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デスサイズ  作者: LALA
Episode8 復讐
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復讐7

 


 その頃 月影家




(…………そろそろ約束の時間、か……)


 電気が点いていない薄暗い自室で窓越しに外を見ていた黒斗は、スマホで時間を確認した後 乱暴にワイン色の遮光カーテンを閉めた。



(……竹長のバックには大神が居る……おそらく、奴は大神から俺の能力について聞かされている筈……確実に弱点は ついてくるだろう


 どうにか隙を見つけて反撃する手段を考えなければ…………竹長は倒せない)


 腕を組みながら、恵太郎との戦いの策を練る黒斗。




 光を当てられて魔力やデスサイズを封印される、圧倒的に不利な状況。



 こうなってしまったら、正攻法では恵太郎を倒せない。


 相手が普通の人間なら十分 倒せるが、恵太郎は大神に鍛えられており、腕力では敵わなくなっている。



 そんな黒斗が彼を倒すには、丈夫な身体を活かして攻撃に耐え、隙を見つけて反撃――もしくは光を消すしか無い。


 どちらの手段をとるにしろ、苦戦は必死だろう。



 だが退くことなど出来ない、出来る訳が無い。




(…………もう2度と、大切な者を失いたくない)


 グッ、と拳を握り締めた後 片手をかざしてゲートを開いた。


 ちなみに彼の服装は いつもの死神が纏う漆黒のコートではなく、灰色のシャツの上に黒いテーラードジャケットという私服である。




(………………橘は必ず助ける…………この命に代えても)




 揺るぎなき決意を胸に、黒斗はゲートを潜って決戦の場所へと(おもむ)いた。




 ******




 ゲートを抜けた黒斗は、大神に指示された廃工場の前に立った。



 長い間ほったらかしにされて、錆び付いている二階建ての大きな工場。


 あちこちの窓は ひびが入っていたり割れていたりしていて、腐食が進んで赤茶色に変色している外観は、人を遠ざけたり嫌悪感を抱かせるのに十分な不気味さである。



 そんな不気味な廃工場へ、黒斗は躊躇(ためら)うことなく入っていく。




 カン カン




 薄暗く、気味が悪い程に静かな工場内に黒斗の足音だけが鳴り響く。



(…………僅かに魔力を感じる……これは、竹長か……?)


 不意打ちにも反応出来るようにデスサイズを構え、全神経を張りつめる。




 暫く進んでいくと扉が現れ、黒斗は静かに扉を開いて中に入る。



 黒斗が扉の先に、一歩 足を踏み入れた刹那、薄暗かった工場内に光が瞬時に灯り、手にしていたデスサイズが溶けてしまう。


 眩しさに目を細めつつ天井を見上げると、吊るされている丸型の照明が光を灯していることが分かった。



(……この工場に電気は通っていない…………工場中から感じる微量の魔力から察するに、大神が小細工をしたな……)


 危惧していた通り、弱点をつかれてしまった黒斗。



 だが、この事態を想定していた お陰で動揺せずに平静を保っていられた。





「よう……久しぶりだなあ、ネクラ」


 暫く聞いていなかった声が響き、声がした方へ視線を向けると、青いチェック模様のワイシャツを着た恵太郎の姿が見えた。




「竹長……」


 狂気に満ちた笑顔を浮かべる恵太郎の顔を一瞥すると、直ぐに彼の右足へ視線を落とす。



 かつて自分が切り取った筈の右足。


 それなのに、今の彼には失った筈の右足が付いており、さらにその右足から魔力を感じられた。




「……その右足……再生した訳ではなさそうだな……どんな小道具を使ったんだ?」


「ケケッ……いいだろう、冥土の土産に見せてやんよ!」


 そう言って恵太郎は右足のズボンの裾を掴むと、これ見よがしに上げた。




「っ!」



 露になった恵太郎の右足を見た黒斗は、思わず息を呑んだ。




 恵太郎の右足には皮が無く、長腓骨筋(ちょうひ こつきん)短腓(たんひ)骨筋が含まれる下腿(かたい)外側の筋群が剥き出しとなっていた。


 それだけでなく、動脈や神経である細長い筋の所々にはギョロリとした気味の悪い目玉が いくつも付いており、それぞれが意思があるかのように黒斗を睨みつけている。



 筋や神経が丸出しで、目玉が付いている不気味な右足。




 この足に、黒斗は見覚えがあった。





「……大神から貰った不気味な足……詳しいことは知らねえが、この足は付けている者の身体能力を高める効果があるらしい……お陰で俺は強くなった……死神である お前と同じくらい……いや、それ以上にな!」


 興奮している様子で話す恵太郎の口からは唾液が漏れ、顎を伝って床に落ちる。



 一方、黒斗は彼の右足の正体を思い出し、忌々しそうに眉を潜めてソレを見つめた。




「……冥界(めいかい)で開発された強化パーツ……。 お前は、ソレがもたらす効果が何なのか分かっているのか?」


「分かってるさ……!」


 言い終わるや否や恵太郎の姿がフッと消える。



「っ!」


 恵太郎の姿を探すべく周囲に視線を走らせようとした刹那、目の前に恵太郎が出現した。


「何処を見てんだよ!」


 頭部に向けて振り回してきた右足を咄嗟に腕で防御をするが、凄まじい力に押されて放物線を描きながら黒斗は吹き飛んだ。



 吹き飛ばされた黒斗の身体が、部屋の隅に置かれていた鉄製の箱へ勢いよく叩きつけられると、凄まじい衝撃音と共に埃が混じった煙が舞い上がり、黒斗の姿を隠す。




「アハハハ……どうだ、強化された肉体による渾身の回し蹴りの味は? それとも、もう くたばっちまったか?」


 ゲラゲラと笑いながら煙があがっている場所を見つめる恵太郎。


 数秒が経過して煙が晴れると、壊れた箱の破片がガタリと音を立て、ゆっくりと黒斗が起き上がるのが見えた。


 黒斗の生存を確認すると、恵太郎は「そうこなくちゃ面白くない」と呟き、唇を蛇のようにチロリと舐める。



 起き上がった黒斗は額から流れる血を拭い、血混じりの唾をペッと吐き出して恵太郎と対峙する。





「……その足は、肉体を強化すると同時に装着者へ代償を強いる。そして、お前は代償を既に払っている」


「代償? 俺が何の代償を払ってるってんだよ? 何も失ってなんかない……むしろ俺は満たされていく一方だぜ!?」


 胸を張って得意気な顔で高々と言う恵太郎。


 そんな彼を見た黒斗は呆れたように溜め息を吐き、ゆるゆると首を横に振った。




「代償は精神……そのパーツには意思があり、装着者に力を与える代わりに精神を(むしば)んでいく」


「はあ? どういう意味だよ?」



「……精神の侵食だ。装着者の精神は やがてパーツに乗っ取られ、完全に自我が消える。そして文字通り、パーツの操り人形と化す…………」


 黒斗の言葉を聞いた恵太郎の背中を冷たいものが伝う。




 ─代償が精神?



 ─俺の自我が消される?



 ─俺が俺でなくなるって ことなのか……!?




 困惑の表情を浮かべる恵太郎に、黒斗は さらに続ける。



「今のお前の意識は、殆どパーツに支配されている。関係の無い極道や警官を殺した理由が分からなかったが、侵食が原因だったら合点がいく」


 淡々と喋る黒斗の言葉は、もう恵太郎の耳に届いていなかった。




 ─今の俺は“俺”じゃない……?



 ─俺の意思じゃなくて、この足の意思で動いてるってのか!?




「……………………違う……」


 頭を両手で抱えて、ポツリと呟く恵太郎。




「違う、違う、違う!! 俺は俺の意思で行動してんだ! こんな足に操られてなんかねえっ!! 自分の意思で、お前を殺そうとしてんだよ! 紛れもない俺自身の意思で!」


「……ただ俺を殺すことだけが目的か?」


「そうだ……! テメエをぶっ殺すことだけを考えて、血ヘドを吐くような特訓をしてきたんだ……!」


「…………お前の大好きな兄の敵討ちはどうした?」


 抑揚なく呟かれた言葉を聞いた瞬間、恵太郎の顔から笑みが消えた。




「……今のお前に兄のことなんか頭に無い……」


「うるせえ!」


「良いように使われている、哀れな操り人形……」


「うるせえっつってんだろうが!!」



 激昂した恵太郎が真正面から拳を突きだすが、その勢いやスピードは先程の回し蹴りと比べれば遥かに弱い。



 黒斗は恵太郎の動きを見切ると、彼が突きだしてきた拳を入り身転換して捌き、手首を掴んで外側に投げて床に叩きつける。



「ぐえっ」


 うつ伏せに倒れ、潰れた(かえる)のような短い悲鳴をあげる恵太郎を、そのまま押さえ込む。




「兄に対する愛情は、精神支配で簡単に消えるようなものだったのか? 笑わせてくれる」


「……俺が兄ちゃんにどれだけ情を持っていたのか知らないクセに!! 親も兄弟も居ないテメエに何が分かるっ!!」


 押さえつけられたまま叫ぶ恵太郎を、黒斗は無表情で見つめている。




「大神から聞いた……兄ちゃんは自分の夢を潰したクソ女に復讐して、テメエに殺されたと……。確かに兄ちゃんは犯罪者だった、だけど殺す必要なんか無かっただろっ!!」


「有益な証拠や証言が無かった竹長 伸也は法で裁けない罪人であり、三度も間接的に殺人を犯した。だから俺が裁きを下した、それだけだ」


「たかが3人を殺したくらいで死刑かよ? テメエの物差しで人を図って裁きと称して殺して……正義の断罪者気どりか、ああ?」



 恵太郎が嘲るように言うと、黒斗が手首を掴む手に力を込め、痛みに恵太郎の表情が一瞬 歪んだ。





「命を“たかが”扱いか……兄が兄なら弟も弟だな……復讐の為に関係の無い人間を巻き込み殺す……。いや、恩人とも言える友人を巻き込んだ分、お前の方が悪質だな……」


 黒斗は恵太郎は手首を掴んだまま、片足を彼の右足へ乗せ、体重を乗せる。




「は、ぅあっ!」


 剥き出しの神経を直接 踏まれ、身体中に電撃が ほとばしり、脳が破裂しそうな激痛に襲われる恵太郎。


 痛みのあまり身体が跳ね起きそうだったが、黒斗に押さえつけられているせいで それも叶わず、唯一 自由な左足をバタつかせるも痛みは変わらない。



 それどころか、黒斗が体重を乗せたまま足でグリグリと踏みつける為に痛みは増す一方である。



 いくら装置の足とは言っても、神経は彼と繋がっている為、本物の足と同じ痛みがあるのだ。



「ぎぃ、ああああぁあぁあ!!」


 耳を塞ぎたくなるような、けたたましい悲鳴。


 それを間近で聞く黒斗は眉1つ動かさない。



「橘は何処だ」


「ひぎぃ、いっ……!」



 直接踏まれている後脛骨動脈(こうけいこつどうみゃく)が傷つき、ブシュゥッと鮮紅色(せんこういろ)の血が噴き出す。




「……お前自身は、彼女を傷つけることを望んでいないんじゃ無いのか?」


「ひぅ……ぐ……」


「そんな装置なんかに支配された状態で俺を殺して満足か?」



 淡々とした黒斗の言葉を聞き、狂気に満ちていた恵太郎の心に迷いが生じる。




 ─橘は……俺を信じてくれた、大切な親友



 ─そんなアイツを殺す……?



 ─冗談じゃ……ないっ!




 恵太郎の瞳に光が戻り、それを確認した黒斗が乗せていた足を退けた。



 未だに続く痛覚に全身が麻痺したようにビリビリしているが、右足の重りが無くなりグッタリと疲弊する。





「……橘を解放しろ。その後で、ゆっくり俺の相手をすればいい」


「………………」


 力無く頷こうとする恵太郎。


 だが その刹那、頭に鈍い痛みがはしり、脳裏に声が響いた。




 ─コロセ




(な、何だ……お前っ!?)




 ─スベテ コロセ シニガミ モ オンナ モ ミナゴロシ ダ




 声が響く度に、自分の心が自分から離れていくような気がした。


 まるで何かが心を持っていこうとしているような、言葉で言い表すのに難しい奇妙な感覚。



 この感覚に、恵太郎は思い当たる節があった。




 “装着者の精神は やがてパーツに乗っ取られ、完全に自我が消える”




 黒斗が言っていた強化の代償。




(まさか……この足がっ……!)




 ─ナニ モ シラナクテ イイ



 ─オマエ ハ ワレ ニ ツカワレテ イレバ イイノダ




 恵太郎の右足に、雷がバチバチと音を立てながら はしる。



 すると押さえつけられていた恵太郎は凄まじい力で黒斗の手を振りほどき、さらに狂気に満ちた笑顔を浮かべて彼と対峙した。




「……殺す……殺す殺す殺す殺す殺す!! お前も橘も、皆殺しだあっ! アヒャヒャヒャ!」


 焦点の定まらない虚ろな目で黒斗を見つめる恵太郎。



 せっかく正気を取り戻しつつあったのに、装置が彼の精神を一気に侵食してしまったようである。




「チッ……簡単に支配されやがって……!」



 装置に操られてしまった恵太郎に悪態をつきつつ、黒斗は戦闘体勢をとった。



 魔力が使えない状態で、どこまで やれるかは分からない。


 だが、鈴を助ける為にも殺される訳にはいかない。



 絶対に負けられない理由が、黒斗には あるのだ。




「……状況を開始する」


 気を引き締めるべくポツリと呟くと、黒斗は恵太郎との戦闘を開始した。

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