しかし気付かれてしまったようで、拳銃を持つ右手を大神に掴まれた。



「ううっ……」


 壁に押し当てられ、首と右手を掴まれて身動きがとれない玲二の顔に焦りの色が浮かぶ。


 そんな彼に、大神は互いの息が かかりそうな程 顔を近づけ、氷のように冷たい目で玲二を見つめて口を開く。




「一応、君はお客様だからね……それなりに おもてなしはさせてもらうよ」


「おもてなしだって……!?」


「そう。確か……君はテレビゲームが好きだったね? だから、ホラーゲーム体験をさせてあげるよ」


 その言葉の意味について玲二が疑問を口にしようとするが、玲二が言葉を発する前に大神が彼の首を引き、突き飛ばした。


 いきなり突き飛ばされた玲二は尻餅をつき、圧迫から解放された首をさすって二、三回 咳をする。




「じゃあ、ゲームのルールを説明しよう。君は僕の追跡から逃げながら、目的を達成する……つまり君は逃げる者で、僕は追う者……という訳さ。


  君が目的を達成できればゲームはクリア。逆に目的を達成する前に僕に殺されればゲームオーバー。月影や橘が死んだ場合はタイムオーバー扱いだよ。


  フフッ……どうだい? 面白そうだろ?」




 クスクスと笑う大神を、玲二はキッと睨みつける。


「何が面白そうだ……! ゲームは人を楽しませるものなんだ……誰かの命を懸けるものじゃない!」


 フラフラと立ち上がり、声を荒げて大神に文句を言うが、彼は聴こえていないかのように顔を上に向けた。




「ゲームスタートまで、あと3秒~」


 軽い口調で呟かれた言葉を聞いた玲二の顔を冷や汗が流れる。



「あと2秒~、あと1秒~」


「っ! う……うわあああああ!!」


 弾かれたように玲二は大神に背を向けて走り出した。




「ゲームスタート!」



 カウントを終えた大神は右手を前に突き出した。


 すると彼の手のひらに黒い煙のような物が何処からともなく集まり、鎌の形へと変化していく。


 巨大な鎌の形となった煙を大神が掴むと、その煙は瞬時にデスサイズへと変化を遂げた。



「さあ、何処までも追いかけて行くよ……」



 ベロリと唇のまわりを舐めて、必死に逃げる玲二を追う大神。




(うう……! 早くしないと、兄貴と鈴ちゃんが危ないのに!)


 走りながら後ろを見て、大神の様子を確認する玲二。



 ただでさえ時間が無いというのに、彼に見つからないよう慎重に行動しなければならなくなってしまった。




(いざって時には……この銃で……!)


 銃を持つ手に力を込め、玲二は大神と距離を離すべく、ひたすら走り続けるのだった。




 ******




 一方、その頃




「ガハッ…………ゲホ、ゴホ……」


「ハアッ……ハアッ……」


 満身創痍(まんしんそうい)の状態で床に倒れている黒斗と、そんな彼を血濡れたナイフを持って見下ろす恵太郎。


 先程 撃たれた右足は まだ大丈夫なようだが、ビクンビクンと震えている。



 恵太郎も傷は負っているが、その殆どが殴打痕である。



 ダメージは深いものの、やはりナイフで何度も刺されている黒斗の方が重傷だ。




「ハハッ……ゴキブリ並みの生命力だなあ。いい加減に くたばっちまえよ! その方が楽になるぜ?」


「…………戯れ言を…………」


 瀕死の状態でありながらも、黒斗の眼光は未だに鋭いままだ。



「こんなんじゃ、橘よりも お前の方が死にそうだなあ、アハハ」


 ナイフをクルクルと回しながら言う恵太郎だが、黒斗は動じる様子も無く、彼の言葉を鼻で笑い飛ばした。



 焦りが見られない黒斗の態度に苛立ったのか、恵太郎は不機嫌を露に彼を睨みつける。




「何を余裕ぶっこいてんだよ。お前さ、今は絶体絶命のピンチなんだぜ? もう少し慌てろよ!」


「……慌てても状況は変わらないさ…………それに、全ては佐々木に託したからな…………あとは、結果が出るのを、待つ、だけだ……」


「あんな薄のろ豚を期待してんのかよっ!? 死神様も堕ちたもんだなオイ!」


 腹を抱えて笑いだす恵太郎。




「……アイツは、きっと上手くやる…………俺は、そう信じてるからな……」


 そう呟いた黒斗の頭を、恵太郎は思いきり踏みつけた。



 頭部に鈍い痛みがはしるが、黒斗は歯を食い縛って耐える。



「何が“信じてる”だよ! クッセーことを言いやがってよ! 薄ら寒いんだよボケ!」


「っ…………お前にだって、信じている人間が、居ただろう……! お前の……兄が……!」


「兄ちゃんはもう居ないっ! お前が殺したからな!! お前が兄ちゃんを……俺から奪ったんだ!!」


 黒斗の頭から足を離すと、恵太郎は強く彼の頭を蹴飛ばした。



 勢いに押されて黒斗の身体が転がり、口の端から血が流れる。




「兄ちゃんを殺しておきながら、『俺は間違ってない』って顔をしやがってよ! 裁きだなんだカッコつけても、テメエは ただの人殺しだっ!!」


 感情を爆発させ、黒斗に強い憎悪を秘めた目を向ける恵太郎。


 そんな彼を見つめる黒斗は、満足そうに口角を吊り上げた。



「……良い憎悪だ…………そんなに俺が憎いか?」


「憎い……憎い憎い憎い憎い憎いっ!!」


 今の恵太郎を支配するのは、兄を殺した黒斗への憎しみ。



 そこにパーツの意思は無く、恵太郎の純粋な復讐心だけがあった。



 玲二が右足の目玉を1つ潰してくれた お陰で、パーツの洗脳が弱まり、恵太郎の自我が強くなったのだろう。




「……憎いなら、許せないのなら……仇をとってみせろ……!! 他の誰でも無い、お前自身の手で! お前自身の意思で!!」


「偉そうに言ってんじゃねえよっ!!」


 そう怒鳴ると恵太郎は黒斗へ近づき、彼の右足を目掛けてナイフを振りかぶった。




 ──それで良い



 ──自分自身の意思を、信念を持って ぶつけてくるがいい



 ──俺も己の信念を持って、お前を迎え撃つ



 ──これは正義と悪の戦いではない



 ──信念と信念のぶつけあいだ





 ******




 黒斗が恵太郎を煽っている頃、玲二は物置部屋の中で四角形の鉄の箱の中に隠れて息を潜めていた。



 あれから大神に見つからないよう慎重に動き、彼の足音が聞こえたら部屋や物陰に隠れたりして やり過ごしていた。



 今の所、何とか見つからずには済んでいるものの、やはり隠れながら進んでいる為、思うように進めず時間ばかりが経っていく。



(こんな所で……手間取ってる場合じゃないのに!)


 あまりにも もどかしくて叫びたくなるも、そんなことをしたら気付かれるのでグッと堪えて耳をすます。




 カン カン




(き、来たっ!)


 大神の足音が部屋の外から聞こえ、玲二は手で口を覆って息を止める。



 緊張感から心臓がバクバクと喧しく鳴るが、この心臓の音が外に漏れるんじゃないかと不安になる。




 カン




 部屋の扉の前で足音が止まる。



(えっ……う、ウソ……)


 ここに潜んでいることがバレたのかと、玲二の全身から血の気がサーッと引いた。



 滲む脂汗、鳴り止まない心臓、小刻みに震えだす身体。




(お……お母さんっ……!)


 目を固く閉じ、母の姿を思い浮かべる。





 カン カン






 再び足音が響くと、その足音は徐々に遠ざかって行った。



(………………助かったあああ………………)


 足音が止まっていたのは ほんの束の間だったが、玲二には長い長い時間に感じられ、疲弊した玲二は身体の力を抜いて脱力する。




(……ふう……って、休んでる場合じゃないってば! 早く電気を止める物を見つけなくちゃ!)


 力と気合いを入れ直した玲二は鉄の箱から出て、床に足を音を立てないよう静かにつける。



(よいしょ……さて、次はっと……)


 出ていく前に、さっきは慌てて隠れたのでロクに探索していない物置部屋をキョロキョロと見渡す。



 物置部屋だけあって鉄の箱や作業台、工具などが乱雑に置かれており、それら全てが錆びていたり一部分が欠けていたりしている。



 特に目新しい物も、妙な物も無い。


 だが、大きな箱に隠れて見えにくい扉が壁についていることに気づいた。



(扉だ……)


 玲二は慎重に扉へ近づき、扉の前にある鉄製の箱を押して退かせると、ドアノブを捻った。



 鍵は掛かっていなかったようであり、キイイと音を立てながら少し錆びている扉が開かれる。




 扉の先の部屋は一際広く、何も物が置かれていない。


 その広い部屋の奥で不自然に揺らめく青い光が見え、玲二が目を細めるが、遠すぎて光の正体がハッキリ見えない。



(何だろう)


 青い光が気になった玲二は部屋に入り、静かに扉を閉める。



 が、扉が閉まると同時にガンッという衝撃音が響き、玲二の左肩を何かが貫いた。




「あっ……ぐ……」


 激痛がはしり、違和感のある左肩を見ると、自分の血で赤く濡れている刃が貫通していた。



 そして その刃は躊躇なく一気に引き抜かれ、玲二は肩から血を噴き出しながら膝をついた。




「いっ……!! うううううっ!!」


 熱を帯びている傷口を右手で押さえる玲二。


 前面の傷口は強く押さえている お陰で、多少は出血を抑えられているが、背面の傷口からはダラダラと大量の血が流れて服を濡らしていく。




「いたいぃ……いたい、よ……お母さん……!」


 有理に腹を刺された時とは比べ物にならない痛みに、玲二の目から涙が零れる。



 ズキンズキンと疼く傷、ヌルヌルした温かい血液、そして火でチリチリと焼かれているような熱さ。


 今まで味わったことの無い、不快で苦しい痛覚に玲二は気が遠くなりそうになるが、唇を血が出るほど噛み締めて何とか意識を保つ。




「そんなことしなくても、意識は無くならないから大丈夫だよ」


 小さな穴が開いた扉を開き、大神が姿を見せる。



「大神……さん……!」


「残念ながら、ゲームオーバーみたいだねえ」


 そう言って笑うと、大神はデスサイズを振りかぶった。



 だが玲二の目から光は消えておらず、彼はまだ諦めていないようである。




「……オレが死んだらゲームオーバーなんでしょ? だったら……まだ終わってないよっ!」


 玲二は素早く拳銃を大神に向け、引き金を引いた。




 ガンッ ガンッ




 2発連続で撃ち出された弾丸は大神の胸に当たり、血飛沫を飛ばしながら大神がよろめいた。



「今のうちっ!」


 一瞬の隙を狙って、玲二は素早く立ち上がると部屋の奥にある青い光に向かって走っていく。



「……なかなか根性はあるねえ……見直したよ」


 胸にある傷口とコートの穴は瞬時に塞がり、周囲に飛び散った血もスウッと消え去る。




「確かにゲームは終わってない……つまり、まだ楽しみがあるということだね」


 わざとらしく、一歩一歩をゆっくり歩く大神。


 その狂人じみた笑みからは、この状況を心底 楽しんでいることが見てとれる。




「ハアッ、ハアッ……」


 全速力で青い光の前に来た玲二は目を閉じて膝を曲げ、乱れた呼吸を整える。




「ハア…………ふう……」


 何とか呼吸を整え、顔を上げると彼の目には青い炎が見えた。




(な、何……!?)


 玲二が さらに炎に近づいて覗きこむと、青い炎だけではなく、その炎の中に骸骨を模したレバースイッチが あった。


 青い炎のせいでレバースイッチ自体の色は分からないが、台座部分には細長い触手のような物が いくつも巻き付いており、レバーは本物の人骨かと思うほどリアルに作られている。




 不気味なレバーと、それを守るように包む青い炎。


 この明らかに異様な物体を見た玲二は、このレバーこそが黒斗の言っていた、工場内に電気を通している小細工なのだと予想した。



(これさえ止めれば…………だけど、この炎……やっぱり熱いのかなあ?)


 そっと右手で炎に触れようとするも、指先が触れる直前に熱を感じ、即座に手を引っ込める。




(や、やっぱり本物の炎なんだ……!)


 本物同様の熱さに躊躇する玲二。



 だが、このレバーを引かなければ誰も助からない。


 それに炎を消すような道具も無ければ探している暇も無い。



 レバーを引くには、この燃え盛る青い炎に手を入れて掴むしかないのだ。




(……兄貴の信頼に答えるんだ……!)


 服の袖を二の腕辺りまで捲り、ゴクリと唾を飲んでレバーを睨みつける。




(……いち、にの…………さんっ!)


 覚悟を決めて、玲二は両手を青い炎の中に突っ込んだ。




「うわああああぁぁああぁああっ!!」


 ジリジリと肌を焼き、焦がしていく激痛に悲鳴をあげるも、レバーから手を離さない。



「くううぅっ!!」


 脂汗で顔をびっしょり濡らしながら、玲二は必死にレバーを引き続ける。




 既に彼の手の皮膚は所々が黒く変色し、一部分が焼け落ちていき、皮膚を失った箇所からはザクロのように真っ赤な肉が顔を覗かせている。



 あまりの痛みに意識を手離しそうになるが、気絶なんかしていられないと――してしまったら全てが終わりだと、気を強く持って耐える。




(…………もしも、神様が居るのならっ……!)


 脂汗と涙でグチャグチャになった顔で、玲二が天を仰ぐと、ガタッとレバーが音を立てた。




「オレは どうなってもいいから…………兄貴と鈴ちゃんを、助けて下さいっ!!」


 その言葉を言い終えると同時にレバーは引き倒され、玲二は勢いそのままにレバーから手を離して、仰向けに倒れこんだ。




「ハーッ……ハア、ハア……」


 玲二がレバーを引いて数秒後、部屋を照らしていた照明から光が消え、部屋が闇に覆われた。


 どうやら玲二の予想通り、このレバースイッチこそが大神が仕掛けた小細工だったようだ。




「……やっ、たよ…………兄貴………………」


 使命を やり遂げて気が緩んだのか、玲二は弱々しく呟くと目を閉じて、深い闇の中へと意識を沈めた。




「………………」


 その一部始終を見ていた大神は、先程までの狂人じみた笑みから一変、何の感情も見えない無表情となっていた。



「……ゲームクリア、おめでとう」


 つまらなそうに呟き、もう玲二に興味は無いとばかりに大神は踵を返し、この場から立ち去るのであった。

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